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筋肉激突
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―それはまるで、小さな神話のような戦いだった。
罰点印の刻まれた額を拭ってみれば、ジトッとした汗が手に移る。いや、もしかするとそれは、単なる手汗なのかもしれない。
いずれにせよ、元木乃伊だった男は、食い入るようにその光景を見つめていた。
「フゥン!」
ビリーの剛腕が振るわれ、風を薙ぐ音が男の元にも聞こえてくる。それは、間合いなど一切考えずに放たれた、右ストレート。その拳が振るわれた矢先、白い光の靄が、宙を走る!
「馬鹿が!そんなもの…ッ!?」
それを魔力を使い、余裕をもって防ごうとした魔人だったが、どういうわけか、その魔力はビリーまであと2メートル弱といったところで霧散してしまう。そればかりか、漆黒の魔力が通った場所を、白い光の靄が塗り替えていくではないか。
その靄に触れた瞬間、魔人は苦しそうに悶えた。
「なッ…なん、だ…コレ…」
苦しみに喘ぐ魔人の姿は、正直見ていて心が苦しくなる。何せ、見た目は子供なのだ。だが、ビリーの目には、一切迷いはない。
悠々と一歩ずつ、しっかりと大地を踏みしめながら、彼は魔人に接近する。
「ぐッ、ぐ…ぐる…」
先程の戦士達は大勢で立ち向かって返り討ちに会ったというのに、この男はたった一人で、しかもただの腕の一振りで、魔人を圧倒している。魔人の方も気になるだろう。「この男は何者だ」と。
―冷静に考えられる余裕があれば、の話だが。
「ぐるんじゃねェーーーッ!!!」
悶えながら発したその威嚇の言葉は、目の前の戦士に聞き届けられる事は決してないだろう。それでもそうしたのは、本能とプライドのせめぎ合いの結果だった。
『目の前のヤツにボコボコにされたくない』、『だが、俺には力がある』。
そうした頭の回らない考えの末―
「ジャアァッ!」
―魔人は再び、魔力の波を放つ!しかし!
「―フッ!」
今度は、左のストレート。拳から発せられた白光が、一瞬にして闇を祓う!
「―せェいッ!」
「なッ…あ!?」
更にビリーは、その光に便乗するように駆け出す。躍動する筋肉から、汗が弾ける。
彼の往く手を阻もうとする闇は、先んじて放たれた光によって切り開かれていく。
「あッ…あァ…」
そこで、魔人は心の片隅で確信した。「自分は負ける」、と。
「…なんで」
魔人の顔から、表情が消えた。
「…なんで、だよ」
彼の瞳に映るは、光と共に迫る剛筋の戦士。
「…俺は、力を得た、のに…」
「―なんてことはないさ」
魔人の少年の前に、ビリーが立つ。その目には、一切の憎悪もなく。怒りもなく。
「俺は自分を信じた。自分が鍛え上げてきた、自分自身を信じた。そして、同じように汗を流して鍛えてきた友を信じた」
ただ穏やかに、戦士はそう語りかけた。まるで、少年にとっての父親であるかのように。
「…君は、信じられたか?最後まで、自分自身を。…その力を」
その問に、少年は目を逸らし―ただ、項垂れた。
「…そうか」
その一言を聞き、目の前の戦士が腕を振りかぶる姿を見たのを最後に、少年の意識は彼方へと飛んで行った。
「上出来だ」
少年に剛腕を振るったのか?答えは否、だ。
ビリーは、ただにこやかに、少年の額に軽くデコピンを食らわせただけだった。
罰点印の刻まれた額を拭ってみれば、ジトッとした汗が手に移る。いや、もしかするとそれは、単なる手汗なのかもしれない。
いずれにせよ、元木乃伊だった男は、食い入るようにその光景を見つめていた。
「フゥン!」
ビリーの剛腕が振るわれ、風を薙ぐ音が男の元にも聞こえてくる。それは、間合いなど一切考えずに放たれた、右ストレート。その拳が振るわれた矢先、白い光の靄が、宙を走る!
「馬鹿が!そんなもの…ッ!?」
それを魔力を使い、余裕をもって防ごうとした魔人だったが、どういうわけか、その魔力はビリーまであと2メートル弱といったところで霧散してしまう。そればかりか、漆黒の魔力が通った場所を、白い光の靄が塗り替えていくではないか。
その靄に触れた瞬間、魔人は苦しそうに悶えた。
「なッ…なん、だ…コレ…」
苦しみに喘ぐ魔人の姿は、正直見ていて心が苦しくなる。何せ、見た目は子供なのだ。だが、ビリーの目には、一切迷いはない。
悠々と一歩ずつ、しっかりと大地を踏みしめながら、彼は魔人に接近する。
「ぐッ、ぐ…ぐる…」
先程の戦士達は大勢で立ち向かって返り討ちに会ったというのに、この男はたった一人で、しかもただの腕の一振りで、魔人を圧倒している。魔人の方も気になるだろう。「この男は何者だ」と。
―冷静に考えられる余裕があれば、の話だが。
「ぐるんじゃねェーーーッ!!!」
悶えながら発したその威嚇の言葉は、目の前の戦士に聞き届けられる事は決してないだろう。それでもそうしたのは、本能とプライドのせめぎ合いの結果だった。
『目の前のヤツにボコボコにされたくない』、『だが、俺には力がある』。
そうした頭の回らない考えの末―
「ジャアァッ!」
―魔人は再び、魔力の波を放つ!しかし!
「―フッ!」
今度は、左のストレート。拳から発せられた白光が、一瞬にして闇を祓う!
「―せェいッ!」
「なッ…あ!?」
更にビリーは、その光に便乗するように駆け出す。躍動する筋肉から、汗が弾ける。
彼の往く手を阻もうとする闇は、先んじて放たれた光によって切り開かれていく。
「あッ…あァ…」
そこで、魔人は心の片隅で確信した。「自分は負ける」、と。
「…なんで」
魔人の顔から、表情が消えた。
「…なんで、だよ」
彼の瞳に映るは、光と共に迫る剛筋の戦士。
「…俺は、力を得た、のに…」
「―なんてことはないさ」
魔人の少年の前に、ビリーが立つ。その目には、一切の憎悪もなく。怒りもなく。
「俺は自分を信じた。自分が鍛え上げてきた、自分自身を信じた。そして、同じように汗を流して鍛えてきた友を信じた」
ただ穏やかに、戦士はそう語りかけた。まるで、少年にとっての父親であるかのように。
「…君は、信じられたか?最後まで、自分自身を。…その力を」
その問に、少年は目を逸らし―ただ、項垂れた。
「…そうか」
その一言を聞き、目の前の戦士が腕を振りかぶる姿を見たのを最後に、少年の意識は彼方へと飛んで行った。
「上出来だ」
少年に剛腕を振るったのか?答えは否、だ。
ビリーは、ただにこやかに、少年の額に軽くデコピンを食らわせただけだった。
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退会済ユーザのコメントです
感想、ありがとうございます。
ぶっちゃけて言うとほぼ衝動のままに書いてるような作品なので、エタる可能性大ですが、コナンザグレート辺りのような筋肉と魔法の世界を描いていけたらいいなとか思ってます(希望的観測)