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第5幕
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空が仄かに白みだした頃、レラは下町の我が家に戻ってきた。
家のなかは、まだひっそりと寝静まっていた。養母も義姉たちも、昨夜は遅くまで働いていたのだから無理もなかろう。
厨房に入り、汲み置きの水を桶に注いで顔を洗う。
「ふぅ……」
思わず溜め息が出た。
「ずいぶん遅かったのですね」
「!」
不意に声をかけられ、レラは身を竦ませた。
リヨネッタが夕べの闇のように佇んでいた。
「た、ただいま戻りました、母様」
若干しどろもどろになりながらも、レラは努めて平静を装った。
「首尾は?」
リヨネッタが目を糸のように細めて、レラを凝視した。
この魔女の眼に見つめられると、心の内を全て見透かされているようで、後ろめたいことがなくても心臓がきゅっとなる。
「……もちろん、抜かりはありません」
レラは桶の水を捨てるふりをして、リヨネッタの視線から顔を背けた。
「そうですか。では、私は少し眠ります。朝食はいりませんが、昼に何か食べる物を用意しておいて下さい」
「判りました」
それだけ言うと、リヨネッタは厨房から出ていった。
「母様、もしかして眠らずに私を待ってたのですか……?」
思わずそう尋ねそうになったが、言葉を飲み込んだ。余計なことを訊いて、薮蛇になってもいけない。
あの眼差しに本当に心を読まれたら。それだけは避けたかった。
「やっぱり……」
昨夜のゴミ掃除は、いつもと違って異質である。
普段は表に出てこないリヨネッタが、昨夜は自ら出向き、あまつさえ滅多に使わない魔術まで駆使していたのだ。
そして貿易商の骸を前にしての、あの呪詛の言葉。あの行為は何を意味するのか。
一旦気になりだすと、瘧のように胸を苛んだ。自分はただ黙って命令に従っていればいい。そう思えば思うほど、疑問が鎌首をもたげてくる。形を持たない不鮮明な疑問が。
「…………」
レラは気付かなかった。二階の自室で眠っているはずの長姉シンシアが、階上の陰に隠れるようにして、下の様子を窺っていたことに。
家のなかは、まだひっそりと寝静まっていた。養母も義姉たちも、昨夜は遅くまで働いていたのだから無理もなかろう。
厨房に入り、汲み置きの水を桶に注いで顔を洗う。
「ふぅ……」
思わず溜め息が出た。
「ずいぶん遅かったのですね」
「!」
不意に声をかけられ、レラは身を竦ませた。
リヨネッタが夕べの闇のように佇んでいた。
「た、ただいま戻りました、母様」
若干しどろもどろになりながらも、レラは努めて平静を装った。
「首尾は?」
リヨネッタが目を糸のように細めて、レラを凝視した。
この魔女の眼に見つめられると、心の内を全て見透かされているようで、後ろめたいことがなくても心臓がきゅっとなる。
「……もちろん、抜かりはありません」
レラは桶の水を捨てるふりをして、リヨネッタの視線から顔を背けた。
「そうですか。では、私は少し眠ります。朝食はいりませんが、昼に何か食べる物を用意しておいて下さい」
「判りました」
それだけ言うと、リヨネッタは厨房から出ていった。
「母様、もしかして眠らずに私を待ってたのですか……?」
思わずそう尋ねそうになったが、言葉を飲み込んだ。余計なことを訊いて、薮蛇になってもいけない。
あの眼差しに本当に心を読まれたら。それだけは避けたかった。
「やっぱり……」
昨夜のゴミ掃除は、いつもと違って異質である。
普段は表に出てこないリヨネッタが、昨夜は自ら出向き、あまつさえ滅多に使わない魔術まで駆使していたのだ。
そして貿易商の骸を前にしての、あの呪詛の言葉。あの行為は何を意味するのか。
一旦気になりだすと、瘧のように胸を苛んだ。自分はただ黙って命令に従っていればいい。そう思えば思うほど、疑問が鎌首をもたげてくる。形を持たない不鮮明な疑問が。
「…………」
レラは気付かなかった。二階の自室で眠っているはずの長姉シンシアが、階上の陰に隠れるようにして、下の様子を窺っていたことに。
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