強肉弱食の世界より愛を込めて

Damボール

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プロローグ

プロローグ

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一人の少女が立っていた。丈を短めに切りそろえたセーラー服に大きな髪留めでまとめ上げたサイドテール。目はキリっとした釣り目で、まだ若さの残る白い肌をしてる。これだけ見れば彼女はどこにでもいる高校生だろう。しかし明らかに彼女は非常識のド真ん中にいた。それもそのはず、彼女の立っている場所はもう崩れ去ってしまったビルの瓦礫の上。そして彼女の左手には、大きな薙刀なぎなたが握られているのだから。
「もうすぐ夕方だし…早めに終わらせないといけないのに…」
薙刀を握りなおし、彼女はもっと高いところにある瓦礫まで跳躍した。そこでもう一度あたりを見回す。
旧市街。見通しが悪く、「獲物」を見つけるのには一苦労する場所だが……運よくそれはすぐに見つかった。彼女が探しいていたのは巨大な生物。これが今日の夕食になるのだ。その生物は…丸い形状の…非常に豊富な皮を持つ…そして人間を見ると本能的に襲い掛かってくる…全長7メートルほどの…

玉ネギ、である。

「よぉーっし!結構大きいサイズだし、これは絶対狩るぞー!」
そう言って彼女は瓦礫から飛び降りようとして…ふと違和感に気付いた。玉ネギの挙動がおかしいのである。体にある巨大な目は常に一点を見つめていて…そこに向かって体当たりをしているような光景。そう、そこに人がいるかのように…。
そのことを察知した彼女は瓦礫から飛び降りるのではなく、。彼女の持つ薙刀が青白く発光する。旧市街に残っている建物の壁を蹴りながら物凄いスピードで玉ネギに接近し……その丸い巨体を切り裂いた。最初は先端だけ。そこから徐々に切れ込みを作っていき、効率よく皮をはがしていく。一太刀入れるごとに怪物の体は小さくなっていき…1分足らずで手のひらに収まるほどの大きさになってしまった。最後は小さくなってしまってカタカタ震えているそれを真っ二つにしてしまう。彼女は満足そうな顔で、玉ネギからはぎ取った皮の回収をしようとしたところで…何かを思い出した。
そうだ。誰かいるかもと思って急いだんだった。慌てて周りを捜索。するとひと際大きな皮の下で、誰かがつぶれているのが見えた。慌てて皮をどかす。
「あ、ありがとうございます…助けてもらって…」
そこからはい出てきたのは一人の男だった。少し丸い顔、大きく垂れた目。髪は前髪以外を逆立ててセットしているのであろうか。年齢は彼女と同じくらいだった。
「いやいやぁ、玉ネギ欲しかっただけだってー!」
そういいながら彼女は男を立ち上がらせる。
「それにしてもずいぶんと珍しいことですね。ここまで辺境と言われる場所に『捕り屋とりや』がいるなんて…」
捕り屋。この仕事は、この世界ではとても重要である。正確な情報はないが、ある日突然、何らかの原因で植物や、植物を主食とする動物が巨大化し、人間に反乱を起こした。あまりにも唐突な事だったため、人間側は、対処に時間をかけすぎてしまい、結果、人間の文明は崩壊してしまい、代わりに巨大生物たちが覇権を占めるようになった。だが人間も生きるためには食物を取り入れなければならない。そのため、巨大化した植物や動物を狩る者が必要とされた。それが捕り屋だ。現状、捕り屋以外は狩りを行ってはならないと取り決めはされているが、世の中には、仕事などでも稼ぐことが出来ず、人間たちの住む街をを離れて自給自足の生活を送らなければならないものもいる。
「僕はシロウと言います。一般人の狩りの禁止はわかっていますが…どうか、見逃してもらえないでしょうか…?」
この男――――シロウもまた、法律に違反する者だった。ここまで捕り屋がやってくることはないだろうと思って狩りをしていたのだ。しかし見つかってしまってはしょうがない。最後の賭けとして、頼み込んでみたが、彼女の反応は意外なものだった。
「あ、私もだよー!奇遇だねぇ!あ、私の事はカナって呼んでくれていいよ!」
「え?貴方もなんですか…?」
シロウは驚いた。ここまで腕のいい薙刀使いが、捕り屋じゃないのか?と。そんなシロウの心中なんか気にすることもなく、少女――――カナは、
「ねーねーおなかすいたしご飯食べよー?どうせ1人分作るのも2人分作るのも変わらないし」
と、シロウに笑いかけた。

今日調達したのは、人参、玉ネギ、ジャガイモ、枝豆の4つである。これを適当な大きさに切り、カナの持っていた鍋の中に突っ込み、火にかける。軽く味付けなどをしながら煮込んでいき、それを皿についでシロウに差し出した。
「今日はねぇ、野菜スープだよー!」
と元気に話す彼女の手には……例のガキ大将も真っ青になるほどおどろおどろしいスープのような何かが入っている皿があった。食べられないことはないのだろうが、食べたら致命傷になるそうなのは間違いなしで…
「すいません、えと、カナさん…で合ってましたよね?」
シロウは…
「うん、どしたの?」
カナの瞳をまっすぐ見つめ…
「とても食べられるものじゃなさそうです。僕が作ってみてもいいですか?」
この世の女性に言ってはならない言葉ベスト3に余裕で入るであろう言葉を口にした。
「……え?ま、まぁいいけど…食べられなさそうって…」
カナは笑顔をキープしていたがもう眼に力が全く感じられない。キャンプするときに使うイスにへにゃっと座ってしまった。そんなカナを尻目に、シロウは着々と準備を進める。人参とジャガイモは賽の目状に、玉ネギは薄く切って、枝豆は元々のサイズが大きいので細かく刻んで、まとめて鍋の湯の中に投下。それを塩と胡椒で味を調節しながら、シロウが持ち合わせていた豚肉と一緒に煮込む。1時間もしないうちに、今度はオレンジ色のスープが眩しい、野菜と肉のの煮物へと姿を変えてしまっていた。それを皿につぎ、カナの前に突きつける。料理って言うのはこうするものなんだといわんばかりに。ちなみにカナのスープはタイミングを見計らって外に撒いておいた。除草剤代わりになればいいかなと思って。
「え、待ってめっちゃ美味しい!元気が出てくるよー!」
そういいながら巨悪の権化(カナ)は煮込みを平らげていく。料理が苦手だった分、ちゃんとした物を食べるのは久しぶりだったのだろう。なんとも幸せそうに食べるものだ。その姿を見て、シロウは大きな疲れと、少量の達成感を感じていた。

食事がひと段落ついたかなと感じたところで、シロウはカナに聞きたいことがあったのを思い出した。
「カナさんは…どうして街を出たんですか?」
基本的に貧困な人でも、毎日の食事が安定するくらいの保護を受けることが出来る。それをしない理由を聞きたかったのだ。
「うーんとね、私は…あの日、中央街の学校で授業を受けてたんだ…」
中央街の学校はシロウも知っている。そこそこ有名な高校だったはずだ。何より…
その中央街が、この地獄が始まった場所でもある。
「知ってるよね。この学校が最初の被害地だったって事。私はあの事件が起きた時、運よく逃げることが出来たんだけど…」
確か、中央街の被害は尋常ではなかった。生き残れた人はほんの一握り。その運が良い者たちの一人にカナは入っていたというわけだ。
「家に帰ったらね、私のお父さんも、お母さんも、天井の下敷きになって死んでたの。屋根には牛の蹄の跡があったんだ…」
牛。正確には牛肉。一個体それぞれが非常に大きく、凶暴で、実質中央街の被害のほとんどはこの牛が原因ではないかと言われているほどの力をもっている。特に恐れられているのはその巨体から繰り出す突進。その突進のルートにカナの家が重なってしまったのだろう。シロウは苦い顔をした。
「頑張って瓦礫をどけて、家の中に入れたけど…ぐちゃぐちゃで…もう住めるような場所じゃなかったよ…でもこれを見つけた。」
そう言ってカナは脇に置いてあった薙刀を手に取った。
「家の中の家具でね、これだけが光って見えたの。『これを使って戦って!』って言われたみたいな感覚が頭に入ってきて…だからね、私、自分であの牛を探して狩りたいの。誰かに頼んでとかじゃなくて、自分で。」
そしてカナは目を伏せた。普通の高校生が街を出る理由なんて、大体悪い思い出がつきものなのだから、悪いことを聞いたなとシロウは思った。
「はい、次シロウの番!シロウはなんで街を出たの?」
唐突な無茶ぶり。でもシロウは答えた。
「僕の家は武家なんです。そこの子供は皆、大人になる前に、一つの武器を極めなければならないという変わった習慣があったんです。僕はいわゆる器用貧乏で、いろんな武器を扱ってきたんです。剣、弓、刀、銃とか…色々。そしてあの災害が起きた。皆バラバラに逃げたのですが…生きていたのは僕だけみたいでした。避難所に移動する前に何か買っておこうと思って、近くの骨董品店に行ってポケットに入れていた今までお守り扱いしていたコインを1枚渡して、これで何かいい武器を譲ってくれないかと頼んだんです。」
ここで一度カナの方を見る。泣いていたのかもしれない、カナの顔が少し赤くなっていた。
「今思えば運命でした。僕の父は僕に『このコインだけは手放すな。いつかきっと使うときが来るといわれている』と言ってたんです。その時がまさにこの時だと僕は思ってたんです。………店主が持ってきたのはこの店一番の代物だったみたいです。それが、これ。【鬼砕きさい】です。」
シロウは腰に付けた2つの小型ハンマーを軽く見せつける。ところどころ金の装飾がされているそれは、小さいながらもとても堂々とした威厳を見せていた。
「これを使いこなせれば、父や同じ家の仲間の仇を取れるんじゃないかと思って…こっそり街から逃げたんです。」
いざ自分で語ってみてわかったことだが、どうやらカナとシロウは過去が少しだけ似通っているようだ。
「そうだったんだー!一人で大変なのに、よく頑張ろうと思ったねぇー!」
カナは椅子の上でぴょんぴょん跳ねる。それがやけに小動物らしく見えて、シロウは少し笑ってしまった。
「んー?何急に笑ってー!」
「いえいえ、ごめんなさい、フフ。それにしても、この後どうしようか僕は迷ってるんです… 敵を討ちたいと思って出たものの、何を敵にすればいいのか…わからなくなってしまって…」
この言葉を発した瞬間、シロウは「あ、やっちゃった」と思った。カナの目がきらりと光ったからである。
「行き先が無い!?じゃあ私と一緒にやろうよ!牛探し!!」
やっぱり。嫌な予感的中。シロウとしては、一人で旅を続けたほうが有意義だと思っていた。
「いやぁ…それはどうかなぁって…」
「やりたいことないんでしょ?ならいいじゃん!私、もっとシロウの料理食べてみたいし!」
カナはそう言ってにこりと笑う。シロウは「自分って案外ちょろい性格なのかな…」と思いながら
「はぁーーー…しょうがないですね…」
と、どこかまんざらでもなさそうに答えた。
こうしてカナとシロウというコンビが爆誕したのである。しかし、シロウはこの関係は一時的なものだと思っていた――――
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