惨死終に(さんしじゅうに)

ちいちご

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第四章

暴かれよ羊飼いⅠ

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家にいてたまたま、ヒュプノスと2人きりになる機会があった。きっかけは本当に、それくらいのものだった気がする。

「画面酔いするんだっけ、悪いね。お前にもゲーム機は貸したげるよ。それとも漫画がいーい?」
「じゃあ、漫画で。あ、裏表紙があるタイプだ、これ。」

彼は相変わらずFPSゲームをやっていて、その肩辺りにある三つ編みは意思を持っているかのようにふらふらと揺れていた。――このひとは本当に飄々としていて、性悪で、何を考えているか全然わからないと思う。

ふと思った。わたし、この人に関してだけあまり過去のことを知らない。

普段からこの人にからかわれっぱなしで、常に負けっぱなし。辱めてやろうなんて気はないけど…ちょっとくらい、睡魔さんに対してはしてやられたという悔しそうな顔をさせてみたい。

そう思ったら、行動はすぐだった。

「漫画読んでると静かだねえ、熱中しちゃう?」
「……睡魔さん」

あ?という顔でこちらを見る彼。

「最近、タナトスさんとオネイロスさんについては結構知れたと思ってて。いっぱい見せてもらえたから、わかるんですけど。」
「ふんふん、それで?」 
「わたし、そういえば睡魔さんのこと何も知らないんです、だから――」
「…“教えてください”、ってやつ?あはっ」

――相手の動きが速い。ヒュプノスに頭を少し強めに掴まれて上を向かされる。彼の瞳を覗き込む形になって、驚きで息を呑む。

彼の瞳…瞳孔がぐるぐると渦を巻いていた。

「…わたしと同じみたいな目になってません?」
「元祖がボクなんですぅ~。ヒプノシスって言葉、割と最近よく見るだろ。あれはギリシア語の眠り…つまり実質ボクが語源なわけさ。そして、その言葉の意味は――催眠術。」

…これは、まずいんじゃないか。今更気づくわたしを嘲笑うように彼が顔を近づけてくる。
「喧嘩を売る相手を間違えたねぇ、ガキが。ちょーっとお兄ちゃんに怒られない程度にお仕置きしてあげようかな。――さあ、そのまま動くな。目を合わせ続けろ。」

ヒュプノスが一息おいて発した言葉には、何らかの強制力が備わっているらしかった。…その指示の通り、身体が石像にでもなったかのように固まる。
「…!!」

まずい、まずいまずいまずい。この作品に無意味につけられた暴力性描写残酷描写レーティングがついに意味を成してしまうかもしれない。やっぱり何かしらされてしまうんだ。紅一点だもの。

「…ハァ~イ、いい子。だんだん腕が重たくなってきたね~。もう動かないんじゃない?じゃあ次は……頭かな。」

彼の大きな瞳がにま、と三日月を形作り、それを見たわたしははく、と息を漏らす。――絶体絶命だった。

 
その、数十分後のこと。

「全身が、重たすぎるんですけどッ…!!!!」
「あっははははは!好い様だね~!!」

結果として、ヒュプノスから一般的にはセンシティブとされるレーティングがつくようなことはされなかった。只々、催眠術でおちょくられただけ。

「ゆるさない……ゆるさないですから……」
「どうやって見返してくるか楽しみでちゅね~っ、あははははは!」

この人に喧嘩を売るときは、もうちょっと事前準備を整えてからしようと、固く誓ったのだった。
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