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1章

プロローグ

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 もし、勇者という存在が実在するならばどんな存在なのだろうか。
 勇者、それは鉄よりも硬く、命よりも重い使命を背負ったものに与えられる称号。
 大抵、それは強大な悪を倒すタイプの使命で、一般的に勇者は正義の味方である。
 この響きを聞いて、某国民的RPGを連想する人も少なくはないだろう。
 勇者と言われたら、魔王がいて、仲間を引き連れて一列で冒険。魔法やら剣やらで魔物を倒し、悪を退治する。だいたいそんなものである。
 しかし、よくよく考えてみると、歴史上に勇者と呼ばれる存在はいない、ような気がする。俺に学が足りないだけかもしれないが。
 勇者に並び立つ存在として、英雄、聖女、賢者、なんかが考えられる。
 英雄、これはよく見かける。〇〇の英雄という肩書は、歴史上でもよくあるものだ。
 聖女、これは宗教に関するところでは見かける。聖人だとか、聖なんとかかんとか、とか、別段見かけないものでもない。 
 賢者、これは他のふたつに比べると見かけないが聖書内や、その他でもまま見かける。
 しかしやはり(あまり、かもしれないが)勇者は見かけない。
 これは、勇者に値する使命を背負った人がいないからなのか、それとも表裏一体である魔王に相当する悪がいないからか。それとも、空想の産物に過ぎないのか。
 真意のほどはわからないが、俺は何度か勇者という存在はいるのかと、ひょっとしたら俺でもなれるのだろうか、と考えたことがある。
 勇者は一国の王子、もしくはしがない村人、というのが相場だ。
 不幸なことに、俺の出自は貴族でも、村人でもない。村人が今の何に相当するのかわからないが。
 そのほかにも、勇者が勇者たる所以はいくらかある。伝説の剣に選ばれた存在だとか、勇者の生まれ変わりだとか。
 伝説の剣に現代日本で選ばれることは、まあ法律の目が黒いうちはないだろう。
 すると、生まれ変わり説、しか残されてないわけだが。
 俺は勇者の生まれ変わりだったりするのだろうか。
 特徴的なアザ、のような身体的特徴は今のところ見当たらないし、無意識的に摩訶不思議なことが起こった経験もない。今のところは。

 まあ、そんなものだ。おそらくこの世界に勇者の生まれ変わりだ、と自負している奴はいないし、魔王たる存在を街角で見かけたことのあるやつは、悲しいかな、いないだろう。
 日本っていう国は、どうにも夢がなく、現実ってやつが居座っているうちは、そんなものは起きることはない、と、思っていた。
 しかし、もし、もしだ。自分の身の回りを魔王やそれに準じる何か、そして聖女のような存在がうろつき始めたらそんなことを考えるのもおかしくはない、と思わないだろうか。
 俺中心に世界が動いているような感覚を覚えたら、錯覚してしまうのも無理はないと思わないか。

 そう、その感覚の全ては、とある聖女と出会うところから始まった。ように思う。
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