アンモナイト・シティ

はるなつあきふゆ

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アンモナイト・シティ

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 貴方はアンモナイト・シティに住む一人の少女で、そのシティの真ん中のスクランブル交差点に立っている。
 流石に、カッコウが鳴り響く交差点にたった一人で立っていた訳ではない。
 少女の他にも人々がいた。
 だが、人々は少女に比べると異質であった。
 アンモナイト・シティとは人々が常に忙しそうに歩き回っている、そういう場所だ。
 連絡を取るため電話をしていたり、メールを見るため携帯を見ていたり、話題作りのために音楽を聴いていたり、承認欲求を満たすため誰かに救いの声をあげたと思えば誰かを殺したりしながらも歩き回っている。
 時間に囚われるあまり、ながらをしなければならない。
 しかし、少女以外の人々は時間を有効に使っているとも言える。
 片手間に何かすることが出来るなら出来る時にやってしまった方が効率的だ。
 そうだとしても、人々が忙しくしているという事実は変わらない。
 人々は皆、忙しいのだ。
 さらに驚くことに、少女の周りの人々は何かをしながら歩き回っても、誰も肩をぶつけない。
 少女に興味を持っていないというよりも、そもそも建物のように思っている。
 それに近いだろう。
 人々は少女を避けるように歩き回っているのである。
 少女はこれを気味悪く感じていた。
 そんなシティにいると少女は酔ってしまった。

 酔いが覚めないうちに、交差点からカッコウが消えてしまった。
 カッコウが鳴かなくなったならそれは、交差点の優先種の地位を人間から自動車に譲り渡すことを意味している。
 しかし、人々は交差点からいなくならない。
 このままでは、車によって、人々は轢き潰されてしまう。
 少女は人々を交差点から離れさせようとした。
 少女は人々の手を引っ張り歩道へ戻そうとしたが、人々に手を振り払われ、簡単にあしらわれてしまった。
 そのようなおかしな人々の行動で酔ったことも理由であっただろうが、少女はどうすればいいかわからず、そこに立ったままだった。
 普通なら皆共々、車に轢かれるが、アンモナイト・シティにおいてそんなことは起こらない。
 アンモナイト・シティには車はおろか、電車やバスなどの交通機関が存在しない。
 しかし、大昔にそれらを人々が運転していたという歴史的文献が存在している。
 なぜ人々は運転できなくなったのか?
 その理由は、人々がをやめられなかったからだ。
 アンモナイト・シティの人々には何もしない時間など存在しておらず、常に何かしながら別の何かをしている。
 そのため、乗車中も常に何かをしていた。
 自分以外に何も興味を持てない人々にとってそれらはただの便利さの皮を被った殺戮兵器だった。
 痛ましい事件の数々が積み重なった。
 だから、その殺戮兵器はこのシティから消えてしまった。
 
 貴方がこれをどう思うかはわからないし、それぞれの意見を尊重するが、筆者にとってこれは秩序の中にある混沌カオスであるように思える。
 アンモナイト・シティの人々は今の自分を保つために全ての時間を消費している。
 隣人を愛するというものの存在を自分に必要なものと考えていない。
 他人を自分の価値を上げるためだけに利用している。
 そこにリスペクトや友情、愛情はないのだ。
 ただあるのは、自分の価値を高めること。
 価値と価値を上げる物以外の物はこの世界では必要ない。
 それだけだ。
 恐ろしいシティだ。
 ただ、ながらをやめればいいのにと思うのだ。
 他の人の価値を上げ、また自分も価値を上げられればいいのにと思うのだ。
 しかし、アンモナイト・シティの人々はやめられなかったし、出来なかった。
 それほど、人々は忙しいのだ。

 少女も筆者と同じく、恐ろしくなったようでそのシティから逃げ出そうとした。
 少女は交差点から逃げ出した。
 やっと、足を動かすことができたのである。
 もしかしたら、貴方は逃げようとしないかもしれない。
 しかし、貴方がどう思うかは重要ではない。
 少女がどう思うかが重要なのだ。
 貴方の身体は確かに少女であるが、意識は別である。
 どう足を動かすか、瞬きをするか、何を考えるかなどは少女の自由である。
 貴方のできることはその少女に自己を投影することのみだ。
 そうしなければ、貴方は狂ってしまう。
 
 筆者がはっきり言おう。
 少女は狂っている。
 もしかしたら、貴方は少女が狂ってないと考えているかもしれないが、筆者が思うに少女は完全に狂っている。
 周りの人々を描写してみよう。
 先ほど言った通り、人々は忙しそうにながら歩きをしている。
 ながらがやめられないながらも効率的に時間を消費している。
 そんな中、時間を効率的に消費できず、ただ立っているだけの少女は相対的にどうであろうか。
 ある者は言った。
 狂っている中で狂わないのは狂人であると。
 
 無駄話はよそう。
 貴方の意思はどうであれ、人々がいない場所に少女は逃げようとした。
 これは事実だ。
 しかし、そんな場所がないことを少女と筆者は知っている。
 アンモナイト・シティは無限に広がっている。
 常に、何処でも人々は何かをしながら歩いている。
 少女にとっての逃げ場所など存在していないのだ。
 しかし、わかっていながらも少女は逃げ続けた。
 そうすると、ある元地下鉄の駅に入っていた。
 今まで走った道はわからない。
 何も考えず、ただ、走り続けたのだ。
 前述した通り、このシティには電車はない。
 しかし、人々は少なからず点々と居た。
 その人々の見た目はげっそりとした地獄の鬼そのものであり、ただ、立っていた。
 しかし、少女のように時間を無駄に消費していたように見えるが、何かどことなく違和感がそこには存在していた。
 本当にこの鬼どもは少女と同じであろうか?
 いや、違う。
 人々は来ない電車を待っているのだ。
 交差点を歩き続けた人々とは何か違うようだ。
 少女がよく見てみると、その人々は車掌などが被っている帽子を被っていた。
 その時、その人々は仕事をしていることがわかった。
 その人々は駅員であった。
 駅員が電車を待っていたのである。
 彼らは電車を運転するという仕事がなくなった今でも仕事を全うしているのである。
 いつか、電車を使い、仕事ができるようになる為に、そこに立っているのである。
 人がホームから落ちないか、電車が来るまで見張っているのである。
 そのため、少女が線路に近づくと駅員は手を広げて止めてきた。
 この鬼どもの制止があっても少女はここから逃げなければならない。
 このアンモナイト・シティ狂った都市から。

 少女の目の前には巨漢の駅員が立っていた。
 腕はパイプのように硬そうでその気になれば少女を殺すこともできそうだ。
 巨漢は少女が線路に降りようとした時、そのパイプを使って行動を抑制しようとした。
 パイプはまるで蛇のように少女に照準を定めて自ら折れ曲がった。
 おそらく、速さから言えば突き刺さってもおかしくない。
 それに対して、少女は素早かった。
 そのパイプが少女に突き刺さる前に、股の下をくぐり抜けようとした。
 しかし、股の間でそのパイプに服の端を掴まれてしまった。
 パイプは何も考えていないような目で少女を捕捉した。
 その時、さらに鬼どもが集まってきた。
 しかし、ある鬼がパイプの足に絡まってしまった。
 鬼どもはずっと立っているだけだったので歩き方に難があった。
 パイプと鬼が倒れ、その隙に少女はこの地獄から抜け出した。
 遂に少女は運良くパイプの制止を振り切り、ホームから落ちることができた。
 少女は少し走った後、ホームの方を見た。
 鬼どもも降りた。
 しかし、少女を捕まえるためではない。
 自分たちが仕事を全うできなかった事実に打ちのめされたのだ。
 鬼どもは線路上に横たわり、活動を停止した。
 自分達の不甲斐なさをどうにかする為に、もう来ない電車を待っていたのである。

 地下鉄内の環境は暗闇である。
 ただ、暗闇と言っても人気がない完璧な孤独を感じられる空間である。
 少女はこの暗さに安心感を得ていた。
 歩き回る人々もいないし、いたとしても暗すぎてわからない。
 少女は一人を満喫していた。
 動きのうるさい人々は周りにいない。
 少女と筆者にとって、実に幸せなことである。
 しかし、貴方はこれに同感するのは自由だが、それは危険な行為である。
 先述した通り、貴方は少女と同期すると狂ってしまう。
 同期できるのは筆者のみである。
 筆者は少女の意識として考えることができ、どう動かすかも決められる。
 少女の全てをコントロール出来る。
 それが筆者だ。
 筆者がどうしたいか、どうするかを少女で代弁出来る。
 少女は器であると同時に、少女とは筆者である。
 貴方がこの器に入ることは想定されていないし、仮に想定していても出来ない。
 貴方が少女にシンクロするということは、筆者とシンクロするということを意味し、それは他の人格を貴方の頭の中に入れるのと一緒だ。
 この事実を知らなければいけない。
 筆者は狂っている。
 貴方のような一般的な人々と比べると狂っているのだ。
 貴方は筆者を狂っていないと言うかもしれない。
 しかし、それでは貴方こそ狂人だ。
 貴方は歩きながら何かできるし、交差点の真ん中でパニックになって止まったりしない。
 ホームから落ちようとせずに来る電車を待てる。
 貴方は筆者と少女の反対の存在である。
 だから、筆者を狂っていると仮定しなければならない。
 そうしなければ、世界の人々は狂ってしまう。
 たとえそうだとしても、狂人だらけの世界で狂っていない我々こそが相対的には狂人ではないだろうか。

 筆者がしばらく暗い中、線路上をひたすら進んでいると、明るいものが見えた。
 それは時間を置かずとも外であることがわかった。
 明るいもの、それは未来である。
 未来は常にぼやけているが明るいものだ。
 未来を求めて筆者は動いたのだ。
 いや、動くだけでは足りない。
 走ったのだ。
 全力で。
 逃げられる。
 この
 邪悪な
 受け入れない
 シティから。
 走ろう。
 走れ。
 !!

 鉄道は壊れていた。
 筆者の身体は宙を舞い、元いた場所に墜落した。
 もう存在しない電車のために誰が線路を補修するだろうか?
 交差点にはぐちゃぐちゃの肉塊が一つ。
 その肉塊にはカラスすら寄り付かなかった。
 人々はその肉塊を踏みながらも歩いていた。
 誰も肉塊には興味を持たず歩いていた。
 そうして肉塊は腐敗し、やがて肉片となり水路に流されて、東京湾で泥と一緒に堆積した。

 アンモナイト・シティ超現実主義未来社会とは人々が常に忙しそうに歩き回っている、そういう場所だ。
 
 

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