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第三章 素直になっちゃえ

(24)素直になっちゃえ その2-2

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 二十分ほど走ってマシンを止めた二人は、シャワーで汗を流してジムを出た。

「ふぅーっ。走った走ったぁー!」

 優菜が大きく伸びをする。

「理由はどうあれ、久々に体動かせて気持ちよかったですよ。優菜姐さんに感謝です」

 克也はお礼を素直に言った。

「おっと、お礼をもらうのはまだ早いぞー! まだまだ、付き合ってもらうからねっ」

 優菜はジムからほど近いところにある焼肉店を指さした。

「あそこ、予約とったんだ! 行こうっ」

 一瞬、克也は固まるが、ここまで来たらとことんまで、と、割り切った。

「ええ、お腹すきましたし」

 焼肉店に入り、席に着くやいなや、まず生中ふたつ! と優菜が大声で注文する。
 速攻で運ばれてきたキンキンに冷えたジョッキを持ち、にこやかに乾杯した後、克也は躊躇なく、一気に飲み干す。

「ぷはぁーっ、うめぇ!!」

 思わず克也が声を上げる。

 優菜はメニューを取り出し、どんどん肉を注文していく。

「どれくらい食べるかわかんないけど、適当に見繕っちゃうよ」

「構いません。今日は何でも入りますよ」

「うふふっ、克也くんって、こんなアグレッシブだったんだね」

「うすっ、自分体育会系ですからっ」

 克也はおどけながら言う。

「まあ、でも本当、このビールのうまさ、忘れないだろうなぁ」

 笑いながら克也は続ける。

「ん、お肉来たよ。どんどん焼こう!」

「はいっ。食べますよー!」

 克也は来た肉をどんどん鉄板に乗せては口内に放り込んでいく。明らかに、今まで我慢していた分のリバウンドだった。まだまだ食べ盛りの二十代で肉食を制限することほど苦しい修業はなかったであろう。社内で何度とある飲み会の席で一人軽いおつまみと最初の挨拶ビール以外はすべてソフトドリンクで済ませていたこの八年……。

「克也くん、泣いてるの?」

「いや、煙たいだけっす! もう次、焼けますよ。どんどん行きましょう」

 どれだけ食べたのだろう。途中から優菜は食べるペースを落としていったが、これでもかというくらい克也は食べまくり、最後の会計の金額が気になるくらいだった。

「ぷはぁーーーっ、食っちゃいました。満足です」

「よかったぁ。あ、ここのお会計は気にしなくていいよ。私のお金じゃないんだ。実は」

「ん? どういうことです?」

「ある人からのプレゼント。なんだって。ちなみにこの後のところも全部……」

 克也の頭には、はてなマークがいっぱいついていたが、腹を満たした分、頭のねじが一本飛んで行ったらしく、まぁいいかっ、という気分になっていた。

「じゃぁ、次いこっか……」

 心なしか優菜の声が小さくなっていくように聞こえた。
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