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第二章

出会いと別れは突然に

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 「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
 リリアが横から大きく振りかぶって男に斬りかかる。

 大剣を両手で受け止める。
 その瞬間にやっと身動きが取れるようになった。

 (今の金縛りになったかのようなのはなんだ……魔法か?)
 (魔法ではないと思う。とくに魔力が発生している感じもなかったよ)
 「クソが! なんなんだよ一体」

 「主様! 大丈夫ですか!?」
 「ああ! 助かったぞリリア」

 リリアの腕力によって飛ばされた相手は、手をぶら~ん、ぶら~んとさせて首を回すと、ボクサーのように構えた。
 
 今までテキトーだった雰囲気から一気にピリピリした空気に変わる。
 その空気を察してか、リリアが大剣を握り直す。

 「なんだよめんどくせぇな。こっちは酒飲んで気持ちよくなって、ただ気持ちよく寝たいだけだってのによぉー! 邪魔してくれやがってよぉ! めんどくせぇーめんどくせぇー!」
 男が消えた。

 右頬に痛みと衝撃が走る。次は左脇腹、顎、左肩。
 突然目の前に現れた相手が、俺に攻撃を繰り出す。

 今までの攻撃より遥かに速く、そして重い。何よりも隙がない。
 俺は攻撃を食らい、防御したりするが、反撃は一切出来なかった。
 途中でリリアが斬りかかるが、男は簡単に片手で大剣を弾き返す。

 連撃に連撃を重ねた攻撃に考える暇すら与えてくれない……。
 何度も意識が飛びそうになるが、どうにか保っている状態だった。

 口の中が血の味しかしない。
 徐々に視界が狭くなっていく。

 何故か俺の頭に浮かんでいたのは、レベッタ先生と訓練をしていた頃の事だった。
 「なあ先生、先生より強い化け物と出会った時ってどうすりゃあいいんだ?」
 「そんなの決まってんだろ? 全速力で逃げろ。脅し、ハッタリ、魔法、何でも使って逃げろ!」

 「絶対に逃げられない状況だったら?」
 「何で逃げられない状況なのかによるなそれは。ただこれだけは言っておいてやる! 誰かの為に逃げられない状況なら死んでもそいつを殺せ!」

 「死んだらそいつ殺せないじゃん!」
 「そういう意味じゃねえよ――」

 薄れゆく意識の中で、そんなやり取りを思い出していた。
 何故逃げ出さないのか?

 そうだ逃げ出しちまえばいい!
 全速力で逃げればきっとこいつも追ってこないだろう。
 俺もジャンもこんな所で死んでられない。死ねない。

 いや、そうじゃないだろ?
 逃げたらリリア達が全滅する。
 
 あれ?
 いつから俺は、他人なんか気にするようになっちまったんだ……。

 顎を下からはねられ、歯が飛ぶ。
 俺は男の攻撃を両手で受け止め、お腹を蹴り飛ばした。

 般若のお面を取り、投げ捨てる。
 「クックック。俺もいつの間にか変わっていってるって事だな。俺の名前はジャン・アウル! ジャンなんだ! 行くぞ」
 距離を詰める為に前に飛び込む。
 両手に持つダガーを全力で男に投げつける。

 ダガーを弾いた右腕に俺はしがみついた。
 そして腕の内側、二の腕辺りに噛みつき、肉を噛みちぎった。

 「いってぇーー!! この野郎!!」
 何度も何度も左腕で殴られ、膝を入れられるが、絶対に離したりしない。
 距離を取ると負けるから死んでも離さない。

 そして俺は歯が抜ける程強く腕に噛み付いた。
 「クソ野郎が!!」
 俺を抱えたまま、男は急に壁に向かって走り出す。
 
 そしてその勢いのまま、壁に強く叩きつけられた。
 「グハッ」
 「離せ! 離せ!」
 「ぜってぇー離さねぇ!」

 「うおおおおおおお!!」
 男は叫びながら右の拳を振り上げる。
 そのまま地面に拳を叩きつけた。

 ニュルと身体の位置を変え、叩きつけられずに済んだ。
 地面はクレーター程の窪みができ、抉れていた。

 「リリアーー! チャンスがあったらたたっ斬れ! 俺の体もろともでもいい!」
 その声を聞いたリリアが大剣を構えた。

 「あ~分ったよ! しっかり掴まれよ! 離すなよ!」
 
 男がそう言うと一瞬目の前が暗くなる。気付くと天井がすぐそこ目の前に。
 二人で落下していく。空中で俺は頭と体を押さえつけられ、このままだと頭から地面に激突してしまう。

 「このまま死んでくれ」
 どうにかして抜け出そうと試みるが、全く身動きが取れない。

 頭を抑えられていた手が離れるのを感じ、俺は身体を捻って脱出する。
 俺は地面に着地すると、一目散に自分のダガーを取りに行った。
 二本のダガーを手に取るとすぐに男を探す。

 しかし、姿が見えない……。
 「主様!! 後ろ!!」
 後ろを向くと、男は手刀で俺の首元を斬るかのように手を動かす。
 ぎりぎりの所でダガーで受ける。

 「ハァハァハァハァ、ハァハァハァハァ」
 満身創痍だった。

 体中のあちこちが痛かった。
 ドクンッ! ドクンッ!
 心臓の音までも聴こえている……。

 男が再び姿を消した。
 目の前に現れ、俺の顔を殴ろうとしている。
 
 さっきまで目で追うことも出来なかったはずなのに、何故か全て視えていた。
 ああ……右手で殴ってくる……。

 俺は拳を避ける。
 次は蹴りが飛んでくる。

 左足だ。俺の右の脇腹を狙っているな。
 思考と視界が驚くほど働いている。

 右手で蹴りを受け止めると、そのまま右足を脇に挟む。
 その状態を利用され、右足で顔面を狙われた。

 俺は左手に持つダガーの握りを替えると、刃がある方を向けた。
 途中で男は蹴りの軌道を変えるが、左腕で俺は止める。
 止めた瞬間、右の拳で男の顔面を殴った。

 「おいおいなんだよ急に……実力を隠していたのか? いや、それはないな。極限に追い込んで俺が覚醒させちまったか……」
 何かぶつぶつ言っていた。

 俺は唄い始める。
 「も~もたろうさん。ももたろうさん。お腰につけたきびだんご、ひとつ私にくださいな」
 「や~りましょう。やりましょう。これから鬼の征伐に、ついていくならやりましょう」
 「い~きましょう。いきましょう。あなたについてどこまでも、家来になっていきましょう」
 「そ~りゃ進め。そりゃ進め。一度に攻めて攻めやぶり、つぶしてしまえ鬼ヶ島」
 「お~もしろい。おもしろい。残らず鬼を攻めふせて、ぶんどりものをエンヤラヤ」
 「バーンバンザイ。バンバンザイ。おともの犬や猿キジは、いさんでくるまをエンヤラヤ」

 気付くと俺は唄を口ずさみながら戦っていた。
 唄い終わると目の前には、両手と両足をなくした男が横たわっていた。

 「グハッ! お前……俺との戦いの中で成長するなよ」
 「いや、たまたまだよ。もう一度やれって言われても出来るかと言われたら出来ないね」

 「ハハハ……あぁ……また酒が飲みたいなぁ」
 「お前名前は?」
 「シャオ……」

 「シャオか。お前また酒が飲みたいか?」
 「飲みたいね」

 「シャオ……一つ提案がある。俺の部下になるなら助けてやる。お前の好きな酒もまた飲めるようになるぜ。それが嫌ならここで死んでくれ」

 「……分かった。従おう。酒が飲めるならなんだってやるさ」
 「お前、よくそんなんであそこまで強くなれたな」
 (ユウタ本気!? この男を仲間に引き入れるの!?)
 (だってめちゃくちゃ強いぜこいつ。殺すのもったいないだろ!)
 (だからって簡単に……治したら襲ってくるかもしれないんだよ)
 (大丈夫だと思うけどなぁ)

 まずは自分の怪我を治す。
 そして、手遅れになる前にシャオの傷と手足を治していく。
 魔力をかなりシャオに吸われていくが、みるみるうちに治っていき、手足が元に戻っていく。

 「おお! おお! 元に戻りやがった」
 シャオは立ち上がるが、フラッとよろけた。

 「血まで回復する訳じゃないから」
 「そういう訳かい。命は助かったんだそれだけでいいよ! ありがとな旦那」

 「旦那って……俺まだ十五歳なんだけど!」
 「まあ細かい事は気にすんなって! ガッハッハ!」
 シャオは大きな声で笑う。

 「主様!! 一体何をしているんですか!? その男を治したんですか?」
 「おお! さっきの女騎士じゃねえか! 今日から仲間になったからよろしくな!」
 
 「え!? ちょ! こいつの言っている事は本当なんですか主様!!」
 「いやぁ~まあそうだね……死ぬならいっそ仲間に引き入れてやろうと思って」
 「そんな勝手な……危険ですよ!?」
 
 「大丈夫だと思うよ。なあシャオ?」
 「え!? あ~大丈夫大丈夫」
 ちょっと目を離した隙に近くにあった木箱をシャオは漁っていた。

 「あった、あった!」
 シャオはそう言うと、木箱から酒瓶を取り出して掲げた。

 「どうせ食料庫を燃やしにきたんだろ? この位いいだろ?」
 「いいけど体は平気なのかよ」
 「大丈夫大丈夫!」
 シャオは抱えるだけ酒を抱えていた。

 「それじゃあ元々の目的だった食料を破棄するよ」
 「「「はっ!」」」

 目の前にある大量の食料に火をつけて全て燃やしていく。

 「それじゃあ戻ろうか」
 俺達はその場を後にし、本陣へと戻る。

 どうやら俺達が一番遅く戻ってきたようだった。
 ジェイドとエルガルド、そしてテディが入口で待っていた。

 「ジャン様! 心配しました!」
 「悪かったなジェイド、かなり手こずったんだ」

 「敵が大勢居たんですか?」
 「そういう訳ではないんだけどね……」

 「それよりもジャン様……背中にいる男は誰ですか?」
 シャオは本陣に行くまでの道中で酒を飲み干して泥酔し、いびきをかきながらジャンの背中で寝ていた。

 「え~と新しい仲間?」

 「「えっ!?!?」」
 「ドジョーーー!」
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