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ひと夏の思い出
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透明な液体だったので、ジンやウォッカ、又は焼酎のロックかと思っていたが水だった。
「せっかくだからホテルのバーにも行きたいし、セーブしておかないとな」
そう言いながらカラン、カランとグラスを回して氷で音を出す。日下部君よりも私の方が、お酒に強いと思う。日下部君は常に、生ビールを飲みたがるくせに三杯以上は飲まない。再会した日に飲んでいたウィスキーは本当にやけ酒だったから、選んだのだろう。
「一旦、酔い覚ましをするのならば、夜の散歩コースに行かない?明日の朝も歩いてみたいけど、夜はどんな雰囲気なのかを知りたい」
「琴葉は自然に触れるのが本当に好きだよな」
「うん、自然に囲まれてると癒されるから。川沿いに蛍が見える場所があるらしいよ」
幼い頃から、地方の祖父母宅へ行くのが楽しみだった。自然に囲まれている場所で、祖父母宅の裏側には山がそびえ立ち、周りには畑や田んぼがある。家の近くを流れる川岸には、夜になると蛍が現れた。ふわふわと舞う、小さな明かりがとても興味深く、時間の許す限りは眺めていた。夜空も澄んでいて、瞬いている星も輝いている。幼い頃の小さな自分では、吸い込まれそうな星空が怖いくらいだった。怖さを感じながら、父の手をぎゅっと握りしめて眺めていた。
広大な自然に囲まれていると癒される事を知った私は、都会に住んでいても、いつしか癒しを求めるようになっていた。
「蛍か……。初めて見るかも」
「祖父母の家が地方にあるの。そこに川があって、すっごく綺麗な蛍達が見られたの。残念ながら、今はもう祖父母は亡くなってしまったから、地方に行く事も無くなってしまったのだけど……」
「そっか。じゃあ、そろそろ、行こうか?」
不意に微笑んだ日下部君に手を引かれ、私達はビアガーデンを後にした。一旦、部屋に戻り、虫除けスプレーを身体に振りかけてサンダルからスニーカーへと履き替えた。
ホテルの係員に先導され、場所に向かう。21時までが入場時間だったらしく、滑り込みセーフ。カップルや家族連れがぞろぞろと列を成して向かっていた。
「きゃっ!」
「どうしたの?」
「足元に何かが張り付いた!か、蛙だ……!」
「大丈夫か?ほら、足元も薄暗いから気をつけて」
アンクル丈のパンツを履いていて、肌が露出している部分にピタッと何かが張り付き、変な声を上げてしまった。蛙は触れなくはないが、不意打ちに出てくるのは苦手だし、感触は苦手。日下部君はそっと手を繋いでくれて、再び歩き出した。
ホテルから出て、少し歩いた場所に川岸がある。足元にある小さなライトと月明かりを頼りに木で出来た通路を歩いていく。周りには水芭蕉の群生地との看板もある。
「あっ、蛍かな?光ったよ」
歩いている途中に、幼い女の子が小さな光を指さして言った。ふわふわと飛んでいる黄色がかった光は、紛れもなく蛍。更に先に進んで行くと、何匹か蛍がいるらしく、ふわふわと飛んでいた。
「初めて見たけど、綺麗だな」
日下部君が呟く。
「祖父母の家の近くでは、もっと沢山の蛍が見えたんだ。今も見えるかは分からないけど、いつの日か、日下部君にも見せてあげたいな……」
日下部君は何匹かの蛍に感激していたが、私の知っている蛍はもっと一面に舞っていた。一面に舞う蛍はもっと綺麗だよと見て感じて欲しい。しかし、これだけ自然に囲まれている場所でも、蛍がこれしか居ないのは残念だ。悲しい現実である。
「いつか、行こうな。琴葉とは約束事が沢山あるから、叶えきれないかもな」
珍しく、はにかみながら笑う日下部君に心を鷲掴みにされる。キュンとときめいてしまい、ドキドキが止まらない。照れくささを隠すように、ぎゅっと手を握り返し、「そろそろ行こう」と言って先に歩き出した。
約束事が沢山あるって、ビアガーデンには連れて来て貰ったし、後は何だったのかな?聞き返しもせずに歩く。
部屋に戻った後は、今度はスニーカーからサンダルに履き替えてバーに向かう。日下部君は飲み始めはビールを飲んでいたが、飽きたのかジンベースのマティーニを飲んでいた。マティーニが空になり、次第に虚ろな目になってきた日下部君だった。
「明日は温泉に泊まるけど、帰りに寄り道したい場所を探しておいて」
「うん、分かった。日下部君はどこかある?」
「特には無いから、琴葉が決めて」
私も日下部君と同じくオーダーしたマティーニを飲み干し、しばし、考える。お盆が明けたら仕事だから、職場の子達にお土産買って行こうかな?とか。日下部君に「カクテルをおかわりする?」と聞こうと思ったが、もの凄く眠そうだったから部屋に戻る事にした。
部屋に戻った日下部君は私がシャワーを浴びている間にソファーで寝てしまっていた。私は一人でベッドに潜り込み、行きたい場所をスマホで検索している内に寝落ちしていた。朝方、目が覚めるとソファーで寝ていたはずの日下部君が隣で寝ていて、「ギリギリまで寝よ」と言われて腕の中に収められる。朝食の時間までもう少しあるから、一緒に寝ちゃおう……。
「せっかくだからホテルのバーにも行きたいし、セーブしておかないとな」
そう言いながらカラン、カランとグラスを回して氷で音を出す。日下部君よりも私の方が、お酒に強いと思う。日下部君は常に、生ビールを飲みたがるくせに三杯以上は飲まない。再会した日に飲んでいたウィスキーは本当にやけ酒だったから、選んだのだろう。
「一旦、酔い覚ましをするのならば、夜の散歩コースに行かない?明日の朝も歩いてみたいけど、夜はどんな雰囲気なのかを知りたい」
「琴葉は自然に触れるのが本当に好きだよな」
「うん、自然に囲まれてると癒されるから。川沿いに蛍が見える場所があるらしいよ」
幼い頃から、地方の祖父母宅へ行くのが楽しみだった。自然に囲まれている場所で、祖父母宅の裏側には山がそびえ立ち、周りには畑や田んぼがある。家の近くを流れる川岸には、夜になると蛍が現れた。ふわふわと舞う、小さな明かりがとても興味深く、時間の許す限りは眺めていた。夜空も澄んでいて、瞬いている星も輝いている。幼い頃の小さな自分では、吸い込まれそうな星空が怖いくらいだった。怖さを感じながら、父の手をぎゅっと握りしめて眺めていた。
広大な自然に囲まれていると癒される事を知った私は、都会に住んでいても、いつしか癒しを求めるようになっていた。
「蛍か……。初めて見るかも」
「祖父母の家が地方にあるの。そこに川があって、すっごく綺麗な蛍達が見られたの。残念ながら、今はもう祖父母は亡くなってしまったから、地方に行く事も無くなってしまったのだけど……」
「そっか。じゃあ、そろそろ、行こうか?」
不意に微笑んだ日下部君に手を引かれ、私達はビアガーデンを後にした。一旦、部屋に戻り、虫除けスプレーを身体に振りかけてサンダルからスニーカーへと履き替えた。
ホテルの係員に先導され、場所に向かう。21時までが入場時間だったらしく、滑り込みセーフ。カップルや家族連れがぞろぞろと列を成して向かっていた。
「きゃっ!」
「どうしたの?」
「足元に何かが張り付いた!か、蛙だ……!」
「大丈夫か?ほら、足元も薄暗いから気をつけて」
アンクル丈のパンツを履いていて、肌が露出している部分にピタッと何かが張り付き、変な声を上げてしまった。蛙は触れなくはないが、不意打ちに出てくるのは苦手だし、感触は苦手。日下部君はそっと手を繋いでくれて、再び歩き出した。
ホテルから出て、少し歩いた場所に川岸がある。足元にある小さなライトと月明かりを頼りに木で出来た通路を歩いていく。周りには水芭蕉の群生地との看板もある。
「あっ、蛍かな?光ったよ」
歩いている途中に、幼い女の子が小さな光を指さして言った。ふわふわと飛んでいる黄色がかった光は、紛れもなく蛍。更に先に進んで行くと、何匹か蛍がいるらしく、ふわふわと飛んでいた。
「初めて見たけど、綺麗だな」
日下部君が呟く。
「祖父母の家の近くでは、もっと沢山の蛍が見えたんだ。今も見えるかは分からないけど、いつの日か、日下部君にも見せてあげたいな……」
日下部君は何匹かの蛍に感激していたが、私の知っている蛍はもっと一面に舞っていた。一面に舞う蛍はもっと綺麗だよと見て感じて欲しい。しかし、これだけ自然に囲まれている場所でも、蛍がこれしか居ないのは残念だ。悲しい現実である。
「いつか、行こうな。琴葉とは約束事が沢山あるから、叶えきれないかもな」
珍しく、はにかみながら笑う日下部君に心を鷲掴みにされる。キュンとときめいてしまい、ドキドキが止まらない。照れくささを隠すように、ぎゅっと手を握り返し、「そろそろ行こう」と言って先に歩き出した。
約束事が沢山あるって、ビアガーデンには連れて来て貰ったし、後は何だったのかな?聞き返しもせずに歩く。
部屋に戻った後は、今度はスニーカーからサンダルに履き替えてバーに向かう。日下部君は飲み始めはビールを飲んでいたが、飽きたのかジンベースのマティーニを飲んでいた。マティーニが空になり、次第に虚ろな目になってきた日下部君だった。
「明日は温泉に泊まるけど、帰りに寄り道したい場所を探しておいて」
「うん、分かった。日下部君はどこかある?」
「特には無いから、琴葉が決めて」
私も日下部君と同じくオーダーしたマティーニを飲み干し、しばし、考える。お盆が明けたら仕事だから、職場の子達にお土産買って行こうかな?とか。日下部君に「カクテルをおかわりする?」と聞こうと思ったが、もの凄く眠そうだったから部屋に戻る事にした。
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