強肉弱食の世界より愛を込めて

Damボール

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1章

空腹コンビと「妖」の闘士

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「俺の名はギル!お前の『五光』をいただきに来たぜ!」
チェーンが付いたズボン、白シャツの上に学ランを改造したような黒いローブ。頭にはダービーハットと、全体を黒で統一した身なりをしている男―――ギルは、高らかにそう言った。肝心なカナとシロウはと言えば―――


「ほらね?こんな感じで、盗賊とかがやってくるんですよ。こういう時はどうすればいいかというとですね…」
「ほぇーー、これが盗賊さんなのー?いきなり会えてびっくりしたよー!」
全く気にしていない。それもそのはず、ギルはお世辞にも体が大きいとは言えない。むしろ小さいほうではないのだろうか。ギル自身若いのだが、その姿のせいで、「若い」よりも、「幼い」に見えてしまう。そして、ギル自身も、そのことを非常に嫌っていた。

「だああああああああああっ!!テメェらもか!!その女が持ってんのは五光なんだろ?俺はそいつを回収しに来たんだ!」
「なんで同じこと2回言ってるんですか?」
「なんだよ!俺の話聞いてたのかよ!」
ギルは頭をガシガシと掻いた。
「だめだよ?これは私が使ってるんだから。」
カナはギルを正面で見ながらそう言った。これをなくしては、カナは新たに武器を手に入れるまで狩りが出来ない。そんなことはごめんだ。
「んなこと知ってる。だから早速だが、実力行使ってやつをしてやるよ。」
そう言ってギルはファイティングポーズをとる。彼の手には、太陽をイメージしたかのような黒い手袋が付けられていた。
「メリケンサックですか…。あなたも捕り屋なんですか?」
「捕り屋?んだそれ。おい、時間稼ぎとかすんじゃねえぞ。俺だって忙しい。来んなら来やがれ。」
はぁ…とシロウはため息を一つ付き、カナに背中を向けるような形で立った。
「さっさと帰らせて、今日のテント張りましょうね、カナさん。」
そう言って鬼砕を構える。
「1人で良いのか?あ?」
「構いませんよ。」
「言ったな?」
ギルはギロリと笑う。その瞬間シロウを襲ったのは、濃厚な殺気。まるで空気が質量をもったかのような感覚。
「(この人…、思ったより手ごわいかもしれない…。)」
シロウは気を抜かない。今自分が倒れてしまったら、カナさんにも危険が迫るから。なるべく自分の力だけでこの男は倒しておきたかった。それにしてもこの威圧感…まさかあのメリケンサック…
「ハンマーか。………俺を舐めるなよ。」
シロウが最悪の結論に気付く前に、ギルはもう「力」を発動させた。
シロウはカナに説明し忘れていた。『五光』が『力』を発動させるには条件があること。それはとある一定の感情が関係しているのだが、五光の種類によって、その必要な感情というものが違ってくる。目の前にいるギルが放った殺気。殺気とは闘志。戦いに飢える者の感情。ギルの後ろに魔法陣のようなものが一瞬現れる。そこに刻まれていた文字は…
「『妖』の五光使いっ…!」
「え?この人も五光持ってるの?」
「なんだ、知ってたのか。まぁいいや。お前をブッ飛ばして、俺はその五光をいただく!!」
ギルが大きく前に飛び出す。五光の力により、魔法はギル自身に掛かっているため、恐ろしいほどのスピードが出る。半分勘でシロウは最初の一撃を防いだ。普通のハンマーならその衝撃に粉々になっていただろうが、幸い鬼砕は大丈夫なようだ。それでもかなりの威力、シロウは4メートルほど後ろに吹き飛ばされた。土埃つちぼこりでシロウは一瞬ギルの姿を見失った。そこをギルは見逃さない。さらに距離を詰め、シロウの体の随所に拳を叩きこんでいく。シロウは防戦一方で、なかなか反撃が出来ない。
「(どうしよう…このままだとジリ貧です…。何とかしてこの状況を打開しないと…。)」
ちらりとカナの方を見る。カナはいつものぼけっとした顔ではなく、不安そうな顔をシロウに向けていた。自分もカナの持つ薙刀のように、カウンターが狙えるような武器だったらよかったのに…。そこでシロウにある考えが浮かんだ。上手くいくかはわからないし、五光の力を使っているギルに効くかもわからないが、このままやられるよりは賭けに出たほうが良いと判断した。一度ギルから距離を取る。
「逃げんのかぁっ!?」
ギルはまた一瞬でシロウの目の前まで迫る。そしてまた拳を振る。その瞬間をシロウは待っていた。その拳に合わせて鬼砕を振る。ギルの手が鬼砕に当たったその時にシロウも反撃に出た。
らいっ!!」
鬼砕が雷を纏う。その電気は触れているものを感電させるという力を持っている。それは、今当たっているギルの拳も例外ではない。
「うぉっと!?」
ギルはすぐに身をひるがえしシロウから離れたところに着地した。やはり五光で強化された体に大きなダメージを与えるのには鬼砕はパワー不足だった。
「舐めやがって…!だが奥の手は見せたな。次は油断しねぇ、行くぞっ!!」
そう言ってギルは再び距離を詰めようとして………。

ずずぅん・・・・・・・・・

という轟音に足を止めた。
「「!?」」
ギルとシロウは音のした方を見る。
「あ?もう起きたのか?」
「里芋……。また厄介な。」
恐らくここで高密度の魔法が飛び交ったからだろうか。それとこの音。これが近くにいた里芋の興味をそそったのかもしれない。どちらにせよ、まずい状況なのは確かだった。里芋はねばついた液体を放出することで、機動力を制限し殺害するといった方法をとる。下手すればシロウ、ギル、カナの3人で共倒れだ。
だがギルの判断は素早かった。
「クソがっ…。まぁいい。今日はここまでだ。だがな、力の差はもう十分にわかったろうが?次くるまでに覚悟を決めておくんだな。」
そう言ってどこから出したのかわからないが、バルーンを使って空に逃げて行った。
「シ、シロウ!大丈夫だった?」
カナが心配そうに駆け寄る。
「えぇ、大丈夫です。まっすぐな攻撃ばかりで、防御しやすかったので…。それよりも、あいつをどうにかしないと。」
そう言って里芋の方に向き変える。里芋の発射した液体は軽く躱し、カナとシロウは獲物に切りかかる。結果から言うと簡単に倒せたのだが、シロウはあのギルという男のことが頭から離れなかった…。




「チッ………しくじった。」
ギルは地団駄を踏んだ。ここはとある場所。国が作った仕事である「捕り屋」でも、カナやシロウのような非合法な者でもない者が集まった組織。ギルはそこの一員だった。
「んおぉ?ギルさん荒ぶってんねぇ…。まぁ落ち着けよ、失敗したのはお前さんの運が悪かっただけさ。昔っからそうなんだろ?」
拍子が抜けたような軽い声が奥からかかる。ギルは舌打ちを打つ。またこいつか。相変わらずイライラさせてくれる。
「お前には関係ねぇだろうが。ブリード。」
ブリードと呼ばれたその男は肩をすくめる。
「関係ないだってぇん?俺とギルさんは一応パートナーだぜ?相棒の失敗を嘆かないパートナーがどこにいるってんだい。」
「うぜえええええええええんだよお前!!!黙ってろ!」
ギルは声を荒げる。どいつもこいつも…。
ギルがぶつぶつ言ってる間にブリードはさらに言う。
「ようっし!そろそろ俺の出番か。安心しなさいな、ギルさん。俺がしっかりと五光をもってきてやるからよ?な?」
「ふざけんじゃねぇっ!お前はずっとそこのソファで寝てりゃいいんだよ!」
「あら辛辣だなぁ…。まぁまぁギルさん、一回俺に任せて、ゆっくり休憩してくんねぇか?お前もきついだろ?」
「だぁら、お前の助けとかはいらねぇって―――」
ギルがここまで言ったときまた声がかかる。ただし直接ではなく、放送機材を使って。
『ギルよ………。ここはブリードに任せてみてはどうかな。短気は損気という。いちどゆっくり頭を冷やしてみるといい。』
ギルよりも上の役職に就くものの声だ。だがそんなことはどうでもいい。ギルは悪態をつく。
「はぁ!?お前もこいつブリードのほうが良いって言うのか!?」
返答は無言。ギルは「だあああああっ!なんだよお前らは!!!」と言って提案を飲んだ。
「すまねぇなギルさん。だがここはこのブリードさんにお任せしてくれよ。俺が失敗したらまたギルさんがやっていいからよ?」
そう言ってブリードはソファから身を起こす。もう時間は残されていない。一刻も早く五光を集めなければ…………。
「久しぶりに面白くなりそうだぜ?」
ブリードは不敵に笑う。ただしその笑みをだれも認識することはできなかった。
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