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08 僕の可愛い聖女候補者(テオ視点)
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僕はペンテ共和国で手広く商売をしているカリスト家の三男のテオ。
魔道具に興味があったけれど家が商売をしているし、魔力だって少ないので魔道具職人は無理だと言われた。
ある日、八歳の聖別式を前に親から行商人の見習いをやってみないかと聞かれた。
僕は三男だからこの家の跡取りにはなれない。兄さん達に何かあったら分からないけど。
兄さんだってそれぞれ既に家の仕事を任されて頑張っている。
「どこの商会ですか?」
「ミレニア王国の大神殿とも取引しようと思う」
「ミレニア王国の大神殿かぁ。近くて、遠いね」
ミレニア王国自体はここから片道一週間でいけないことはない。だけど大神殿はまた別格だ。女神教の総本山とされたくさんの参拝者が世界中から訪れる。
そこと取引するとなると……。ミレニア王国にはカリストの出先機関はあるけれど大神殿の中での取引ということだろう。
「最初は往復の旅ばかりになるが、お前ならできる! 期待しているぞ」
兄さん達に背中を叩かれた。
僕は八歳の聖別式で女神像が光ることは無かったので神殿に召し上げられることはなく行商人見習いになった。
それから二年ほど商会の支店に弟子入りをして商売の基本を教わった。
大神殿との取引を終えればその内うちの商会のどこかの支部を任されることになるだろう。ひょっとしたらミレニア王国の支店かもしれないそんなことまで考えていた。
まだ十歳だけど商会の息子としてのありきたりな将来を描いていた。
そうして、向かったミレニア王国の大神殿。
女神教の拠点でその昔偉大な聖女様が国を守護する大結界を張りモンスターの襲来や他国の侵略から免れている奇跡の国と言われていた。
今でも女神様に祈りを捧げる聖女様がいて癒しや願いごとを祈念してくださっている。
今まで大神殿に行くことは無かった。そもそもペンテ共和国から出ることがなかったので僕は物珍しさでキョロキョロして親方に苦笑された。
「おい、ミレニア王国は治安が良いがスリや置き引きだってあるんだから気をつけろ」
「だってさあ、ペンテは共和国だから、王政ってのは気になっていたんだよ。でも雰囲気はペンテと変わらないね」
「そんなことないぞ。ペンテは自分達で国の代表を選べるんだ。ここみたいに生まれで階級が決まるのとは訳が違う」
「へぇ。階級なんてあるんだ」
「女神様の教えだから、聖女が一番だが、次に王様や貴族様だな。だから物言いに気をつけろ。まあ、そこいらへんはテオなら心配ないと思うが」
親方と大神殿での身分証をもらうと大神殿の市を見学してみた。
大神殿の広場の市は別の部門が仕切っているので奥向きの市に案内された。親方に付き添って指示を受けながら商品を並べる。
広げた商品を見に来る人はまばらだった。
――まあ、そりゃ。こんな大きな都だから街で買い物した方が楽しいだろうし、広場の方の市の方が大きいしそっちに行くよな。
ふと見ると神殿のポーチから外を眺めている少女が居た。
出会ったのは不安そうに瞳を揺らせていた少女。
黒髪はやや青みを帯びるほど神秘的だった。
それ以上に引き寄せられるのはスカイブルーの瞳。
晴れの空と夜の帳の神秘な組み合わせ。
気がついたら声をかけてしまった。
「聖女見習いの方ですよね。外出されないのですか?」
「いえ、私は聖女候補者で……」
振り向くと癖のない黒髪がベールのように広がった。
僕と同じくらいの女の子で可愛い顔立ちの子だった。
おどおどとした頼りなさそうな雰囲気だった。新人かな?
「聖女候補?」
……見習いとまた違うのだろうか? 八歳の聖別式で見習いになった僕と聖女はまた違うのだろう。
「うーんと見習いよりちょっと上でしょうか。でも候補者になったばかりで」
小首を傾げる様子もあどけない様子だった。僕は確かめるように話しかけた。
「じゃあ。新人さんなんだね?」
「ええ、まあそんな感じ……」
――どうやら聖別したばかりかな。親しくなりたいな。
「じゃあ、今日僕が持って来た商品を見てもらえますか?」
「商品?」
「僕、商人見習いになって売り出すのが今日初めてなんです。良かったらその……」
「そうなんですね。別に今日は予定がないので大丈夫ですよ」
――絶対、彼女を最初のお客さんにしようと自分の持ち場に案内した。
……もっといろいろ仕入れていれば良かったかな。
まだこまごまとした日用品やアクセサリーだけだった。
――いつかもっと大きな取引もしてみたいなあ。
「うわあ。これ可愛い」
猫のブローチを手に取って楽しそうに見てくれたので何だか今日はそれで十分な気がした。商売としては問題ありすぎだけど。
もともと大神殿での取引は内部に収めるリネン類の契約で十分利益が採れている。ここに出すのは市場の数合わせのようなものだと聞いていた。
「とっても良く似合う。いえ、似合います!」
丁寧な言葉遣いをしろと親方がこちらに目配せをしてきた。
「あ、でも持ち合わせはあまりないの。それに候補と言っても見習いと変わらないからあまりお給金はもらえなくて。日常で使う石鹸や何かを買うのが精一杯なの」
彼女から申し訳なさそうに言われた。
――顧客を育てるのも商人の腕の見せどころだ。
「そうなんですね。じゃあ、見るだけでも良いですよ。君が僕のお店の第一号だから。いつか聖女様になったらいっぱい買ってください」
にこりと安心させるように微笑んだら彼女も一緒に笑ってくれた。
あどけない表情だった。妹がいたらこんな感じかな。
「僕の名はテオ。行商人見習いです。君の名は?」
「私はミリアって言うの。聖女見習い、今は候補者かな。よろしくね。テオ君」
「よろしくミリアさん」
ふふと二人で顔を見合わせてもう一度笑った。
……正直聖女見習いと候補はどう違うのかも知らなかった。
ミリアと名乗った聖女候補者の歳が自分と同じだと聞いてまたびっくりした。もう少し年下に見えたのだ。
小さな身体で頼りなさげだけど笑うととても可愛いらしい。
今度来る約束をして神殿を後にした。
僕も行商を続けているといろいろと知ることが出来た。
様々な土地、様々な言葉、それに大神殿にはたくさんの人が働いている。
大神殿はミレニア王国そのものといって良かった。
そして、聖女候補者について教えてもらえた。
ペンテ共和国とは本当にいろいろと違う。
ペンテ共和国にはそもそも聖女様なんていない。
聖女見習いはどの国にでもいるけど聖女と呼ばれるのはミレニア王国だけだ。
この地に女神様が最初に聖女をもたらしたからだそうな。
そして、ミレニア王国だけが国を守護する大結界を聖女様が維持している。
だからそんなに大きくないミレニア王国がモンスターや他国に侵略されないで今も存続できているのだ。
でも、ミレニア王国の大神殿の聖女見習いは貴族令嬢が多く行商人見習いの僕につんけんして扱い辛い。
それに引き換えミリアさんは素直で温かいやり取りができる。
唯一人の平民だと話していたから大神殿の中では苦労しているみたいだった。
僕だけでもなんとか力になりたいと思った。
最初は顧客獲得のためだったけど今ではミリアさんに会うのはそれだけではなかった。
王都の支店でミリアさんに必要な品を用意するために共和国や他の国を往復することも苦にならなかった。
魔道具に興味があったけれど家が商売をしているし、魔力だって少ないので魔道具職人は無理だと言われた。
ある日、八歳の聖別式を前に親から行商人の見習いをやってみないかと聞かれた。
僕は三男だからこの家の跡取りにはなれない。兄さん達に何かあったら分からないけど。
兄さんだってそれぞれ既に家の仕事を任されて頑張っている。
「どこの商会ですか?」
「ミレニア王国の大神殿とも取引しようと思う」
「ミレニア王国の大神殿かぁ。近くて、遠いね」
ミレニア王国自体はここから片道一週間でいけないことはない。だけど大神殿はまた別格だ。女神教の総本山とされたくさんの参拝者が世界中から訪れる。
そこと取引するとなると……。ミレニア王国にはカリストの出先機関はあるけれど大神殿の中での取引ということだろう。
「最初は往復の旅ばかりになるが、お前ならできる! 期待しているぞ」
兄さん達に背中を叩かれた。
僕は八歳の聖別式で女神像が光ることは無かったので神殿に召し上げられることはなく行商人見習いになった。
それから二年ほど商会の支店に弟子入りをして商売の基本を教わった。
大神殿との取引を終えればその内うちの商会のどこかの支部を任されることになるだろう。ひょっとしたらミレニア王国の支店かもしれないそんなことまで考えていた。
まだ十歳だけど商会の息子としてのありきたりな将来を描いていた。
そうして、向かったミレニア王国の大神殿。
女神教の拠点でその昔偉大な聖女様が国を守護する大結界を張りモンスターの襲来や他国の侵略から免れている奇跡の国と言われていた。
今でも女神様に祈りを捧げる聖女様がいて癒しや願いごとを祈念してくださっている。
今まで大神殿に行くことは無かった。そもそもペンテ共和国から出ることがなかったので僕は物珍しさでキョロキョロして親方に苦笑された。
「おい、ミレニア王国は治安が良いがスリや置き引きだってあるんだから気をつけろ」
「だってさあ、ペンテは共和国だから、王政ってのは気になっていたんだよ。でも雰囲気はペンテと変わらないね」
「そんなことないぞ。ペンテは自分達で国の代表を選べるんだ。ここみたいに生まれで階級が決まるのとは訳が違う」
「へぇ。階級なんてあるんだ」
「女神様の教えだから、聖女が一番だが、次に王様や貴族様だな。だから物言いに気をつけろ。まあ、そこいらへんはテオなら心配ないと思うが」
親方と大神殿での身分証をもらうと大神殿の市を見学してみた。
大神殿の広場の市は別の部門が仕切っているので奥向きの市に案内された。親方に付き添って指示を受けながら商品を並べる。
広げた商品を見に来る人はまばらだった。
――まあ、そりゃ。こんな大きな都だから街で買い物した方が楽しいだろうし、広場の方の市の方が大きいしそっちに行くよな。
ふと見ると神殿のポーチから外を眺めている少女が居た。
出会ったのは不安そうに瞳を揺らせていた少女。
黒髪はやや青みを帯びるほど神秘的だった。
それ以上に引き寄せられるのはスカイブルーの瞳。
晴れの空と夜の帳の神秘な組み合わせ。
気がついたら声をかけてしまった。
「聖女見習いの方ですよね。外出されないのですか?」
「いえ、私は聖女候補者で……」
振り向くと癖のない黒髪がベールのように広がった。
僕と同じくらいの女の子で可愛い顔立ちの子だった。
おどおどとした頼りなさそうな雰囲気だった。新人かな?
「聖女候補?」
……見習いとまた違うのだろうか? 八歳の聖別式で見習いになった僕と聖女はまた違うのだろう。
「うーんと見習いよりちょっと上でしょうか。でも候補者になったばかりで」
小首を傾げる様子もあどけない様子だった。僕は確かめるように話しかけた。
「じゃあ。新人さんなんだね?」
「ええ、まあそんな感じ……」
――どうやら聖別したばかりかな。親しくなりたいな。
「じゃあ、今日僕が持って来た商品を見てもらえますか?」
「商品?」
「僕、商人見習いになって売り出すのが今日初めてなんです。良かったらその……」
「そうなんですね。別に今日は予定がないので大丈夫ですよ」
――絶対、彼女を最初のお客さんにしようと自分の持ち場に案内した。
……もっといろいろ仕入れていれば良かったかな。
まだこまごまとした日用品やアクセサリーだけだった。
――いつかもっと大きな取引もしてみたいなあ。
「うわあ。これ可愛い」
猫のブローチを手に取って楽しそうに見てくれたので何だか今日はそれで十分な気がした。商売としては問題ありすぎだけど。
もともと大神殿での取引は内部に収めるリネン類の契約で十分利益が採れている。ここに出すのは市場の数合わせのようなものだと聞いていた。
「とっても良く似合う。いえ、似合います!」
丁寧な言葉遣いをしろと親方がこちらに目配せをしてきた。
「あ、でも持ち合わせはあまりないの。それに候補と言っても見習いと変わらないからあまりお給金はもらえなくて。日常で使う石鹸や何かを買うのが精一杯なの」
彼女から申し訳なさそうに言われた。
――顧客を育てるのも商人の腕の見せどころだ。
「そうなんですね。じゃあ、見るだけでも良いですよ。君が僕のお店の第一号だから。いつか聖女様になったらいっぱい買ってください」
にこりと安心させるように微笑んだら彼女も一緒に笑ってくれた。
あどけない表情だった。妹がいたらこんな感じかな。
「僕の名はテオ。行商人見習いです。君の名は?」
「私はミリアって言うの。聖女見習い、今は候補者かな。よろしくね。テオ君」
「よろしくミリアさん」
ふふと二人で顔を見合わせてもう一度笑った。
……正直聖女見習いと候補はどう違うのかも知らなかった。
ミリアと名乗った聖女候補者の歳が自分と同じだと聞いてまたびっくりした。もう少し年下に見えたのだ。
小さな身体で頼りなさげだけど笑うととても可愛いらしい。
今度来る約束をして神殿を後にした。
僕も行商を続けているといろいろと知ることが出来た。
様々な土地、様々な言葉、それに大神殿にはたくさんの人が働いている。
大神殿はミレニア王国そのものといって良かった。
そして、聖女候補者について教えてもらえた。
ペンテ共和国とは本当にいろいろと違う。
ペンテ共和国にはそもそも聖女様なんていない。
聖女見習いはどの国にでもいるけど聖女と呼ばれるのはミレニア王国だけだ。
この地に女神様が最初に聖女をもたらしたからだそうな。
そして、ミレニア王国だけが国を守護する大結界を聖女様が維持している。
だからそんなに大きくないミレニア王国がモンスターや他国に侵略されないで今も存続できているのだ。
でも、ミレニア王国の大神殿の聖女見習いは貴族令嬢が多く行商人見習いの僕につんけんして扱い辛い。
それに引き換えミリアさんは素直で温かいやり取りができる。
唯一人の平民だと話していたから大神殿の中では苦労しているみたいだった。
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