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終幕
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広間に戻ると、セカイが澄んだ声で歌を歌っていた。
もう動かないミランを前に。
歌い終えるまで、パレージュは黙って聞いていた。
「姉妹喧嘩は片付いたかしら、魔女のお姉さん?」
「……バレていたか。モリバラのを見様見真似でやってみたが……まだまだ修行が足りないようだ」
パレージュが苦笑を浮かべる。
「言っておくが、私がモリバラの姉を殺した訳じゃないぞ。様子を見にいったら、すでに死んでいたんだ」
せっかくだから、肉体は使わせてもらったけどね。パレージュはそう続けた。憎き妹を倒すことができたのだから、彼女も本望だろうと。
「さて、赤の竜剣使いよ。私を殺して、父親と彼の復讐を果たすかい?」
「…………」
「どんな言い訳をしようと、私が君を利用したのは事実だ。そして君の大切なものを……」
「別にいいわ」
セカイは、ミランの額に右手をかざした。
炎が、その体を包み込んだ。
ミランの体は炎に溶け、その炎がセカイの体へと流れ込んでいく。
「これでいい」
セカイはしばらく胸に手を当て、目を伏せていた。
それから、おもむろに立ち上がると、パレージュに背を向けた。
「発つのか」
「ええ」
「君さえ良ければ、しばらく逗留していかないかい? アイとユキノとハナも喜ぶし、娘の顔も見てやってほしい。将来はかなりの美人になる」
「意外と親バカなのね」
「私も驚いているよ」
「せっかくだけど、またにするわ」
そう言い残すとセカイは歩きだした。ゆっくりと、しかし強い足取りで。
「やれやれ」
パレージュは残念そうに、白い溜め息を吐いた。
「赤の竜剣使いよ。そんなに急いで、どこへ行く?」
一度だけ、セカイは振り返った。
そして炎のような瞳で言った。
「ちょっと世界でも見てくるわ」
(終幕 完)
もう動かないミランを前に。
歌い終えるまで、パレージュは黙って聞いていた。
「姉妹喧嘩は片付いたかしら、魔女のお姉さん?」
「……バレていたか。モリバラのを見様見真似でやってみたが……まだまだ修行が足りないようだ」
パレージュが苦笑を浮かべる。
「言っておくが、私がモリバラの姉を殺した訳じゃないぞ。様子を見にいったら、すでに死んでいたんだ」
せっかくだから、肉体は使わせてもらったけどね。パレージュはそう続けた。憎き妹を倒すことができたのだから、彼女も本望だろうと。
「さて、赤の竜剣使いよ。私を殺して、父親と彼の復讐を果たすかい?」
「…………」
「どんな言い訳をしようと、私が君を利用したのは事実だ。そして君の大切なものを……」
「別にいいわ」
セカイは、ミランの額に右手をかざした。
炎が、その体を包み込んだ。
ミランの体は炎に溶け、その炎がセカイの体へと流れ込んでいく。
「これでいい」
セカイはしばらく胸に手を当て、目を伏せていた。
それから、おもむろに立ち上がると、パレージュに背を向けた。
「発つのか」
「ええ」
「君さえ良ければ、しばらく逗留していかないかい? アイとユキノとハナも喜ぶし、娘の顔も見てやってほしい。将来はかなりの美人になる」
「意外と親バカなのね」
「私も驚いているよ」
「せっかくだけど、またにするわ」
そう言い残すとセカイは歩きだした。ゆっくりと、しかし強い足取りで。
「やれやれ」
パレージュは残念そうに、白い溜め息を吐いた。
「赤の竜剣使いよ。そんなに急いで、どこへ行く?」
一度だけ、セカイは振り返った。
そして炎のような瞳で言った。
「ちょっと世界でも見てくるわ」
(終幕 完)
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