誘惑の延長線上、君を囲う。

桜井 響華

文字の大きさ
23 / 59
恋人みたいな過ごし方

1

「……ねぇ、日下部君、起きて……!」

「んー?……あれ、映画は?」

ふんぞり返って寝ていたベンチシートから上半身を起こしたが、完全に寝ぼけている。

「もう終わったよ。私達が最後だから急いで出よう」

日下部君をベンチシートから立たせた。大きなアクビをしている日下部君の背中を押して、半ば無理矢理にシアターから追い立てる。

レイトショーを見に行こうと自分から誘って来たが、眠くて寝てしまった日下部君。ラブミステリーものだったが断じて静かな音ではなかったはずだが、昨日からの寝不足には勝てなかったようだ。やけに熟睡していたから、普段からの仕事の疲れも出ていたのかもしれない。

そんな中、私に付き合ってくれている。どんな思惑から無理してまで付き合ってくれているのか?

「結末言わないでね!ブルーレイ出たらレンタルするから」

映画館を出て、コインパーキングまで歩く。その間に夕飯を食べる良いお店はないか吟味しながら、歩幅を小さくゆっくりと進む。

「……結末も何も中盤も寝てたよ」

「はぁ?寝てないし」

ギロリ、と鋭い目付きで私を睨む。まるで子供みたいに否定している日下部君が可愛らしく思えて、笑みがこぼれた。

「あ、良い匂い!ラーメン屋さん!」

「夕飯、ラーメンにする?」

「焼肉の匂いもして来た。串カツも食べたい……!」

飲食店が建ち並ぶ場所があり、辺りからは良い香りが漂っていた。若い人達やサラリーマン達が出入りしているのが伺える。今日は金曜日だもんね、そりゃ賑わうよね。

「佐藤、意外にもガッツリ系が好きなんだな」

「ち、違うもん!良い匂いがしたから……!」

「寝たら腹減ったから、ガッツリ系付き合います」

「だから、違うって!」

慌てて打ち消したが、ラーメンとか焼肉とか本当は大好き。女友達と外食する時はオシャレなお店が多いから、ガッツリ系やラーメン屋さんは行かない。行きたくても女一人ではどちらも行きにくく、しばらく満喫していなかった為、やたらと視覚と嗅覚を刺激されたのだ。

「焼肉ってお酒飲みたくなるよね」

私が食べたそうにしていたのが滲み出ていたのか、夕飯は焼肉になった。

「今日は俺は飲まないけど、遠慮しないで飲んでいいよ」

「……日下部君が運転だから、今日は止めとく」

場所的に車を置いていくには不便だし、昨日の今日だから日下部君はお酒をセーブしているらしい。

「帰ってから飲もう。送って行くから荷物取りに帰って、俺ん家来いよ」

「……は?」

「佐藤はどうせ、明日も用事がないんだろ。だったら、今日も泊まって行けよ」

「何で用事がないって決めつけるの?」

「……俺の勘」

確かに明日も用事なんてないですけど!サンチュを巻きながら平然とお肉を食べている日下部君は、私を今日も泊まらせてどうするのだろう?

「暇なんだったら、どこか連れて行ってやるよ。どこが良い?」

「随分と上から目線ね!どうせ日下部君だって暇だから私を誘ってるんだろうから、しょうがないから付き合ってあげるよ」

「素直じゃないねぇ……」

「どっちが?」

まともに会話してたら、急な誘いに心拍数が上がってドギマギしてしまい、対応なんて出来ない。けれども、素直に行きたいと言える私でもなく、結局は可愛くない私が顔を出して対応する。

心底嬉しいと叫びたい位なんだよ。高校時代の恋愛を拗らせてるからか素直になれずに子供みたいだ。
感想 3

あなたにおすすめの小説

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"

桜井 響華
恋愛
派遣受付嬢をしている胡桃沢 和奏は、副社長専属秘書である相良 大貴に一目惚れをして勢い余って告白してしまうが、冷たくあしらわれる。諦めモードで日々過ごしていたが、チャンス到来───!?

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。 専務は御曹司の元上司。 その専務が社内政争に巻き込まれ退任。 菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。 居場所がなくなった彼女は退職を希望したが 支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。 ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に 海外にいたはずの御曹司が現れて?!

【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―

七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。 彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』 実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。 ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。 口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。 「また来る」 そう言い残して去った彼。 しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。 「俺専属の嬢になって欲しい」 ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。 突然の取引提案に戸惑う優美。 しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。 恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。 立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。