47 / 70
お客様は神さま!……ではありません?
4
しおりを挟む
まず初めに幸田様にシャンパンを注いだ後、前菜を提供した。締めくくりのデセール(食後のデザート)を提供するまで、私達は食事をなさっている幸田様のお話を聞きながら、傍に立って居た。
幸田様の大学時代の話や配膳会での笑い話など、話を聞いている限りでは至って普通だった。私が思っていたよりも、親しみ易い方だったのかもしれない。毛嫌いしていた事を申し訳なく感じる。
「ご馳走様でした。篠宮さんと中里さんにサービスして貰って良かった。最高の卒業旅行になりそうだよ」
デセールを食べ終わり、最後のコーヒー一口を飲み干した幸田様は笑顔を見せた。
「篠宮さんと中里さんにプレゼントがあるんだ。来てくれると想定して用意してた、ベルギー産のチョコレート。本場限定品なんだよ」
「お気持ちは有難いのですが、貴重なチョコレートを私共は頂く事は出来ません!」
ついつい受け取りそうになってしまったが、我がホテルでは個人的な贈り物は、一先ずお断りするのがルールとなっている。後々のトラブルを避ける為だ。
「そう固いことは言わずに受け取ってよね?はい!…受け取ってくれないとゴミ箱行きだから可哀想でしょ?」
無理矢理に渡されたチョコレートを手の内に収められる。仕方なく受け取ったと言えば聞こえは悪いが、再度渡されたのでお礼を言った。素直に喜ぶ事が出来たら良かったのだが、幸田様には裏があるような気がしてならない。わだかまりを溶かしつつも、疑いは晴れないままだ。
このチョコレートは支配人室で食べたメーカーの物だった。強いて言えばパッケージは食べた物よりも小さいが、見た目が同じようなので想像するに中身はほぼ一緒なのかもしれない。
「この後はラウンジに友達を呼んであるんだ。良かったら、顔出してね」
「勤務中ですので、お伺い出来るかどうかはお約束出来ません」
「相変わらず、篠宮さんは真面目だね。ちょっと…本のちょっとで良いんだ。顔を見せてくれるだけで」
「……かしこまりました。お友達がいらっしゃいましたら、御挨拶にお伺い致します」
「宜しくね。中里さんも来れたら来てね」
幸田様は笑顔を絶やさずに居たが、私の表情は強ばっていたかもしれない。ルームサービスを終えて、客室を出た後に優月ちゃんが私の顔色の悪さに気付いた。
「大丈夫?気分悪い?」
「だ、大丈夫だよ。……こんな事は言っちゃいけないんだけど、幸田様の笑顔の裏には何かありそうで…やっぱり怖い」
一颯さんのマンションに向かう途中に後をつけられていた事、勤務中にも関わらずに執拗にプライベートを聞き出そうとする姿勢、私には初めての経験で何だか怖い。男性との付き合いの経験も乏しい私には上手く交わせなくて、ついつい怒っているような突っぱねてしまっているような態度をとってしまいがち。そんな態度が余計に幸田様の機嫌を損ねているとしたら……?
「恵里奈ちゃんは怖い思いもしてるんだから、そう思っても仕方ないよ。私も一緒にラウンジに行こうか?」
「ううん、大丈夫。フロアには高見沢さんも居るから何とかなりそうだよ。それよりも、遅い時間まで有難う」
私は首を横に振り、優月ちゃんの好意を断った。傍についていてくれた星野さんが一颯さんに電話で様子を伝えてくれて、ラウンジに立ち寄る時は傍で見守ってくれる事になった。
「支配人には連絡したから、緊急時はすぐ対処出来ると思う。篠宮さん、一人で解決しようとせず、皆を頼ってくれて良いんだよ。皆、仲間なんだから…」
「はい、有難う御座います!心強いです」
「とりあえずは夜は支配人に任せる事にして、翌朝は俺がラウンジに様子を見に来るね」
私は星野さんと優月ちゃんに助けられ、幸田様の宿泊を乗り切ろうとした。……が、しかし、先程はあんなにも笑顔を見せていた幸田様が暴走するとは───……
幸田様のお友達が来店したとの連絡を受けて、私もラウンジに向かった。お友達は清楚な格好をしていて、品のある大学生に見える方々だった。見かけで人を判断してはいけないのだが、その姿を見ては胸を撫で下ろす。
「篠宮さん、来てくれたんだね!」
幸田様は私を見つけるなり、手招きをして呼び寄せる。
「初めまして、篠宮と申します。幸田様には配膳会の繋がりでお世話になっております。皆様、本日はお越しくださり有難う御座います。時間の許す限り、皆様で御歓談していって下さいね」
「へぇー、篠宮さんって言うんだ。可愛いね」
「可愛いけど、隼人よりも年上なの?見えないねー。同じ位かと思った!」
私は精一杯の挨拶をして、自分なりの最上級の笑顔を見せた。お友達が私を見てはひやかし、私の手を取っては握手をして来たりした。早く去りたいけれど、私が早々と去った事により問題を起こされては困るので我慢した。
「篠宮さん、何時に上がれる?」
「今日は遅番なので、まだ退勤を押す時間にはなりません」
「一緒に飲も?」
「お客様と御一緒する事は出来かねます」
奥側に座っていた幸田様がニヤリ、と笑ってお酒を交わす誘いをして来たが私は直ぐ様、断りを入れた。
幸田様の大学時代の話や配膳会での笑い話など、話を聞いている限りでは至って普通だった。私が思っていたよりも、親しみ易い方だったのかもしれない。毛嫌いしていた事を申し訳なく感じる。
「ご馳走様でした。篠宮さんと中里さんにサービスして貰って良かった。最高の卒業旅行になりそうだよ」
デセールを食べ終わり、最後のコーヒー一口を飲み干した幸田様は笑顔を見せた。
「篠宮さんと中里さんにプレゼントがあるんだ。来てくれると想定して用意してた、ベルギー産のチョコレート。本場限定品なんだよ」
「お気持ちは有難いのですが、貴重なチョコレートを私共は頂く事は出来ません!」
ついつい受け取りそうになってしまったが、我がホテルでは個人的な贈り物は、一先ずお断りするのがルールとなっている。後々のトラブルを避ける為だ。
「そう固いことは言わずに受け取ってよね?はい!…受け取ってくれないとゴミ箱行きだから可哀想でしょ?」
無理矢理に渡されたチョコレートを手の内に収められる。仕方なく受け取ったと言えば聞こえは悪いが、再度渡されたのでお礼を言った。素直に喜ぶ事が出来たら良かったのだが、幸田様には裏があるような気がしてならない。わだかまりを溶かしつつも、疑いは晴れないままだ。
このチョコレートは支配人室で食べたメーカーの物だった。強いて言えばパッケージは食べた物よりも小さいが、見た目が同じようなので想像するに中身はほぼ一緒なのかもしれない。
「この後はラウンジに友達を呼んであるんだ。良かったら、顔出してね」
「勤務中ですので、お伺い出来るかどうかはお約束出来ません」
「相変わらず、篠宮さんは真面目だね。ちょっと…本のちょっとで良いんだ。顔を見せてくれるだけで」
「……かしこまりました。お友達がいらっしゃいましたら、御挨拶にお伺い致します」
「宜しくね。中里さんも来れたら来てね」
幸田様は笑顔を絶やさずに居たが、私の表情は強ばっていたかもしれない。ルームサービスを終えて、客室を出た後に優月ちゃんが私の顔色の悪さに気付いた。
「大丈夫?気分悪い?」
「だ、大丈夫だよ。……こんな事は言っちゃいけないんだけど、幸田様の笑顔の裏には何かありそうで…やっぱり怖い」
一颯さんのマンションに向かう途中に後をつけられていた事、勤務中にも関わらずに執拗にプライベートを聞き出そうとする姿勢、私には初めての経験で何だか怖い。男性との付き合いの経験も乏しい私には上手く交わせなくて、ついつい怒っているような突っぱねてしまっているような態度をとってしまいがち。そんな態度が余計に幸田様の機嫌を損ねているとしたら……?
「恵里奈ちゃんは怖い思いもしてるんだから、そう思っても仕方ないよ。私も一緒にラウンジに行こうか?」
「ううん、大丈夫。フロアには高見沢さんも居るから何とかなりそうだよ。それよりも、遅い時間まで有難う」
私は首を横に振り、優月ちゃんの好意を断った。傍についていてくれた星野さんが一颯さんに電話で様子を伝えてくれて、ラウンジに立ち寄る時は傍で見守ってくれる事になった。
「支配人には連絡したから、緊急時はすぐ対処出来ると思う。篠宮さん、一人で解決しようとせず、皆を頼ってくれて良いんだよ。皆、仲間なんだから…」
「はい、有難う御座います!心強いです」
「とりあえずは夜は支配人に任せる事にして、翌朝は俺がラウンジに様子を見に来るね」
私は星野さんと優月ちゃんに助けられ、幸田様の宿泊を乗り切ろうとした。……が、しかし、先程はあんなにも笑顔を見せていた幸田様が暴走するとは───……
幸田様のお友達が来店したとの連絡を受けて、私もラウンジに向かった。お友達は清楚な格好をしていて、品のある大学生に見える方々だった。見かけで人を判断してはいけないのだが、その姿を見ては胸を撫で下ろす。
「篠宮さん、来てくれたんだね!」
幸田様は私を見つけるなり、手招きをして呼び寄せる。
「初めまして、篠宮と申します。幸田様には配膳会の繋がりでお世話になっております。皆様、本日はお越しくださり有難う御座います。時間の許す限り、皆様で御歓談していって下さいね」
「へぇー、篠宮さんって言うんだ。可愛いね」
「可愛いけど、隼人よりも年上なの?見えないねー。同じ位かと思った!」
私は精一杯の挨拶をして、自分なりの最上級の笑顔を見せた。お友達が私を見てはひやかし、私の手を取っては握手をして来たりした。早く去りたいけれど、私が早々と去った事により問題を起こされては困るので我慢した。
「篠宮さん、何時に上がれる?」
「今日は遅番なので、まだ退勤を押す時間にはなりません」
「一緒に飲も?」
「お客様と御一緒する事は出来かねます」
奥側に座っていた幸田様がニヤリ、と笑ってお酒を交わす誘いをして来たが私は直ぐ様、断りを入れた。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「ひなちゃん。
俺と結婚、しよ?」
兄の結婚式で昔、お隣に住んでいた憧れのお兄ちゃん・猪狩に再会した雛乃。
昔話をしているうちに結婚を迫られ、冗談だと思ったものの。
それから猪狩の猛追撃が!?
相変わらず格好いい猪狩に次第に惹かれていく雛乃。
でも、彼のとある事情で結婚には踏み切れない。
そんな折り、雛乃の勤めている銀行で事件が……。
愛川雛乃 あいかわひなの 26
ごく普通の地方銀行員
某着せ替え人形のような見た目で可愛い
おかげで女性からは恨みを買いがちなのが悩み
真面目で努力家なのに、
なぜかよくない噂を立てられる苦労人
×
岡藤猪狩 おかふじいかり 36
警察官でSIT所属のエリート
泣く子も黙る突入部隊の鬼隊長
でも、雛乃には……?
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
ズボラ上司の甘い罠
松丹子
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。
仕事はできる人なのに、あまりにももったいない!
かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。
やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか?
上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。
定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました
藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。
そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。
ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。
その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。
仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。
会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。
これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる