異世界召喚女子×人間嫌いの魔王

くりくりさん

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8 魔王ルークとの再会

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「なんか変な感じだなぁ」

 無駄だと知りつつ、私はスカートの裾を引っ張った。

 制服と一緒だろうって思ったんだけど、なんかこうスカートの前の部分がね……

 後ろはむしろ制服のスカートより長くなったからいいんだけど、前がミニスカみたいで気になる。

 セシリアが自分で着ても、私より身長が低いから膝上くらいになるんだろうけど。
 これがいいと言い切った手前、今さら伸ばしてとは言いづらかったんだよ。

「気にしない気にしない。
 気にしたら負けよ。
 ルーク、人間の裸には興味ないって言ってたし」

 自分の言葉で昨日ことを思い出して、憂鬱になった。

 謝るぞ!と気合いを入れたまではいいものの、あんな酷い言葉を投げつけて傷つけてしまったルークに、どう謝ればいいのだろう。

 最悪、会ってくれないかもしれない。
 ルークが人間嫌いで、自分のミスの責任感だけで、私の周りの手配をしてくれたのなら、会う必要なんてないもんね。

「あぁもう! こんなの私らしくないわ。
 こうなったら、当たって砕けるしかない。なるようにしかならないんだから」

 誰もいないので、砕けてどうするという指摘はされないまま、私はセシリアに教えられた執務室に向かった。

 私に行動の自由が与えられた場所は、王城中央棟の二階と三階の一部だった。
 二階には自分の部屋として与えられた客室、三階で行ってもいいのは、これから行く執務室やバルコニーとか図書館とか。
 細々とした所も含めると、結構自由にさせてもらえるんだなぁっていうのが私の感想だった。
 
 あと、ここの王城には正面、中、裏と三つの庭があって、裏庭なら自由にしてくれていいってセシリアは言ってたっけ。
 でもしばらくの間は、セシリアに頼りっきりになっちゃうだろう。
 方向音痴じゃないつもりだけど、案内板もなくどこも似たような造りの王城は迷路みたいだった。

「執務室ってここかな?」

 全部同じデザインの両開きの扉だから、合ってるかちょっと不安になる。
 だって、日本なら社長みたいな偉い人がいる部屋の扉には『社長室』って、もう誰が見ても間違えようがないドアプレートがついてるもんね。

 ルークは日中、ここで仕事をしているらしい。
 魔王の仕事って気になる。

 今さらだけど、魔王って魔界の王さまのことなんだよね。
 私の中の魔王って、勇者が倒しにくるまで玉座にふんぞり返ってるイメージなんだけど、実際そんなことしてたら魔王失格だろうし。

「…………よし!」

 覚悟を決めて、私は執務室の扉をコンコンとノックした。

「入れ」

 一拍置いて、入室を促す返事が聞こえた。

 テノールの効いた張りのある声は、紛れもなく、私の記憶の中にあるルークの声だ。

「失礼します」

 ドアノブを回して扉を開けると、風に乗ってふわりと図書館みたいな匂いがした。

 部屋の内装とかは私の寝ていた客室とそう変わらない。

 ただ、部屋の広さは半分くらいしかなかった。
 家具類も見当たるのは、一人で使うには大きすぎるデスクと椅子、ランプのライトスタンドだけだ。

 その家具一式は、左の壁際に置かれていて、ルークはその椅子に座っていた。
 何かの作業をしているのか、空いている方の左手を顎に添えて、デスクに視線を落としたままだ。

 正面の大きな窓から入る陽射しが、ルークに降り注いでいる。漆黒の髪に当たって輝いているように見えた。
 
 絵になるなぁ。

 たまに、プロフィールに載せる写真を取るために、必死にポーズを決める子がいるけど、意識してなくてこれって、どれだけ魔族ってスペック高いんだ。

 今まで会った中でブサイクだったのは、あの爬虫類男だけだ。
 って言っても顔なんてまとまに見てなかったんだけどね。

「?」

 入室してきたのに、なんの声もかけられないことに違和感を感じたのか、ルークが顔を上げる。

 扉の前にいた私を見つけると、その目が見開かれた。

 あり得ない場所であり得ないものを見た!的な?
 まさか私の方から会いに来るとは思ってなかった顔だ。

 今のうちに勢いで謝っちゃえと思うけど、どうやって切り出そうか悩む。

 部屋に沈黙が落ちた。

 ダメダメ! ルークを困らせに来たわけじゃないんだから。

「あのね……。えっと、昨日はーー」

 ゴメン。

 あとその一言って所で、背後の扉が開いた。

「失礼します! 魔王さま、至急の要件をお持ちしました」

 言葉通り、慌てた様子の馬面(本当に馬の顔してる)の男の人が、ルークに駆け寄っていく。

 私は扉に弾き飛ばされて、床にしゃがみ込んでいた。

「~~!!」

 身構えてない後頭部を思いっきり扉が直撃した。
 痛いってもんじゃない。本当に目から火が出たよ!
 
 いや、扉の前でぼけっとしてる私も悪いんだけどさ。

 頭を押さえて痛みを堪える私に、ルークが立ち上がりかけた。
 けど、その前に馬面の人に話しかけられる。

 二、三言話すと、本当に大事な話だったのか、ルークは真剣な顔つきになった。
 馬面の人から差し出された書類を受け取り、羽ペンを手に取ると、迷うように私に顔を向ける。

 その口が開いて何かを言いかけようとしたけど、

「お疲れの所、申し訳ございませんが、何分急を要するもので」

「いや、構わん」

 馬面の人に急かされて、今度こそルークはこっちの存在を忘れて、仕事に専念し始めた。

 それからも、ひっきりなしに仕事が舞い込んでくる。

 何回か間に話しかけようとしたけど、その度に邪魔が入るので、途中で諦めてしまった。

 それなら部屋を出てしまえばいいのに、なんとなくタイミングを逃して壁に張り付いている。

 何やってるんだろ、私。
 仕事の邪魔しかしてないし。

 それにしても魔王の仕事って大変なんだ。
 聞こえてくる会話でさえ、何のことを話してるのか理解できない。

 治水工事にかかる予算の見積もりが高すぎる、とか、あそこの領地の収益の報告が間違っている、とか。

 そりゃそうだよね。
 総理大臣みたいなものだもん。誰でもできるような簡単な仕事のはずがないよね。

 そんな中、ぼんやりとルークの仕事ぶりを見ていた私は、ふと何度か彼が同じ仕草をすることに気がついた。
 
 思案する時、必ず左手を顎に添える。
 最初に入った時にもしていた仕草だ。

 発見したからって、何かあるわけじゃないんだけどね。

 魔族も人間と同じ仕草をするんだって思うと嬉しいじゃない?

 それからどれくらい時間が経ったんだろう。

 衣ずれの音がした気がして、目を開けた。
 ズキッと頭に痛みが走る。
 その感覚と、頭の重たさが急に襲ってきたことで、こっくりこっくりと船を漕いでいたことに気づく。
 
 あれ? 寝ちゃってた?

 壁に背を向けて立っていたはずなのに、いつの間にか座って凭れちゃってるし。

 なんか目の前が暗い。
 一体、どれだけ爆睡してたの私。
 昼くらいだったはずなのに、もしかして、もう夜になってる?

 そう思いながら顔を上げると、目の前にルークの顔があった。

「!!」

 息が止まる。
 頭が真っ白になって何も考えられなくなった。
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