俺だけ魔力が買えるので、投資したらチートモードに突入しました

白河リオン

文字の大きさ
63 / 173
第六章 「アキュムレーション」

第52話 「廃棄姫と閃光姫」

しおりを挟む
 模擬戦の会場には、既に多くの観客が集まっていた。

 舞台の中央に立つ二人。

 一人は「閃光姫」の異名を持つルミナス家の次女、エリーナ・ルミナス。その名を聞くだけで、誰もが畏怖を覚えるほどの実力者。もう一人は、俺の相棒――アイラシア・ルミナス。周囲からは「廃棄姫」と呼ばれ続け、誰からも期待されなかった少女。

 ここにいる観客のほとんどが、エリーナの圧倒的な勝利を信じて疑わないだろう。

 俺の耳にも、そんな声が嫌でも届いてくる。

「相手は閃光姫だぞ。廃棄姫じゃ話にならん」

「一撃で終わりだろうな」

「むしろ、よくこんな見世物を組んだもんだ」

「エリーナ様は何を考えているんだ?」

 嘲笑と冷笑。それは俺が初めてアイラと出会った時、魔法士ギルドのロビーで耳にしたものと同じ響きだった。

 と思う者など、誰一人いないはずだ。そう、俺以外には。

 開始を告げる鐘が鳴った瞬間、舞台の空気が爆ぜた。

 エリーナの放った光弾が、矢の雨のようにアイラへ襲いかかる。直線だけでなく、角度を変え、複雑に絡み合って押し寄せる。まさに閃光姫と呼ばれる所以ゆえんだ。

 俺の目には、その光が舞台を白一色に塗りつぶすように映った。

 観客席からどよめきが起きる。

「すごい……もう終わるぞ」

「廃棄姫なんて相手になるわけがない」

 その声は容赦なくアイラに向く。だが、舞台の上でアイラは逃げなかった。展開した防御魔法の膜が、次々と光弾を受け止めている。

 エリーナの魔力は桁違いだ。一発一発の密度が高く、防御を削っていく。アイラの額には汗が浮かび、腕は震えていた。

 観客はそれを「限界の兆候」としてわらった。

 アイラの防御魔法が、攻撃を受け止める度に、手元アルカナプレートからディムが少しずつ削られていく。

 ほんのわずかな量。最低限の魔力を使ってアイラは攻撃を防いでいる。

 ――そういうところはアイラらしい。だけど金の遠慮はいらない!

 ――俺は知っている。アイラは強い。どんな天才でも追いつけない速さと強さを持っている。
 
 問題は、その一歩を踏み出せるかどうかだ。

「……っ」

 気づけば俺は立ち上がっていた。観客席の列を押しのけ、人波をかき分けて最前列に飛び込む。自分でも制御できなかった。ただ黙って見ていることが許せなかった。

 喉の奥から声が溢れる。

「やっちまえ――アイラーッ!!」

 大観衆の喧騒を突き抜け、俺の叫びが舞台に届く。

 その瞬間、アイラの肩がピクリと震えた。金色の瞳がこちらをとらえる。

 アイラの表情が、一変した。迷いを振り払い、強い光をその瞳に宿す。まるで「待っていた」と言わんばかりに。

「……はいっ!」

 短い返事とともに、アイラの周囲に幾重もの魔法陣が展開する。

 アルカナプレートが光る。残高が引かれているのだろう。だが、今はそんなことはどうでもいい。

 魔法陣の光が花開くように重なり合い、空気が震える。観客が息を呑んだ。

 次の瞬間、鋭い水流が弾丸のように放たれる。

 高速で起動された水の魔法が、光弾を切り裂き、エリーナへ迫った。

 エリーナの顔色が変わる。即座に防御魔法を展開するも、かすかな飛沫が頬を打った。観客席から大きなどよめきが上がる。

「今、通ったか!?」

「馬鹿な……廃棄姫が……」

 俺は拳を握りしめる。そうだ、見せつけてやれ。

 誰もがあざけった少女が、最強の魔法士であることを。

 アイラは畳みかけた。

 高速で魔法を次々に起動し、連射する。小柄な身体が弾けるように舞台を駆け、光と水が激突して爆ぜる。

「あれ、身体強化も使ってないか?」

「なんだ、あの動き」

 観客はもはや嘲笑する余裕を失い、歓声と悲鳴、驚嘆が入り混じるざわめきへと変わった。

 舞台を切り裂く水刃が、火槍と衝突して爆風を巻き起こす。俺の視界も水蒸気に覆われる。水蒸気の中、アイラの姿がちらりと見えた。強く前を向いている。その姿は、もうあの弱々しい少女ではなかった。

 エリーナが初めて表情を歪める。妹を認めまいとする意地が透けて見える。だが現実は残酷だ。アイラの攻撃は、確かにエリーナの防御を削り取っていた。再び水刃が走り、エリーナの肩をかすめる。布が裂け、鮮やかな赤がにじむ。観客が息を呑んだ。

 俺は胸の奥で叫ぶ。

――やれる。

 エリーナは魔力を高め、さらに強力な火槍を解き放とうとした。だが、その直前――。


 ドーン、ドーン、ドーン。


 低く重い鐘の音が、会場に鳴り響いた。

 ……違う。これは模擬戦の合図ではない。

 街全体に非常を告げる、防衛警報の鐘だった。

「緊急事態発生! 模擬戦を中止、魔法士は指定集合地点せよ!」

 観客席が騒然となる。誰もが顔を見合わせ、出口へ殺到し始めた。

 伝令の声が響き渡る。舞台の二人も動きを止めた。エリーナの瞳に怒りと焦燥が浮かぶ。

 俺は柵を飛び越え、舞台へ駆け寄った。

「アイラ!」

「アルさん!」

 荒い息を吐きながら、アイラが俺の方へ走ってくる。

「ああ、大丈夫か!」

 俺はアイラの手を強く握った。その手は熱を帯び、まだ戦いの余韻で震えていた。

 さらにフィリアとエルヴィナが合流する。フィリアは険しい表情を崩さない。

「アルヴィオ、ただ事ではありませんわ。あの鐘の音は……街の防衛警報ですわ」

 さらに、レイラが現れた。背後には元気よく手を振るティナの姿。

「少年、厄介な事態だ!」

「お姉さんに任せなさい! バッチリ守ってあげるから!」

 ティナは笑顔を浮かべていたが、その瞳には緊張が宿る。

 すぐにリックも駆け込んでくる。

「アル、これは……嫌な予感しかしないぞ」

 その時、レイラの部下が駆け込んできた。顔は青ざめ、声は震えていた。

「報告! 近隣のダンジョン『薄明の洞窟』から、大量の魔獣が発生との報です! 群れを成して、こちらに向かっています!」

 観客の逃げ惑う声が遠くで響く。鐘の音はなおも街全体を震わせていた。

 薄明の洞窟――つい先日、俺たちが訪れた場所だ。

 その奥から溢れ出した魔獣の群れが、今この街に迫っている?

 あそこには、大量の魔獣などいなかったはずだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法至上主義の世界で『筋力』だけカンストした男が拳一つで全てを覆す

ポポリーナ
ファンタジー
魔法こそが至高——この世界では呼吸も移動も戦闘も、あらゆる営みが魔力で成り立っている。 筋力は「野蛮人の遺物」と蔑まれ、身体を鍛える者は最底辺の存在とされていた。 そんな世界に転生した元・体育教師の剛田鉄心は、魔力適性ゼロ、しかし筋力だけが測定不能のカンスト値。 魔法障壁を素手でぶち抜き、転移魔法より速く走り、最上位魔法を腹筋で弾く—— 「なぜ魔法を使わないんだ!?」と問われるたびに「だって使えないし」と笑う男の、 常識を腕力でねじ伏せる痛快・逆転無双が今始まる!

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! 圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

異世界帰りのハーレム王

ぬんまる兄貴
ファンタジー
俺、飯田雷丸。どこにでもいる普通の高校生……だったはずが、気づいたら異世界に召喚されて魔王を倒してた。すごいだろ?いや、自分でもびっくりしてる。異世界で魔王討伐なんて人生のピークじゃねぇか?でも、そのピークのまま現実世界に帰ってきたわけだ。 で、戻ってきたら、日常生活が平和に戻ると思うだろ?甘かったねぇ。何か知らんけど、妖怪とか悪魔とか幽霊とか、そんなのが普通に見えるようになっちまったんだよ!なんだこれ、チート能力の延長線上か?それとも人生ハードモードのお知らせか? 異世界で魔王を倒した俺が、今度は地球で恋と戦いとボールを転がす!最高にアツいハーレムバトル、開幕! 異世界帰りのハーレム王 朝7:00/夜21:00に各サイトで毎日更新中!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

処理中です...