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14 大神殿での旅支度

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 入り口で挨拶をすると神殿に仕える下女がこちらに気がついてくれました。

 神殿には聖女見習いの他にも働く方は大勢いました。地方神殿は家族のような感じだったけれどここは大きすぎて底冷えがするほど冷たい……。

「あれ? 平み……、聖女様。お帰りがいつもより遅かったですね」

 下女さんは私の後ろのパーシーさんを見て慌てて言い方を変えました。

 いつものように平民聖女の呼び方でいいと思いますよ。

「ええ、王太子様から急なお話がいろいろとありまして……」

「そうですか、そんな言い訳をしている暇があったらさっさと参拝者に挨拶して、祈願や治癒のお仕事をしてください。皆が待ちくたびれていますよ!」

 一方的に言うと下女は私の言葉を聞かずに慌ただしく去って行かれました。

「あ、はい。あ、いえ、あのもう私は聖女では……」

 あまりにも早かったので大事なことが伝えられませんでしたね。困りました。

「私は聖女ではないので、もうできないのですが……」

 私の言い方が遅いと言われるのでしょうが、既に下女の方は立ち去っていた。

「聖女様。あの下女の態度はいくらなんでも不敬かと思われます。今までもこのような扱いだったのでしょうか?」

 パーシーさんからも心配されました。でも、何もかも、もう終わったことです。

「私は平民でそれも田舎の出身なので平民の聖女と呼ばれいつもこんな扱いでした。皆さんは何かしらの良い所のお嬢様なので、でも話をしてくれるだけで十分でしたよ」

 ……村では嫌われて石なんか投げられたこともありましたね。遠い昔の話ですが、今更ですが村の皆は元気にしているのでしょうか。

「それにしても……」

 パーシーさんは不服そうでした。

 そうしている内に神殿の奥からやってくる人影が見えました。

「あ、聖女様。お久しぶりです。今日はお姿が見えないので案じておりましたよ」

 テオ君が私を見つけてこちらにやってきました。

 彼が働いている商会は月に何度か神殿にいろいろな商品を売りに来てくれるので私もよく買っていました。

 私も聖女になって忙しく、今まで以上に神殿から王宮や結界の維持する場所に行く以外は気軽には出られませんでした。

 テオ君は本当に親切で、私の細々した日用品やアクセサリーは必ず彼から買っていました。テオ君から装身具は何かの時に買い取れると教えてもらったし、お布施も自分のものとしても大丈夫なように私のために魔道具まで開発してくれました。

 最近は執務室まで商品を見せに来てくれます。テオ君はもう立派な聖女ご用達商人でしょう。

「今日も聖女様にいろいろとご用意してきました。楽しみにしてください」

「うわあ。嬉しい。楽しみです。あ、いいえ。今日はもう見ません。これからも多分……。私は聖女ではなくなったので、今直ぐ片づけして神殿から出て行かないといけないのです」

「は?」

 テオ君は目を見開くと驚いた声を上げました。

 いつも穏やかで優しい雰囲気のテオ君は私が聖女候補としてこの大神殿に入ったときからの知り合いなので幼馴染とも言っていいかもしれない。

 初めて出会った頃のテオ君はまだ商人見習いの新人さんで私に話しかけて仲良くしてくれました。

 薄茶色の髪にキラキラした琥珀色の瞳でいつもにこにこしているテオ君。商売をしているので人当たりが良くて平民の私にとても優しい。

 それに私と同じ年なのもあって直ぐ仲良くなれました。

 テオ君とって私はただの顧客かもしれませんがこの大神殿での大切なお友達でした。

 なんたって私は親からも要らないからと売られるほど嫌われている子でした。そんな人間だからきっと人から好かれることなんてありませんね。こうして大神殿でも嫌われていましたから。

 私の見た目はまるでカラスのように不吉な黒髪に青褪めたような汚い瞳と他の聖女見習いから言われていました。

 年の割に小さいのと全体的に薄っぺらいので成人しているのに年齢より若く見られることも多々ありました。

 ヘンリー王太子様もそう思っていたのでしょう。

 私のボディが小さいのは貧しい暮らしだったのと両親がそう大きい方ではなかったからだと思います。  

 そういえば八歳の時に村から地方の神殿に修行に出てからは家族にも会ったことが無いので顔もうろ覚えになっていますね。

 十歳のとき正式に聖女見習いとして認められて、素質有りと推薦されて王都の女神教の大神殿に移り、十五歳で大結界を守る聖女に選ばれて三年間務めました。

 それがとても激務だったのと食事も少ないから大きくなれなかったと私は思っています。

 主に胸なんかは平らに近いのでヘンリー王太子殿下がときおり残念そうにじろじろ見ていた。

 流石に私も王太子殿下のお顔は存じていますので、王宮で何度かお見掛けした際に王太子様は我儘ボディのお嬢様方をお側に侍らしておりました。

 私のような胸が未熟な者は好みでは無かったのでしょう。

「ど、どうしてですか?!」

 テオ君が叫ぶような声を上げたので私も我に返りました。

 私は早く私室を整理して旅支度をしなければならないので手短に説明しました。

 早くしないとヘンリー王太子殿下のご不興をかってもいけません。

「ええとさっき王城でヘンリー王太子殿下から聖女ではないと地位を剥奪されました。それに国外追放も言い渡されましたので急いでこの国を出なければなりません。一時的なものだそうですけどとにかく身辺整理と旅支度をするために部屋に戻ってきました。だから、急いでいます。この兵士の方は私が出ていくのを見届けてくださるそうです」

「聖女の地位剥奪に国外追放だって? なんでまたそんなことになったのですか……」

「……」

 テオ君に尋ねられても答えられませんでした。

 ――そんなこと分かりません。私の方こそお聞きしたい。でも、ヘンリー王太子様からはぼんやりした聖女とか仰っていましたね。でも、もう終わったことなのです。

 ごめんなさいと言いながら前を過ぎようとしたら、何故かテオ君は一緒について来ました。

 そして、どうやら私が着替えて支度している間に廊下でパーシーさんから追放の話を聞いていたみたいです。

 パーシーさんなら事情が分かっているので大丈夫でしょう。

 テオ君は私が支度をする間廊下で待っていました。そして私を見ると、

「聖女様。大体事情は分かりました。じゃあ、行く先は決まっていますか?」

「特にはありません。……急なことでしたので」

「じゃあ。決まっていないようなら東の国境で待ち合わせましょう。僕が着くまで待っていてくださいね。お願いしますよ。パーシーさん」

 テオ君はそう言うと慌ただしく去って行きました。
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