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第四章 覚えてないの?
(32)覚えてないの? その1-3
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つまりこういうことだ。
克也が入社して、初めて上司の付き合いで行ったソープランド。
相手が何と、当時入店したてで新人の真奈美だったのだ。とはいえ、真奈美は男性経験が豊富で当時から達人の域にあるテクニックを多数持っていた。女性歴がほぼない克也は真奈美に夢中になる。
入社当時は月一で通いつめるほどの常連だった。性欲を解消して身体もきれいになり、匂いもある程度薄れるように感じた。だが、どうしても隠し切れない匂いに克也は悩みを抱え続ける。
そんな克也を見て真奈美は孝に相談する。孝は強力な消臭効果のある薬草などを真奈美に提供する。八年という長い間、そして今に至るまで、彼が自分の匂いを封じ続けられた秘密は、実は真奈美と孝が持っていたのだった。
真奈美は数年後、ソープランドを辞め、孝と結婚。その後も克也の良き相談相手として付き合ってきた。それから間もなく克也と愛子が結婚する。真奈美は隣が空いてるからと、新居の手配を手っ取り早く進める。そして現在に至る。
「結婚ともなれば、フェロモン全開で、愛子ちゃんとラブラブするんだろうなぁ……、って思ってたんだけどね。そこは読み違えちゃったなぁ……」
真奈美はここまでの話を終えた後、コーヒーを口に運ぶ。
「真奈美さんと克也さんが面識あったのは知っていましたし、大体の想像はついてましたけど、そんなに長いお付き合いだったのは驚きました」
愛子は呆然としながら、素直に感想を述べる。
「いつか話そうって思ってたことだし。ちょうどいいタイミングだったわぁ」
真奈美はニコニコしながら愛子の頬を撫でる。
「私、克也くんも愛子ちゃんも大好きよ。ふたりとも、一生懸命なのがすごい伝わってくる。だから応援したくなっちゃうのよ」
「それで、今朝の話なんですが……」
愛子は言いにくそうに真奈美に問う。
「うん。十中八九、優菜も私と一緒よ。ただ、克也くんに対する思いは優菜の方がちょっと上かも」
「あっ……」
愛子は思い出したように短い声をあげる。
入社当時から克也と優菜は結構仲が良かった。先輩後輩の間柄で息もぴったりあってた。そこを考えれば優菜の克也に対する思いにも簡単に気付ける。
「そうですよね……」
愛子は急に難しい顔になる。
「でも気にしないで。言ったでしょ。優菜も私と一緒。克也くんのことはおもちゃとしか見てないわ」
真奈美の言葉に愛子は目をくるくるさせる。
「私の予想では、優菜は昨晩、克也くんを引きずりまわして、彼の本当の姿を暴こうとした。そして、彼の匂いに夢中になって、散々搾り取った。って感じかしらね。私がやりたかったくらいよ。それ」
そう言って真奈美は楽しそうに笑う。
「もうっ、真奈美さん!」
愛子はむすっとした表情で口を尖らせる。それから下を向いて両手で口を押さえながらプッと吹き出すと、笑顔で真奈美に向き直る。
「でも、優菜ならそうかなって、思い直しました。ありがとうございます。いろいろ」
「で、今克也くんは?」
「帰るなり寝てしまいました。今もお布団の中です。おそらく優菜も」
「そうだったのね。優菜には私からも連絡とってみるわ。それで、克也くん起きたらどうするつもりかしら?」
愛子は少し考えてから、真奈美の問いに明るい声で答える。
「とりあえず何事もなかったようなふりをして、克也さんが何を話すか待ちます。それによっていろいろやってみます」
うんうん、と笑顔で真奈美はうなずく。
「頑張れ、愛子ちゃん!」
「はいっ」
愛子はすっきりした顔で竹屋家を後にした。
克也が入社して、初めて上司の付き合いで行ったソープランド。
相手が何と、当時入店したてで新人の真奈美だったのだ。とはいえ、真奈美は男性経験が豊富で当時から達人の域にあるテクニックを多数持っていた。女性歴がほぼない克也は真奈美に夢中になる。
入社当時は月一で通いつめるほどの常連だった。性欲を解消して身体もきれいになり、匂いもある程度薄れるように感じた。だが、どうしても隠し切れない匂いに克也は悩みを抱え続ける。
そんな克也を見て真奈美は孝に相談する。孝は強力な消臭効果のある薬草などを真奈美に提供する。八年という長い間、そして今に至るまで、彼が自分の匂いを封じ続けられた秘密は、実は真奈美と孝が持っていたのだった。
真奈美は数年後、ソープランドを辞め、孝と結婚。その後も克也の良き相談相手として付き合ってきた。それから間もなく克也と愛子が結婚する。真奈美は隣が空いてるからと、新居の手配を手っ取り早く進める。そして現在に至る。
「結婚ともなれば、フェロモン全開で、愛子ちゃんとラブラブするんだろうなぁ……、って思ってたんだけどね。そこは読み違えちゃったなぁ……」
真奈美はここまでの話を終えた後、コーヒーを口に運ぶ。
「真奈美さんと克也さんが面識あったのは知っていましたし、大体の想像はついてましたけど、そんなに長いお付き合いだったのは驚きました」
愛子は呆然としながら、素直に感想を述べる。
「いつか話そうって思ってたことだし。ちょうどいいタイミングだったわぁ」
真奈美はニコニコしながら愛子の頬を撫でる。
「私、克也くんも愛子ちゃんも大好きよ。ふたりとも、一生懸命なのがすごい伝わってくる。だから応援したくなっちゃうのよ」
「それで、今朝の話なんですが……」
愛子は言いにくそうに真奈美に問う。
「うん。十中八九、優菜も私と一緒よ。ただ、克也くんに対する思いは優菜の方がちょっと上かも」
「あっ……」
愛子は思い出したように短い声をあげる。
入社当時から克也と優菜は結構仲が良かった。先輩後輩の間柄で息もぴったりあってた。そこを考えれば優菜の克也に対する思いにも簡単に気付ける。
「そうですよね……」
愛子は急に難しい顔になる。
「でも気にしないで。言ったでしょ。優菜も私と一緒。克也くんのことはおもちゃとしか見てないわ」
真奈美の言葉に愛子は目をくるくるさせる。
「私の予想では、優菜は昨晩、克也くんを引きずりまわして、彼の本当の姿を暴こうとした。そして、彼の匂いに夢中になって、散々搾り取った。って感じかしらね。私がやりたかったくらいよ。それ」
そう言って真奈美は楽しそうに笑う。
「もうっ、真奈美さん!」
愛子はむすっとした表情で口を尖らせる。それから下を向いて両手で口を押さえながらプッと吹き出すと、笑顔で真奈美に向き直る。
「でも、優菜ならそうかなって、思い直しました。ありがとうございます。いろいろ」
「で、今克也くんは?」
「帰るなり寝てしまいました。今もお布団の中です。おそらく優菜も」
「そうだったのね。優菜には私からも連絡とってみるわ。それで、克也くん起きたらどうするつもりかしら?」
愛子は少し考えてから、真奈美の問いに明るい声で答える。
「とりあえず何事もなかったようなふりをして、克也さんが何を話すか待ちます。それによっていろいろやってみます」
うんうん、と笑顔で真奈美はうなずく。
「頑張れ、愛子ちゃん!」
「はいっ」
愛子はすっきりした顔で竹屋家を後にした。
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