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がっこうにいこう!
146.5話「最高で最悪の晩酌」
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琥珀色の液体を少量口に含むと、ツンとした酒の味と上品な香りが鼻腔を通り抜け、喉を通れば胸を焦がす様な熱さが広がっていく。
魔法騎士団の長ともなれば、やはり嗜む酒も別格なのだろう。
「カーーッ! コイツは効くなぁ!」
目の前の下品な男とは、やはり合わない。
「かの聖女様からの頂き物だぞ。もう少し味わって飲んだらどうだ。」
そう、この酒は聖女と呼ばれる魔法騎士団長からの贈り物である。
我らの団長から聞いた話では、どうやら大層オレの事がお気に召して頂けたらしい。
口ぶりから”男女の仲で”という意味ではなさそうだが。
「・・・・・・? 味わってるじゃねぇか。」
そう言いながらハゲが酒瓶を傾け、自分の杯にドポドポと酒を注ぎ足す。
そのまま一気に杯を煽り、腹の中へ収めてしまった。
・・・・・・勿体無い。
何故コイツはオレが良い酒を開けた時に必ずやって来るんだ?
「それにしても、無事に片がついて良かったじゃねぇか。」
「団長が一人で収めてしまわれたがな。」
「ハハハッ、これからも団長に任せておけば安泰だ!」
「・・・・・・そういう訳にもいかないだろう。」
「おいおい・・・・・・まさか、お前も裏切るってえ話じゃねえよな?」
「団長が学院を卒業なされれば、いずれこの街を離れられる時が来る。そんな時に頼りきったままではいられないだろう?」
「そ、そうなのか・・・・・・?」
「だから騎士団の傘下にも入った。」
そして、その時点で自警団の最高責任者は自分という事にされた。されてしまった。
混乱を防ぐため今は伏せて貰っているが、それも団長の卒業までである。
「でもよぉ、団長なしでやっていけるのか?」
「・・・・・・やっていくしかないんだ。」
ハゲを真似て杯を煽り、残っていた酒を喉奥に一気に流し込んだ。
カッとむせる様な熱さが胃の中から沸き上がってくる。
ハゲの酌を受け、空になったグラスに新しく酒が注がれていく。
「ところで、こんな所で酒なんざ飲んでていいのか?」
「良いも何も、ここはオレの部屋だぞ。」
「そうじゃなくてだなぁ・・・・・・。サラサ嬢のことは放っておいていいのか?」
「・・・・・・・・・・・・ソフィア嬢が付いている、問題ない。」
「ま、これ以上は言わねぇけどよ。」
手酌で新たに注がれた杯をハゲがまた空っぽにしてしまう。
どこからともなく漏れ出た溜息が、窓から見える月夜に溶けていった。
「お前こそどうなんだ、ソフィア嬢とは。」
顔もそうだが、何よりあの身体である。
目を奪われない男は居ないであろう。
不幸にもラムス氏の目に留まってしまった訳だが。
そしてそんなソフィア嬢に魅了されてしまった内の一人が、目の前の男だ。
暇を作っては声をかけに行き、あえなく玉砕している姿をよく見かける。
「あぁ~・・・・・・、ありゃあダメだな。全く脈がある気がしねぇ。」
「・・・・・・驚いたな。よく分かってるじゃないか。」
「あぁ!? どういう意味だそりゃ!?」
「所構わず声を掛けては何度もフラれてるじゃないか。」
「そりゃあ・・・・・・今更退けるかってんだよ!」
「いい加減にしておかないと、余計に嫌われるぞ?」
そうでなくとも若干避けられ気味だと言うのに。
だが彼女に何をしようとも全て無駄に終わるだろう。
そもそも、彼女の目には――
「あン? こんな時間に誰か来たみたいだぞ?」
扉を叩く音に思考を中断させる。
手に持っていた杯を置いて席を立ち、扉を開いた。
「サラ・・・・・・。いえ、サラサ嬢。このような時間に如何なされましたか?」
「・・・・・・中、入っていい?」
「えぇ、どうぞ。」
扉を開いたままサラサ嬢を招き入れる。
椅子を用意して勧めるが、彼女は腰を落ち着けようとはしなかった。
自分だけ席に着く訳にもいかず、顔を伏せたサラサ嬢の言葉を待つ。
「あーっと・・・・・・これっぽっちじゃ飲んだ気がしねぇからよ、街で飲んでくらぁ。じゃあな!」
「あっ・・・・・・オイ!」
ハゲは最後にもう一度杯を空にし、オレの言葉を待たずにそそくさと部屋から出て行った。
静かになった部屋でサラサ嬢と二人きりになる。
酒のせいか、胸がジリジリと熱く灼けてくるようだ。
「それで、どう言ったご用向きでしょうか?」
「・・・・・・。」
サラサ嬢は答えず、俯いたまま。
「・・・・・・サラサ嬢? っ・・・・・・何を!?」
胸元でサラサ嬢の髪が揺れ、ふわりと香水の香りが漂ってきた。
しがみつく様に背中に回された腕は微かに震えている。
「ねぇ、私をオンナにしてよ・・・・・・。」
「・・・・・・いけません、サラサ嬢。」
彼女の肩を掴み、ゆっくりと身体から引き剥がす。
「どうして・・・・・・どうしてダメなの!?」
「団長の奴隷(モノ)に手を出す訳にはまいりません。」
彼女を・・・・・・サラを団長の庇護下に置いてもらう為そうしたのは他でも無い自分。
それを自ら破る事などできない。してはならない。
結局はどちらの組も無くなってしまったが、そこに居た人も、諍いの記憶も、そう簡単に消えはしないのだ。
「もう、知らない・・・・・・アンタなんか・・・・・・。」
涙を一雫だけ落とし、呟いた。
掛ける言葉を見つけられず、ただ黙って、静かに去る彼女の背を見送った。
「フゥ・・・・・・・・・・・・。」
背を預けた椅子が咎めるようにギシリと軋んだ。
杯を手に取り、残っていた酒を流し込む。
やはり最高の酒だ。今まで飲んだ中では一番だろう。
ただ、こんな最悪な気分の時には、最悪な酒が飲みたいと・・・・・・そう思った。
魔法騎士団の長ともなれば、やはり嗜む酒も別格なのだろう。
「カーーッ! コイツは効くなぁ!」
目の前の下品な男とは、やはり合わない。
「かの聖女様からの頂き物だぞ。もう少し味わって飲んだらどうだ。」
そう、この酒は聖女と呼ばれる魔法騎士団長からの贈り物である。
我らの団長から聞いた話では、どうやら大層オレの事がお気に召して頂けたらしい。
口ぶりから”男女の仲で”という意味ではなさそうだが。
「・・・・・・? 味わってるじゃねぇか。」
そう言いながらハゲが酒瓶を傾け、自分の杯にドポドポと酒を注ぎ足す。
そのまま一気に杯を煽り、腹の中へ収めてしまった。
・・・・・・勿体無い。
何故コイツはオレが良い酒を開けた時に必ずやって来るんだ?
「それにしても、無事に片がついて良かったじゃねぇか。」
「団長が一人で収めてしまわれたがな。」
「ハハハッ、これからも団長に任せておけば安泰だ!」
「・・・・・・そういう訳にもいかないだろう。」
「おいおい・・・・・・まさか、お前も裏切るってえ話じゃねえよな?」
「団長が学院を卒業なされれば、いずれこの街を離れられる時が来る。そんな時に頼りきったままではいられないだろう?」
「そ、そうなのか・・・・・・?」
「だから騎士団の傘下にも入った。」
そして、その時点で自警団の最高責任者は自分という事にされた。されてしまった。
混乱を防ぐため今は伏せて貰っているが、それも団長の卒業までである。
「でもよぉ、団長なしでやっていけるのか?」
「・・・・・・やっていくしかないんだ。」
ハゲを真似て杯を煽り、残っていた酒を喉奥に一気に流し込んだ。
カッとむせる様な熱さが胃の中から沸き上がってくる。
ハゲの酌を受け、空になったグラスに新しく酒が注がれていく。
「ところで、こんな所で酒なんざ飲んでていいのか?」
「良いも何も、ここはオレの部屋だぞ。」
「そうじゃなくてだなぁ・・・・・・。サラサ嬢のことは放っておいていいのか?」
「・・・・・・・・・・・・ソフィア嬢が付いている、問題ない。」
「ま、これ以上は言わねぇけどよ。」
手酌で新たに注がれた杯をハゲがまた空っぽにしてしまう。
どこからともなく漏れ出た溜息が、窓から見える月夜に溶けていった。
「お前こそどうなんだ、ソフィア嬢とは。」
顔もそうだが、何よりあの身体である。
目を奪われない男は居ないであろう。
不幸にもラムス氏の目に留まってしまった訳だが。
そしてそんなソフィア嬢に魅了されてしまった内の一人が、目の前の男だ。
暇を作っては声をかけに行き、あえなく玉砕している姿をよく見かける。
「あぁ~・・・・・・、ありゃあダメだな。全く脈がある気がしねぇ。」
「・・・・・・驚いたな。よく分かってるじゃないか。」
「あぁ!? どういう意味だそりゃ!?」
「所構わず声を掛けては何度もフラれてるじゃないか。」
「そりゃあ・・・・・・今更退けるかってんだよ!」
「いい加減にしておかないと、余計に嫌われるぞ?」
そうでなくとも若干避けられ気味だと言うのに。
だが彼女に何をしようとも全て無駄に終わるだろう。
そもそも、彼女の目には――
「あン? こんな時間に誰か来たみたいだぞ?」
扉を叩く音に思考を中断させる。
手に持っていた杯を置いて席を立ち、扉を開いた。
「サラ・・・・・・。いえ、サラサ嬢。このような時間に如何なされましたか?」
「・・・・・・中、入っていい?」
「えぇ、どうぞ。」
扉を開いたままサラサ嬢を招き入れる。
椅子を用意して勧めるが、彼女は腰を落ち着けようとはしなかった。
自分だけ席に着く訳にもいかず、顔を伏せたサラサ嬢の言葉を待つ。
「あーっと・・・・・・これっぽっちじゃ飲んだ気がしねぇからよ、街で飲んでくらぁ。じゃあな!」
「あっ・・・・・・オイ!」
ハゲは最後にもう一度杯を空にし、オレの言葉を待たずにそそくさと部屋から出て行った。
静かになった部屋でサラサ嬢と二人きりになる。
酒のせいか、胸がジリジリと熱く灼けてくるようだ。
「それで、どう言ったご用向きでしょうか?」
「・・・・・・。」
サラサ嬢は答えず、俯いたまま。
「・・・・・・サラサ嬢? っ・・・・・・何を!?」
胸元でサラサ嬢の髪が揺れ、ふわりと香水の香りが漂ってきた。
しがみつく様に背中に回された腕は微かに震えている。
「ねぇ、私をオンナにしてよ・・・・・・。」
「・・・・・・いけません、サラサ嬢。」
彼女の肩を掴み、ゆっくりと身体から引き剥がす。
「どうして・・・・・・どうしてダメなの!?」
「団長の奴隷(モノ)に手を出す訳にはまいりません。」
彼女を・・・・・・サラを団長の庇護下に置いてもらう為そうしたのは他でも無い自分。
それを自ら破る事などできない。してはならない。
結局はどちらの組も無くなってしまったが、そこに居た人も、諍いの記憶も、そう簡単に消えはしないのだ。
「もう、知らない・・・・・・アンタなんか・・・・・・。」
涙を一雫だけ落とし、呟いた。
掛ける言葉を見つけられず、ただ黙って、静かに去る彼女の背を見送った。
「フゥ・・・・・・・・・・・・。」
背を預けた椅子が咎めるようにギシリと軋んだ。
杯を手に取り、残っていた酒を流し込む。
やはり最高の酒だ。今まで飲んだ中では一番だろう。
ただ、こんな最悪な気分の時には、最悪な酒が飲みたいと・・・・・・そう思った。
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