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04 地方神殿マルクト
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私が連れて行かれたのは村から馬車で一週間以上かかるマルクトという街の女神教の神殿だった。
そこはこのミレニア王国の地方都市の一つだった。
その神殿では年配から同い年くらいの聖女見習いや神官達などが居て、私はいろいろ教えてもらいながら聖女のことを学んだ。
ここに来て初めてお古じゃない服を着た。どこも破れてもいない。つぎはぎもない。
靴だって穴あきじゃない。靴下だってもらえた。
食事は交代で作り、豪華じゃないけれど三食きちんと食べることができた。
ここはもしかして女神様のいらっしゃる楽園なのかもしれない。
古いけれど隅々まで掃き清められて整えられた美しい神殿だった。雨漏りなんてしない。
「ご飯が食べられる」
私がありがとうと言うと神官のお兄さんと年配の聖女見習いの人が顔を歪ませていた。
「いくらでもと言いたいですが、儀式のときは節制されます。それ以外は一杯食べなさい」
「こんな小さいのに可哀想に……」
何が可哀想なのか良く分からないけれど毎日家族のご飯の心配をしなくていいのはとても楽だった。
……いいのかな。自分だけご飯を一杯食べて……。妹のデリラやお母ちゃんはどうしているのだろう。
それでも自分一人でもう家に帰ることはできないし、神殿の聖女見習いとして覚えることやお仕事もあってそれどころでなくなった。
文字の読み書き、話し方やしぐさまで教えられる。まるで小さな子のようだった。
でも毎日、皆で神殿を綺麗にお掃除して、女神様に供物や祈り捧げる儀式をする。
少しずつ女神様のお話を教えてもらった。
その昔、女神様は自分の分身として聖女を地上に遣わしたと言い伝えられている。
そして、モンスターに襲われて逃げ惑うか弱き人々を守らんとして聖女はその力で傷ついた人々を癒し、モンスターに襲われないために領土を守護する大結界を作り出した。
ただ女神様の祝福の力によって作り出された大結界は聖女の魔力を大量に使用する。
だから聖女様の任期は短く、女神様の水晶を光らせることが出来る少女が沢山集められた。
一人では負担が過ぎるため聖女の補佐や見習いとして一緒に祈りを捧げ聖女の結界を支えられるようにした。
何せ聖女がこの国を守る大結界に祈りを捧げないと結界が消滅し、モンスターや他国から侵略されることになる。そのため女神様に祈り魔力を捧げ大結界の維持をしなければならない。
こうしたことをマルクトの神殿で習った。
そして、ここで私は初めて友人も出来た。
ジョイという少女でそばかすの目立つ赤毛の元気な女の子だった。
「あー、やだやだ。玉の輿にのるまで我慢だけどお祈りばかりで嫌になっちゃう。そうだ。ミリアが代わりに祈っておいてよ。美味しいお菓子をあげるからさあ。これって街で流行っているんだって」
ジョイが雑巾を片手に大声で話しかけてくる。
彼女は私を汚いとか言って避けたり苛めたりしない。
それに彼女は家族と違って手伝ったら何かと交換してくれる。
いつも楽しそうで明るいので一緒にいると私も楽しくなる。私とは全く違う子。
「こらこら、ミリアに何でも押し付けるんじゃない。自分が上達しないぞ」
神官のお兄さんがジョイに穏やかに諭すように話をする。ここでは誰も怒鳴らない。
まだ見習いだし、ここに来たばかりだから一般の祈願者と会うことはないから分からないけれど中には治癒や祈願などの結果に祈願者からクレームをつけられたり、怒鳴られたりすることもあるみたい。
ここで私は夜もぐっすり眠れるようになった。
お腹が空いて目が覚めることなんてない。
ひもじくて眠れないなんてこともない。
朝は祈りの儀式の為に早く起きなきゃいけないけど。
ここに来てからゆっくりと穏やかな時間が過ぎていった。
「は? ゆっくり? 穏やか? そんなの思っているのはミリアだけじゃん。ここじゃあ、朝は滅茶苦茶早いし、好きな時に食べられないし。勉強はもっと嫌だし。正直聖女見習いの肩書だけ欲しいって感じ」
ここでは見習いのために文字の読み書き計算から教えてくれる。
読み書きが出来ないと女神様の儀式が出来ないからだ。
大聖女様の結界の呪文は複雑だし、魔方陣を描くためにも必要なことだった。
でも、読み書き出来るといろんなことが分かって楽しい。
それでもジョイだって口だけでしなければならないことはきちんとしているのを知っている。
クスクスとよく笑うけれど嫌な感じが全然しなくてジョイを見ているだけで楽しい気分になる。
そうして私がここに来て何ヶ月も経っていた。
家が近い者は里帰りするものもいるけれど馬車で片道二週間以上もかかる旅費の工面は出来そうにないのでいつも居残っていた。
ここでは聖女見習いとして賃金が貰えた。少しだったけどそれでも帰る馬車代にはとても足りそうになかった。
帰ったらお母ちゃんは喜んでくれるかな……。それともやっぱり要らない子なのかな。
そう思うと怖く帰ることができなかった。
◇◇◇あとがきめいたもの◇◇◇
毒親の元で健気に頑張っている子どもさんに。
そこはこのミレニア王国の地方都市の一つだった。
その神殿では年配から同い年くらいの聖女見習いや神官達などが居て、私はいろいろ教えてもらいながら聖女のことを学んだ。
ここに来て初めてお古じゃない服を着た。どこも破れてもいない。つぎはぎもない。
靴だって穴あきじゃない。靴下だってもらえた。
食事は交代で作り、豪華じゃないけれど三食きちんと食べることができた。
ここはもしかして女神様のいらっしゃる楽園なのかもしれない。
古いけれど隅々まで掃き清められて整えられた美しい神殿だった。雨漏りなんてしない。
「ご飯が食べられる」
私がありがとうと言うと神官のお兄さんと年配の聖女見習いの人が顔を歪ませていた。
「いくらでもと言いたいですが、儀式のときは節制されます。それ以外は一杯食べなさい」
「こんな小さいのに可哀想に……」
何が可哀想なのか良く分からないけれど毎日家族のご飯の心配をしなくていいのはとても楽だった。
……いいのかな。自分だけご飯を一杯食べて……。妹のデリラやお母ちゃんはどうしているのだろう。
それでも自分一人でもう家に帰ることはできないし、神殿の聖女見習いとして覚えることやお仕事もあってそれどころでなくなった。
文字の読み書き、話し方やしぐさまで教えられる。まるで小さな子のようだった。
でも毎日、皆で神殿を綺麗にお掃除して、女神様に供物や祈り捧げる儀式をする。
少しずつ女神様のお話を教えてもらった。
その昔、女神様は自分の分身として聖女を地上に遣わしたと言い伝えられている。
そして、モンスターに襲われて逃げ惑うか弱き人々を守らんとして聖女はその力で傷ついた人々を癒し、モンスターに襲われないために領土を守護する大結界を作り出した。
ただ女神様の祝福の力によって作り出された大結界は聖女の魔力を大量に使用する。
だから聖女様の任期は短く、女神様の水晶を光らせることが出来る少女が沢山集められた。
一人では負担が過ぎるため聖女の補佐や見習いとして一緒に祈りを捧げ聖女の結界を支えられるようにした。
何せ聖女がこの国を守る大結界に祈りを捧げないと結界が消滅し、モンスターや他国から侵略されることになる。そのため女神様に祈り魔力を捧げ大結界の維持をしなければならない。
こうしたことをマルクトの神殿で習った。
そして、ここで私は初めて友人も出来た。
ジョイという少女でそばかすの目立つ赤毛の元気な女の子だった。
「あー、やだやだ。玉の輿にのるまで我慢だけどお祈りばかりで嫌になっちゃう。そうだ。ミリアが代わりに祈っておいてよ。美味しいお菓子をあげるからさあ。これって街で流行っているんだって」
ジョイが雑巾を片手に大声で話しかけてくる。
彼女は私を汚いとか言って避けたり苛めたりしない。
それに彼女は家族と違って手伝ったら何かと交換してくれる。
いつも楽しそうで明るいので一緒にいると私も楽しくなる。私とは全く違う子。
「こらこら、ミリアに何でも押し付けるんじゃない。自分が上達しないぞ」
神官のお兄さんがジョイに穏やかに諭すように話をする。ここでは誰も怒鳴らない。
まだ見習いだし、ここに来たばかりだから一般の祈願者と会うことはないから分からないけれど中には治癒や祈願などの結果に祈願者からクレームをつけられたり、怒鳴られたりすることもあるみたい。
ここで私は夜もぐっすり眠れるようになった。
お腹が空いて目が覚めることなんてない。
ひもじくて眠れないなんてこともない。
朝は祈りの儀式の為に早く起きなきゃいけないけど。
ここに来てからゆっくりと穏やかな時間が過ぎていった。
「は? ゆっくり? 穏やか? そんなの思っているのはミリアだけじゃん。ここじゃあ、朝は滅茶苦茶早いし、好きな時に食べられないし。勉強はもっと嫌だし。正直聖女見習いの肩書だけ欲しいって感じ」
ここでは見習いのために文字の読み書き計算から教えてくれる。
読み書きが出来ないと女神様の儀式が出来ないからだ。
大聖女様の結界の呪文は複雑だし、魔方陣を描くためにも必要なことだった。
でも、読み書き出来るといろんなことが分かって楽しい。
それでもジョイだって口だけでしなければならないことはきちんとしているのを知っている。
クスクスとよく笑うけれど嫌な感じが全然しなくてジョイを見ているだけで楽しい気分になる。
そうして私がここに来て何ヶ月も経っていた。
家が近い者は里帰りするものもいるけれど馬車で片道二週間以上もかかる旅費の工面は出来そうにないのでいつも居残っていた。
ここでは聖女見習いとして賃金が貰えた。少しだったけどそれでも帰る馬車代にはとても足りそうになかった。
帰ったらお母ちゃんは喜んでくれるかな……。それともやっぱり要らない子なのかな。
そう思うと怖く帰ることができなかった。
◇◇◇あとがきめいたもの◇◇◇
毒親の元で健気に頑張っている子どもさんに。
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