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31 僕の美味しい元聖女様(テオ視点)
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僕らは建設中のマルクトとペンテ共和国を行き来する忙しい日々を送っていた。
愛おしい僕の妻のミリアはマルクトで聖女見習い達を指導するために一緒に訪れている。
ときおり、ミリアの身体からほのかな光が溢れているのに他の誰も気がつかない。
ああ、マルクトの神官様は気づいているようだけどお互い何も言わない。
どうやら、僕の目はあの時、女神様の祝福の柱の光を浴びてから少し特別なものとなったようだ。
「聖女料理の朝はお粥、揚げたパンを付けてね。昼は田舎風スープのパスタと季節野菜の煮物に、デザートはアーモンドのプリンにマンゴーのソースかベリーのソースでね」
ミリアはマルクトの神殿で食べていた聖女料理を一般にも味わうことができるようにと奮闘していた。
ミレニア王国の女神教は打撃を受けたけれど女神様の教えは変わらない。
光の柱が立ったのは遠くの国々まで見えていたそうだ。
だから女神様との約束の地としてマルクトへ参拝者が集まって来るようになった。
でもミレニア王国の王族や貴族たちはことごとくモンスター達によって一掃されたので国としては機能できず今やペンテ共和国の一部のような扱いだけどその内そうなっていくかもしれない。
神殿経営は別にしてマルクトの神官様を中心にペンテ共和国のような住民代表制度の導入を進めているところだ。
それに元々神殿で住民の管理もしていたのでそう混乱はなかった。マルクトや他の地方神殿がなんとか残っていたので毎日生き残った住民の確認作業に追われている。
「うーん。マルクト神殿の目玉は聖女料理を売りにするとして、広場を市場でテラスを食堂として開放して予約制のランチとかにすれば今の人数でも捌けるよね」
ミリアは大神殿で食べていたメニューをアレンジしてより美味しい物にしようと頑張っている。時間があれば広場の屋台の味見をしたり、神殿の厨房で試作品を作ったりしている。
今日は広場の屋台でミリア監修の料理を確認していた。そこへ、ジョイが教会長の衣装を着てやって来た。周囲の視線が集まる。
「ミリア~。何か美味しい物ない? 今何作っているの?」
「あ、ジョイ。今度はこれよ。豆のスープにパスタを入れて煮込んだの」
「へえー。変わった匂いだね。でも美味しそう」
鍋から皿に移して湯気の立っているパスタをずぞぞとジョイが食べている。
「へえ。これってあの西方の豆を醸造したスープに太い麺を入れたものだよね。こんなになるんだ。美味しいし体がポカポカしてくる」
「これからの時期にピッタリでしょ」
ジョイは黙ってずぞぞと豆のスープパスタを食べている。そんな二人を見ていて僕はぼそりと呟いてしまった。
「結局、ジョイが教会長かぁ」
「何?」
「それなりに様になってきているのが不思議だ」
「それ褒めてるの?」
僕は心外だという表情をして見せた。
「もちろん。教会長様にはいろいろとご購入してくれないと我が商会も大損ですからね」
「商会のためかい」
ジョイが突っ込みを入れつつ、美味しかったので許すと立ち去った。
「しかし、高位な立場の者がふらふらと市場に来るとはよっぽど周囲の者がやり手か本人がやり手なのか」
「ふふ、ジョイが聞いたら喜ぶね。でも、新生マルクトは身分なんてないんだよ。自由にできるの!」
そうしてミリアはくるりとその場で回転をして見せた。白レースのエプロンもふうわりと遅れて舞った。ミリアはとても嬉しそうに笑っていた。
僕はそんな彼女を眩しそうに眺めた。
「そうそう、テオ、聖女饅頭も復活したんだよ! 住民の方が職人さんを見つけてきてくれたの。私は聖女だったのに食べたことなかったんだよね」
ミリアが差し出したのはほかほかと湯気が立っている聖女饅頭、中の具は西方の小さな豆を磨り潰して砂糖と練ってあるものだ。柔らかな甘さが女性に受けてヘルシーとかだなんだとか人気になっている。蒸してあるのでこれからの季節にぴったりのあったかいデザートだ。
「ほら、テオも食べよ! 美味しいよ! 既に半分は味見してあるんだけど」
そう言いつつ半分に割られた白い饅頭を差し出された。ミリアはニコニコしている。
甘いのは苦手だと言いかけたけどミリアがとても食べたそうなので、
「僕はいいからミリアが全部食べなよ」
「えっ。テオに食べさせてあげたかったんだよ」
口を尖らせて不満そうに言う姿がまた可愛い。
「じゃあ、これで……」
そっとミリアの口元に残っているかけらを舐め取ってにこりと彼女に微笑んでみせた。
「うん。美味しいね」
一瞬にして顔が真っ赤に染まって口元に手を当てた。
これでも結婚しているんだけど純情なのはやはり元聖女様だ。
「な、ななな、テオ!」
顔を真っ赤にしたまま慌てて周囲を見回すミリアと一部の住民は目が合ったが気を効かせてさっと逸らせてくれた。
良い心掛けだ。あとで何か振舞っておこう。僕は笑いをかみ殺しながら空を見上げた。
「今日もいい天気だ」
あのスカイブルーの空の上から女神様が覗いていらっしゃるかもしれない。
そんな気持ちにさせる小春日和だった。
◇◇◇あとがきめいたもの◇◇◇
お読みいただき、お気に入り、ご感想をありがとうございました。とても嬉しい限りです。
やっと二人にも穏やかな日々が来たようです。
マルクトが落ち着いたら二人はミリアの村、もう無いですが近くまで行商も兼ねて訪問して祈ったり、マーサさんや逃げ延びた村の人達と再会したりしてから二人の住むところを決めてまた商売を始めるはずです。
本当は追放されて寒村で空き店舗になっていたお店を譲ってもらって二人で商売を始めて繁盛させるというのが初期のプロットだったのですがどうしてかこのようなお話に。
話にでてきた聖女料理ですが精進料理を主に考えていました。聖女の生活は密教僧のを参考にしています。朝早くから夜中まで勤行されるそうで大変だなと。
お粥は気が付かれた方はいらっしゃるかもしれませんが、中華風のお粥のつもりで揚げたパンを付けました。昼のスープパスタはお蕎麦のつもりです。デザートは杏仁豆腐です。
屋台でジョイが食べていたのは「ほうとう」という料理です。最後の二人で食べたのはあんまんという統一感が無いものになりました。
それではまた別の作品でお会いできることを願って。
愛おしい僕の妻のミリアはマルクトで聖女見習い達を指導するために一緒に訪れている。
ときおり、ミリアの身体からほのかな光が溢れているのに他の誰も気がつかない。
ああ、マルクトの神官様は気づいているようだけどお互い何も言わない。
どうやら、僕の目はあの時、女神様の祝福の柱の光を浴びてから少し特別なものとなったようだ。
「聖女料理の朝はお粥、揚げたパンを付けてね。昼は田舎風スープのパスタと季節野菜の煮物に、デザートはアーモンドのプリンにマンゴーのソースかベリーのソースでね」
ミリアはマルクトの神殿で食べていた聖女料理を一般にも味わうことができるようにと奮闘していた。
ミレニア王国の女神教は打撃を受けたけれど女神様の教えは変わらない。
光の柱が立ったのは遠くの国々まで見えていたそうだ。
だから女神様との約束の地としてマルクトへ参拝者が集まって来るようになった。
でもミレニア王国の王族や貴族たちはことごとくモンスター達によって一掃されたので国としては機能できず今やペンテ共和国の一部のような扱いだけどその内そうなっていくかもしれない。
神殿経営は別にしてマルクトの神官様を中心にペンテ共和国のような住民代表制度の導入を進めているところだ。
それに元々神殿で住民の管理もしていたのでそう混乱はなかった。マルクトや他の地方神殿がなんとか残っていたので毎日生き残った住民の確認作業に追われている。
「うーん。マルクト神殿の目玉は聖女料理を売りにするとして、広場を市場でテラスを食堂として開放して予約制のランチとかにすれば今の人数でも捌けるよね」
ミリアは大神殿で食べていたメニューをアレンジしてより美味しい物にしようと頑張っている。時間があれば広場の屋台の味見をしたり、神殿の厨房で試作品を作ったりしている。
今日は広場の屋台でミリア監修の料理を確認していた。そこへ、ジョイが教会長の衣装を着てやって来た。周囲の視線が集まる。
「ミリア~。何か美味しい物ない? 今何作っているの?」
「あ、ジョイ。今度はこれよ。豆のスープにパスタを入れて煮込んだの」
「へえー。変わった匂いだね。でも美味しそう」
鍋から皿に移して湯気の立っているパスタをずぞぞとジョイが食べている。
「へえ。これってあの西方の豆を醸造したスープに太い麺を入れたものだよね。こんなになるんだ。美味しいし体がポカポカしてくる」
「これからの時期にピッタリでしょ」
ジョイは黙ってずぞぞと豆のスープパスタを食べている。そんな二人を見ていて僕はぼそりと呟いてしまった。
「結局、ジョイが教会長かぁ」
「何?」
「それなりに様になってきているのが不思議だ」
「それ褒めてるの?」
僕は心外だという表情をして見せた。
「もちろん。教会長様にはいろいろとご購入してくれないと我が商会も大損ですからね」
「商会のためかい」
ジョイが突っ込みを入れつつ、美味しかったので許すと立ち去った。
「しかし、高位な立場の者がふらふらと市場に来るとはよっぽど周囲の者がやり手か本人がやり手なのか」
「ふふ、ジョイが聞いたら喜ぶね。でも、新生マルクトは身分なんてないんだよ。自由にできるの!」
そうしてミリアはくるりとその場で回転をして見せた。白レースのエプロンもふうわりと遅れて舞った。ミリアはとても嬉しそうに笑っていた。
僕はそんな彼女を眩しそうに眺めた。
「そうそう、テオ、聖女饅頭も復活したんだよ! 住民の方が職人さんを見つけてきてくれたの。私は聖女だったのに食べたことなかったんだよね」
ミリアが差し出したのはほかほかと湯気が立っている聖女饅頭、中の具は西方の小さな豆を磨り潰して砂糖と練ってあるものだ。柔らかな甘さが女性に受けてヘルシーとかだなんだとか人気になっている。蒸してあるのでこれからの季節にぴったりのあったかいデザートだ。
「ほら、テオも食べよ! 美味しいよ! 既に半分は味見してあるんだけど」
そう言いつつ半分に割られた白い饅頭を差し出された。ミリアはニコニコしている。
甘いのは苦手だと言いかけたけどミリアがとても食べたそうなので、
「僕はいいからミリアが全部食べなよ」
「えっ。テオに食べさせてあげたかったんだよ」
口を尖らせて不満そうに言う姿がまた可愛い。
「じゃあ、これで……」
そっとミリアの口元に残っているかけらを舐め取ってにこりと彼女に微笑んでみせた。
「うん。美味しいね」
一瞬にして顔が真っ赤に染まって口元に手を当てた。
これでも結婚しているんだけど純情なのはやはり元聖女様だ。
「な、ななな、テオ!」
顔を真っ赤にしたまま慌てて周囲を見回すミリアと一部の住民は目が合ったが気を効かせてさっと逸らせてくれた。
良い心掛けだ。あとで何か振舞っておこう。僕は笑いをかみ殺しながら空を見上げた。
「今日もいい天気だ」
あのスカイブルーの空の上から女神様が覗いていらっしゃるかもしれない。
そんな気持ちにさせる小春日和だった。
◇◇◇あとがきめいたもの◇◇◇
お読みいただき、お気に入り、ご感想をありがとうございました。とても嬉しい限りです。
やっと二人にも穏やかな日々が来たようです。
マルクトが落ち着いたら二人はミリアの村、もう無いですが近くまで行商も兼ねて訪問して祈ったり、マーサさんや逃げ延びた村の人達と再会したりしてから二人の住むところを決めてまた商売を始めるはずです。
本当は追放されて寒村で空き店舗になっていたお店を譲ってもらって二人で商売を始めて繁盛させるというのが初期のプロットだったのですがどうしてかこのようなお話に。
話にでてきた聖女料理ですが精進料理を主に考えていました。聖女の生活は密教僧のを参考にしています。朝早くから夜中まで勤行されるそうで大変だなと。
お粥は気が付かれた方はいらっしゃるかもしれませんが、中華風のお粥のつもりで揚げたパンを付けました。昼のスープパスタはお蕎麦のつもりです。デザートは杏仁豆腐です。
屋台でジョイが食べていたのは「ほうとう」という料理です。最後の二人で食べたのはあんまんという統一感が無いものになりました。
それではまた別の作品でお会いできることを願って。
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