竜剣《タルカ》

チゲン

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第八幕 フランベルジュ

8頁

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 町の大通り。
 行き交う人々のざわめき。
 威勢よい客引き。店先で交渉する商人たち。
 啖呵たんかを切る声。笑い声。
 露店では、色あざやかな菓子や精巧せいこうな工芸品が売られている。
 向こうの広場では、旅芸人が見事な芸を披露ひろうしていた。
 活気に満ちたにぎやかな町。
「ここは……」
 ミランは九歳の少年に戻っていた。
 子供たちが通りの向こうから走ってきて、チャンバラごっこをしながら去っていった。
 赤子を抱いた母親が、同じく赤子を抱いた母親と談笑している。
 馬車から貴婦人が下りてくる。
 年寄りが軒先でうたた寝をしている。
 酒場では、ひと仕事終えた農夫たちが杯を交わしあっていた。
「うっ……」
 頭に鈍痛が走った。
「この光景……」
 どこにでもあるような町の風景。どこにでもいるような人々。
 いつもお菓子をくれた、隣のおばさん。
 肩車をしてくれた、酒場のおじさん。
「グルセンダ……?」
 今はもう存在しない都市国家。
 名を呼ばれた気がして、ミランは振り返った。
 女が立っている。
 顔はよく見えない。
「だれ?」
「こっちよ」
「……お母さん?」
「おいで、私の坊や」
 女が優しく手まねきする。
「お母さん!」
 ミランは我を忘れて、女のもとまで駆け寄った。
 その胸のなかに飛び込む。
「もう、いつまで経っても甘えん坊なんだから。そんなんじゃ、お父さんに笑われるわよ」
「お父さんに会いたい」
「無理よ」
「どうして?」
「だって燃えてしまったもの。こんなふうに」
 女が燃え上がった。
 ミランは思わず跳びすさった。
 女は声もなく、紙細工のように燃えていく。
「お母さん……!」
 背後に気配を感じて振り返った。
「だれ?」
 見知らぬ大きな男が立ちはだかっていた。
「お父…さん……?」
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