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二章 緑の貴婦人の館

十四 盗賊の男(アシュレイ視点)

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 アシュレイは盗賊団殲滅の事後処理に思ったより手間取ってしまっていた。

 あれから半年が経とうとしていた。洞窟の修復と盗品の返還などのもろもろが特に酷くそれぞれが利益を主張して纏まるものも纏まらなかった。

 それに国王が人気取りのために派手な祝勝会を何度も開くのにも閉口していた。夜会なんかは昔から苦手だった。着飾った孔雀のような女達に囲まれるのもいい加減嫌になる。

 褒めるなら金を出せ人をだ出せと怒鳴りたくなる。もちろん使えるヤツだ。綺麗事だけを口に乗せる女たちを見てもアシュレイは嬉しくない上に幻滅していくだけであった。

 それもそれなりに楽しいものであったが、いい加減こう同じことばかりで飽きてくる。いっそ盗賊たちを追い詰める方がぞくぞくするほど面白い。

 ふと、あの修道女だったら今の自分にどう言うだろうかと思うと少し気が晴れた。宮廷の馬鹿騒ぎを見ながらアシュレイは俯くふりをして大きなため息をやり過ごした。

 そうした中、アシュレイは叔母である緑の貴婦人からの手紙が届いた、あれからそれだけの日が過ぎていたことに気がついた。

 そう言えば結局あの修道女の素性は分からなかった。

 結局身代金も支払いはされていなかった上に行方の分からない修道女はいないとの返事であった。他にも雑務があったので、それ以上は詮索してはいない。

 何かの手違いかもしれないし、あの女は帰りたくなさそうであったけれどこれくらい日が過ぎたら気持ちも変わっているかもしれない。

 戻りたいというなら修道院に戻すまでだ。嫌だと言ったらもう少し叔母のところに居させてもいいだろう。あの女は少々変わっていて面白いから叔母も話し相手に良いに違いない。

 叔母の所なら自分がからかいに出かけたとしても周囲からとやかく言われないだろう。

 それにしても、叔母からの手紙にはすぐに来るようにとの文面だったが、何かあったのだろうか?

 逃げ出したとかいうのでは無さそうだし。そろそろ休みも欲しかったので構わないが……。





 アシュレイが緑の貴婦人の館へ行く途中、森の中で水音がした。

 そう言えばここには湧水の泉があったと馬を横道に逸らせた。

 もうすぐ館であるが、今日は少し暑い、水音を聞くと我慢できそうになかった。小道に入って、アシュレイが馬から降りて進むと水音が大きくなった。

 魚ではない誰か水浴びしているのかもしれない。アシュレイは静かに途中の木に馬の手綱を括りつけた。

 ぱしゃんと一際大きな水音がしたのでそっと木立からアシュレイは覗いてみた。

 そこには銀色の長い髪の美しい女が白い裸体で泳ぐように水につかっていた。

 妖精か女神か……。

 アシュレイはその姿のあまりの美しさにただ見入っていた。そのうち、ばしゃばしゃと水音が乱れた。

 はっとして我に返ると泉の中ほどで女性は溺れているようだった。アシュレイは身に着けていたマントなど重くなりそうなものを素早く脱ぎ捨てて飛び込んだ。
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