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第1話 ママが弟になったあの日
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これは、とある日の夕方のこと。
僕は友達と遊んだ後、家に帰る前にとある祠に足を運んだ。ついこの間までは僕も知らなかったのだけれども、なんでもその祠に置かれている小さなお地蔵様に深くお辞儀をした後に自分が叶えたいと思っている願いを口にして唱えると、その願いが叶うらしい。どうせだからなにか頼んでみたいと前々から思っていたんだ。僕はお地蔵様の前に立ち一礼すると、そっと願いを唱えた。
パン パン
「ママがずっと綺麗な姿でいられますように。」
「ただいまー!」
「あら、おかえりなさいコウくん♡
ママ、今ご飯作ってるから先にお風呂入っててもらえる?」
「は~い!」
彼の名前は黛コウ。歳は9つ。
いたって何ら変わりのない普通の少年だ。そんな彼が願いが何でも叶うと噂のお地蔵様にお祈りしたことから全ては始まる。
彼の家は3人家族だが、父は海外に赴任中で忙しくなかなか帰ってくることはない。その反面母は専業主婦であり過保護でやさしく、また父と遊ぶ機会が少ない彼に少しでも多くの愛をと人一倍溺愛し、また時に厳しく教育していた。ただしその過保護さ故の問題というのも当然生じることとなる。
まず1つ目に時たま彼女に対し、必要以上に愛を求めてしまうこと。2つ目に、それ故一種の異性としての愛を彼女に感じてしまっていること。そして3つ目に、彼女を愛しすぎてしまうが故に彼女が少しずつ年老いていくことに複雑な気持ちを抱いてしまっていたことであった。
自分が歳を重ねるごとに彼女ももちろん老いていくわけだが、いつかはそんな母が醜く顔を歪め乳を垂らしながら命を落とすという現実にある種の恐怖感を抱えていたのである。
だからこそ彼は強く願った。
母がいつまでも美しくありますように…と。その願いが彼を、そして母をも歪めてしまうとは知らずに…。
《2日目の土曜日》
「ん…。」
いつもより少し早く目を覚まし不意に左隣をみてみると、そこにはいつもの母の姿はなく、代わりに可愛らしいお人形のような顔をした美少年が彼女の代わりにそこで眠っていた。念のために言っておくが、コウには兄弟はいない。そもそも先ほど申した通り父親も単身赴任中のため、母親であるカナエ以外の人間が家にいるなどということ自体、そもそもありえないのだ。
しかし現実問題。
隣で眠っているのは、『ベニスに死す』にでてくる元子役のビョルン・アンドレセンを思い起こさせるような美少年ただ一人…。
これは一体どういうことなのか。
そして愛する母はどこへ行ってしまったのか。
あまりのわけのわからなさに失禁寸前5秒前…とまではいかないが、彼の中で戸惑いと一種の焦りが生じていた。しかしそうだとしても起こっている現実に目を背けるわけにはいかない…。そう思い、勇気を振り絞りながら恐る恐る彼の背中を優しく揺する。
「ねぇ…ねえ…。起きて…!」
「ん…。お兄ちゃん…。どうしたの?」
「お…おにいちゃん!?」
「?」
「そうだよ。お兄ちゃんがぼくのお兄ちゃんじゃなかったらおかしいじゃない。」
「お、お兄ちゃん…。」
彼にとってそれは聞き馴染みのない、距離感のある言葉のように今までは感じていた。しかしたしかに彼は、コウのことをお兄ちゃんと称したのだ。
思わずコウは彼から目を逸らしながら、ただその『お兄ちゃん』という単語を呪文かの如くニ~三回唱え続けた。それだけショックだったのだろう。この場合のお兄ちゃんというのは、単なる愛称などではなく兄弟間や親戚を称するときに使うあのお兄ちゃんなのだから、文脈的にも。
その様子を見ていた少年は、困ったような表情を顔に浮かべながら静かに呼応する。
「そうだよ…ぼくだよカナオだよ!」
「カナオ…くん?でも僕に弟なん…て。」
なにかに気づいたのであろうか。
コウはカナオと名乗るその少年の顔をまじまじと見つめた。
「…あれ…?でもに…にてる。
で、でもそんなわけ…。」
そうだ。気づいてしまったのだ。
少年の特徴と愛する母の特徴に類似する点があるということに…。
まずその顔立ちであるが、年齢こそ違えど美しく可愛らしい顔立ちはカナエのものに近しいものがある。また、彼女と同じくまつ毛が長いあまり、若干カールしているのも特徴的なポイントの一つだろう。そして何より名前が似ている。「カナエ」と「カナオ」。仮名で書こうとアルファベットで記そうとたった一文字違いだ。しかしそれならどうしてこんなにも類似点が多々あるのだろうか。
そう頭を悩ませていると、コウは彼の首元にかかっているペンダントの存在に気づいた。
(そういえばママも首元にロケットのペンダントをつけていたっけ…。)
(もしかして…でも、まさかぁ…。)
(…。)
(でも…確認してみるのも悪くないよね)
「えっと…ちょっとその首にかけてるペンダント…貸してもらえるかな?」
「?なんで?」
「ちょっと確かめたいことがあるんだ。ごめんね、すぐ終わるよ」
カチャ…
「…え?」
「どういうこと…?」
本来なら父と母。そして自分が写っているはずの小さな写真。しかしそこにはやはり母の姿はなく、カナオと名乗るかの少年と一緒に写っていた。これは一体…。
そこで昨日のことがふと脳裏に浮かぶ。昨日お地蔵様にお祈りしたことを…。
(もしかして僕が願ったから?ママがずっと綺麗なままでいてほしいって願ったから…?で、でもおかしいよね。だって僕、ママを弟にしてなんて頼んでないし。。)
カナエはたいそう美しい女性であった。
美しく長い栗色のサイドテールに綺麗な曲線をかたどった女性らしい肉体。
口元に塗られた薔薇の如く美しい甘いルージュの色…。大人の色気と朗らかさ溢れた雅な女性であった。しかし今はどうであろうか。
顔は綺麗なままであるが年齢は5,6歳まで下がり、髪は古典的な坊っちゃんヘアの黒髪。…おまけにズボン越しからもわかるほど大きなまん丸の睾丸。タヌキなんていうのは大げさだが、男としてはかなり大きな部類に入るのもまた事実だ。
コウの中に、ある種の罪悪感が芽生えた。もしかしたら自分のせいでこんな姿になってしまったのではないかという切実な思い…。やがてそれはどんどんと膨れ上がり、油を注がれた火の如く燃え上がっていく。
「う…うぅ…。」
「ぅゎぁあああん!!!」
「あっ!お兄ちゃんまってぇ!どうしたの??」
バシンッ…!
ドン ドン!
「お兄ちゃん。ドアをあけて!そのへあからでてきて!ねえ大丈夫?
ねぇ、お兄ちゃんっ!!」
「ひぐっ…ひぐっ…。」
(きっと僕のせいだ…僕のせいでママはなにもかも失っちゃったんだ…。)
あれからおよそ2時間ほど経ち。
涙で腫れ上がったうつろな目を手で必死にこすりながらそっと扉を開くと、ドアの前でカナオが一人心配そうな表情をしながらコウを待ってくれていたのに彼は気付いた。
「お兄ちゃん…。よかった、出てきてくれて。」
チュッ。
彼は優しくコウを抱擁し、可愛らしい赤く染められた唇でキスを送る。
一。二。三...。
小さい頃。よく転んだり怪我をした時なんかに母がやってくれた動作と同じであった。そこでコウは確信する。姿形は変わってしまったかもしれないが、根幹の部分は優しく人一倍自分を愛してくれる母に違いがないということを。それに気づき、コウはつい何も説明せず彼女を突き放してしまったことに後悔した。
「ごめんね、ママ…。いやカナオくん。びっくりしたよね。」
「ううん。いいの。お兄ちゃんが落ち着いたのなら。」
「…うん。あとお兄ちゃん。ちょっと話さないといけないことがあるけどいいかな?」
「...?うん!」
(ごめんねママ。。。必ず元の体に戻してみせるから。。。)
僕は友達と遊んだ後、家に帰る前にとある祠に足を運んだ。ついこの間までは僕も知らなかったのだけれども、なんでもその祠に置かれている小さなお地蔵様に深くお辞儀をした後に自分が叶えたいと思っている願いを口にして唱えると、その願いが叶うらしい。どうせだからなにか頼んでみたいと前々から思っていたんだ。僕はお地蔵様の前に立ち一礼すると、そっと願いを唱えた。
パン パン
「ママがずっと綺麗な姿でいられますように。」
「ただいまー!」
「あら、おかえりなさいコウくん♡
ママ、今ご飯作ってるから先にお風呂入っててもらえる?」
「は~い!」
彼の名前は黛コウ。歳は9つ。
いたって何ら変わりのない普通の少年だ。そんな彼が願いが何でも叶うと噂のお地蔵様にお祈りしたことから全ては始まる。
彼の家は3人家族だが、父は海外に赴任中で忙しくなかなか帰ってくることはない。その反面母は専業主婦であり過保護でやさしく、また父と遊ぶ機会が少ない彼に少しでも多くの愛をと人一倍溺愛し、また時に厳しく教育していた。ただしその過保護さ故の問題というのも当然生じることとなる。
まず1つ目に時たま彼女に対し、必要以上に愛を求めてしまうこと。2つ目に、それ故一種の異性としての愛を彼女に感じてしまっていること。そして3つ目に、彼女を愛しすぎてしまうが故に彼女が少しずつ年老いていくことに複雑な気持ちを抱いてしまっていたことであった。
自分が歳を重ねるごとに彼女ももちろん老いていくわけだが、いつかはそんな母が醜く顔を歪め乳を垂らしながら命を落とすという現実にある種の恐怖感を抱えていたのである。
だからこそ彼は強く願った。
母がいつまでも美しくありますように…と。その願いが彼を、そして母をも歪めてしまうとは知らずに…。
《2日目の土曜日》
「ん…。」
いつもより少し早く目を覚まし不意に左隣をみてみると、そこにはいつもの母の姿はなく、代わりに可愛らしいお人形のような顔をした美少年が彼女の代わりにそこで眠っていた。念のために言っておくが、コウには兄弟はいない。そもそも先ほど申した通り父親も単身赴任中のため、母親であるカナエ以外の人間が家にいるなどということ自体、そもそもありえないのだ。
しかし現実問題。
隣で眠っているのは、『ベニスに死す』にでてくる元子役のビョルン・アンドレセンを思い起こさせるような美少年ただ一人…。
これは一体どういうことなのか。
そして愛する母はどこへ行ってしまったのか。
あまりのわけのわからなさに失禁寸前5秒前…とまではいかないが、彼の中で戸惑いと一種の焦りが生じていた。しかしそうだとしても起こっている現実に目を背けるわけにはいかない…。そう思い、勇気を振り絞りながら恐る恐る彼の背中を優しく揺する。
「ねぇ…ねえ…。起きて…!」
「ん…。お兄ちゃん…。どうしたの?」
「お…おにいちゃん!?」
「?」
「そうだよ。お兄ちゃんがぼくのお兄ちゃんじゃなかったらおかしいじゃない。」
「お、お兄ちゃん…。」
彼にとってそれは聞き馴染みのない、距離感のある言葉のように今までは感じていた。しかしたしかに彼は、コウのことをお兄ちゃんと称したのだ。
思わずコウは彼から目を逸らしながら、ただその『お兄ちゃん』という単語を呪文かの如くニ~三回唱え続けた。それだけショックだったのだろう。この場合のお兄ちゃんというのは、単なる愛称などではなく兄弟間や親戚を称するときに使うあのお兄ちゃんなのだから、文脈的にも。
その様子を見ていた少年は、困ったような表情を顔に浮かべながら静かに呼応する。
「そうだよ…ぼくだよカナオだよ!」
「カナオ…くん?でも僕に弟なん…て。」
なにかに気づいたのであろうか。
コウはカナオと名乗るその少年の顔をまじまじと見つめた。
「…あれ…?でもに…にてる。
で、でもそんなわけ…。」
そうだ。気づいてしまったのだ。
少年の特徴と愛する母の特徴に類似する点があるということに…。
まずその顔立ちであるが、年齢こそ違えど美しく可愛らしい顔立ちはカナエのものに近しいものがある。また、彼女と同じくまつ毛が長いあまり、若干カールしているのも特徴的なポイントの一つだろう。そして何より名前が似ている。「カナエ」と「カナオ」。仮名で書こうとアルファベットで記そうとたった一文字違いだ。しかしそれならどうしてこんなにも類似点が多々あるのだろうか。
そう頭を悩ませていると、コウは彼の首元にかかっているペンダントの存在に気づいた。
(そういえばママも首元にロケットのペンダントをつけていたっけ…。)
(もしかして…でも、まさかぁ…。)
(…。)
(でも…確認してみるのも悪くないよね)
「えっと…ちょっとその首にかけてるペンダント…貸してもらえるかな?」
「?なんで?」
「ちょっと確かめたいことがあるんだ。ごめんね、すぐ終わるよ」
カチャ…
「…え?」
「どういうこと…?」
本来なら父と母。そして自分が写っているはずの小さな写真。しかしそこにはやはり母の姿はなく、カナオと名乗るかの少年と一緒に写っていた。これは一体…。
そこで昨日のことがふと脳裏に浮かぶ。昨日お地蔵様にお祈りしたことを…。
(もしかして僕が願ったから?ママがずっと綺麗なままでいてほしいって願ったから…?で、でもおかしいよね。だって僕、ママを弟にしてなんて頼んでないし。。)
カナエはたいそう美しい女性であった。
美しく長い栗色のサイドテールに綺麗な曲線をかたどった女性らしい肉体。
口元に塗られた薔薇の如く美しい甘いルージュの色…。大人の色気と朗らかさ溢れた雅な女性であった。しかし今はどうであろうか。
顔は綺麗なままであるが年齢は5,6歳まで下がり、髪は古典的な坊っちゃんヘアの黒髪。…おまけにズボン越しからもわかるほど大きなまん丸の睾丸。タヌキなんていうのは大げさだが、男としてはかなり大きな部類に入るのもまた事実だ。
コウの中に、ある種の罪悪感が芽生えた。もしかしたら自分のせいでこんな姿になってしまったのではないかという切実な思い…。やがてそれはどんどんと膨れ上がり、油を注がれた火の如く燃え上がっていく。
「う…うぅ…。」
「ぅゎぁあああん!!!」
「あっ!お兄ちゃんまってぇ!どうしたの??」
バシンッ…!
ドン ドン!
「お兄ちゃん。ドアをあけて!そのへあからでてきて!ねえ大丈夫?
ねぇ、お兄ちゃんっ!!」
「ひぐっ…ひぐっ…。」
(きっと僕のせいだ…僕のせいでママはなにもかも失っちゃったんだ…。)
あれからおよそ2時間ほど経ち。
涙で腫れ上がったうつろな目を手で必死にこすりながらそっと扉を開くと、ドアの前でカナオが一人心配そうな表情をしながらコウを待ってくれていたのに彼は気付いた。
「お兄ちゃん…。よかった、出てきてくれて。」
チュッ。
彼は優しくコウを抱擁し、可愛らしい赤く染められた唇でキスを送る。
一。二。三...。
小さい頃。よく転んだり怪我をした時なんかに母がやってくれた動作と同じであった。そこでコウは確信する。姿形は変わってしまったかもしれないが、根幹の部分は優しく人一倍自分を愛してくれる母に違いがないということを。それに気づき、コウはつい何も説明せず彼女を突き放してしまったことに後悔した。
「ごめんね、ママ…。いやカナオくん。びっくりしたよね。」
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