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天野

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今こうやって、みんなを見ていること。

とても心穏やかにみんなを見ていることがなぜかとても嬉しかった。
生きてる間は見ようにも不安感が強すぎて直視できなかったからだ。
自尊心の低い自分は、見たくてもじっと見ることもできない臆病者だったが、
今はこうやって好きなだけみんなを見ることができる。

「悪くはないもんだな」と小さくつぶやいた。

つぶやいた声は誰にも聞こえやしない。
なぜかって自分は死んでいるのだから。
こうやって自分の死体を見て嗚咽をもらしている母も、大好きだ。

朝起きてみると自分は死んでいたらしい。それが長年の夢でもあった。

周りを苦しませず、自殺する。だけどそんな勇気は自分にはなく、
夜、目を閉じ、朝起きてみると自分は死んでいる。

何って理想的なんだろうと毎日思っていた。
だが実際こうやって、死んでみると自分は何か天に味方をしてもらったような気分になる。

救急車に運ばれる自分と泣いている母を見てると、自分もなんだか悲しくなっちゃう。

あんな価値のない自分のために泣いている母に申し訳ない。ごめんなさい、ごめんなさい。

あ、これは兄だ。がんばって働いている。大阪に転勤が決まって以来、
毎日がんばって出勤している。

こうやって百貨店で実際働いてるのを見るのは初めてだ。

慌てた声で電話を置くと、急いで家路に帰った。普段は喋らない兄だが、
自分の死を聞きひどく動揺した様子で、

仕事も抜け出し電車に乗り込んだ。ごめんなさい、自分のせいで仕事に不都合をきたしたね。

んー自分の親友の周だ。自分がつらい時によく話しを聞いてもらっていた。

正義感が強くて、自分がもし自殺をしていたら、とても気に病んでいただろう。
大丈夫自分のせいにしなくていいよ。

なぜかて、自分は朝起きたら死んでいたのだからね。自殺でも何でもない自然死だ。

自然死をさせてくれた神に感謝するよ。神なんて信じなかったけど、
この場でもし神がいるとすれば、感謝する。

周、そんなに悲しまないでくれよ。悲しむ姿を見ているのもつらいもんだ。

あんな価値のないと思っていた自分のために、
みんなこんなに泣いてくれるんだ。自分はひょっとして、
思っていたほど悪い人生でなかったかもしれない。

毎日、夜眠るとき、このまま一生眠ったまま静かに逝きたいと思っていた。

いざ、そうなってみると正直半分半分だ。

もう辛いこの世の中を生きなくていいという気持ち半分と、
こうやって自分のために泣いてくれている人にもう少し会いたい、話したいという

気持ち半分だ

人間っていうのは、本当に身勝手だ。
ひょっとして、現状に満足できないように出来ているのではないかとも思えてくる。

生きているときに散々、迷惑をかけた母ともう一度話したい。

「迷惑ばかりかけてごめんなさい、愛していました。」と素直に自分の思ったことを言ってみたい。

死んでみると、憂鬱な気持ちや、恥ずかしさ、すべてがなくなったようだ。
安らかな気持ちになり、思ったことをなんでも素直に言えそうな気がする。

だけど、言えない。自分は死んでしまったのだから。

自分は本当にダメなように思える。長年の夢が叶ったのにさっそく後悔してるからだ。
また生きているときに戻ったら、また死にたいと思うのだろうか。

理不尽なまでも、残酷だった世界に自分は適応出来なかった。

「だが、まぁいいや死んでしまった自分にはもう関係ない。」

心に傷だけを背負って、生きていくなんて辛すぎる。
強い人間になれ、メンタルを強くしろという言葉にももう、うんざりだ。

こうやって心安らかに死ねたのも、神のおかげだ。
そろそろ、いかなくちゃ。

今までみんなありがとう、こんな自分のために泣いてくれてありがとう。

目が覚めると、涙が流れていた。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

楠 新太
2016.12.30 楠 新太

作品拝見させていただきました。
非常に興味深い内容で主人公の心情もはっきりと覗えて、読んでいるとまるで自分自身の話ではないかと錯覚を覚えてしまうほどでした。
最後の涙を流す場面が、さすがラストシーンと言わんばかりに印象的でああ、なるほどとなりました。頭ではありがとうと思っていても涙は隠せなかったようですね。それが夢の話というのもまたリアルな描写でした。

勝手な解釈で感想を述べてしまっています。解釈に間違いがありましたら指摘をお願いしたいです。
とても良い作品でした。次回作の予定はありますでしょうか?
楽しみにしています。

大庭ミモリ

2017.01.01 天野

大庭ミモリ様、初めまして作者の天野と申します。
拙い文章ですが、大変誉め言葉を頂き、とても嬉しいです。
自分自身の小説に決まった解釈を入れたつもりはなく、
あくまでも、オープンに色んな解釈が出来るよう、
文章の中に色んなものをちりばめています(笑)
残念ながらこの「4」という作品は短編小説で続編はないのですが、
また新しく小説を書いていきたいと思いますので、読んでもらえると幸いです。

感想をもらったことが初めてなので、大変励みになりました。

解除

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