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親に無理を言って図書館に通い詰め、勉強させてもらって、どうにか入学した学院。その入学式の直後、緊張しまくっていた俺に話しかけてきたやつがいた。
「はじめまして。君が好きです」
「……は?」
我ながら低くガラの悪い『は?』が出た。もしかしたら『あ?』じゃないだけまだマシだったかもしれない。
目の前には金髪碧眼の美少年。間違いなく貴族、それも高位の。制服の生地がなんか普通じゃない。高いやつだ絶対。対してこっちはかろうじて奨学金でこの学院に入れた平民なんだけど。
俺は頭の出来はまあまあだと自負しているものの、別に見目麗しいわけじゃない。ちなみに制服は買えなくてお古を譲ってもらったという根っからの庶民である。
「えっと……何かの冗談ですか?」
「違います。本気で君が好きなんです。一目惚れというのでしょうね。きっと、わけがわからないだろうと思うのですが、僕も正直わけがわかりません」
「なんだそれ」
いかん。思わず高位貴族のご令息に素で突っ込んでしまった。
「こんなに誰かを愛しいと思うことがあるんだなぁと。僕は今、少し感動しています」
「………………自分は男ですが」
「見ればわかりますよ、それくらい」
じゃあなんでだよ。自分で鏡を見ても目付き悪いなって思う俺だぞ。
「ぜひ、婚約を前提に付き合っていただけないでしょうか?」
「すみません。辞退させてください!!」
俺は逃げた。全力で逃げた。廊下を走って教師に叱責されたけど、そんなの構っていられなかった。
でも、俺のことが好きだとのたまうご令息は、残念ながら俺のクラスメイトだった。逃げ切れない。気付くと何かとすぐ近くにいるのだ。
「ルドヴィク、君は本当に頭が良いのですね」
「……これでも特待生なので」
俺のことを『ルドヴィク』なんて呼ぶ人間は身近にいない。皆愛称で『ルード』と呼ぶ。
「それだけ頭が良いのに、君は平民のままでいるつもりなのですか?」
痛いところを突かれた。この国ではいくら実力があっても貴族籍がなければ、その能力を発揮できるような職には就けない。
例えば俺は薬学の勉強をして薬師になりたいけど、ただ薬を作るだけならともかく、新薬の開発や病気の研究となると、貴族にならなきゃそもそも研究所に入れないんだ。
「それだけの才能があるのなら、養子に迎えたいという家もありそうですが……」
実際、俺もそれを期待している。家名を貸してくれるだけでいいから、貴族になりたい。
俺は勉強に励み、苦手な礼儀作法の授業も真面目に取り組み、常に上位の成績を維持した。その甲斐あって、とある伯爵家から養子縁組の話をもらえた。それも、子供がいないから後継者にという、ありがたいお話だ。
俺は逆に困ってしまった。研究者になるつもりはあっても、伯爵になるつもりはなかった。領地なんてどう管理したらいいのかわからない。できる気がしない。でも養子になれば俺が跡継ぎだ。
「ルード。君、コートナー伯爵の養子になったそうですね」
「ええ、まあ……」
断われなかったんだよ。相手は伯爵だもんな。庶民の俺や学のない両親が逆らえるわけがなかったんだ。
「コートナー家の後継者になったのでしょう。社交のことや領地のこと、誰か教えてくれる補佐が必要なのでは?」
「そうですね。俺の手には余ります」
「そうだと思って、釣り書きを送っておきました」
「……は?」
釣り書き?
それ、縁談のやつだよな?
「私なら十分、領地経営の補佐ができますから」
伴侶になれば隣で助けられますよと、ご令息がにこにこ笑う。
二年経っても俺のことを好きだとのたまい続けたご令息は、侯爵家の三男だった。庶民は伯爵に逆らえない。なら、伯爵は侯爵に逆らえるのか?
無理だった。無理だったんだよ。
俺と侯爵家の三男の縁談はトントン拍子に進んでしまった。「跡継ぎは!?」という俺の叫びは養父となった伯爵の「お前が養子なのだから次も養子で構わないさ」という発言の前に消えた。
「ルード」
婚約者になったご令息が俺を見て幸せそうに笑う。よくそんな顔ができるな。相手俺だぞ。
「君は僕の名前を呼んでくれませんね。婚約者になってもまだ呼ばないつもりなのですか?」
「……用もないのに呼べませんよ」
わかっている。もう逃げられないことは。それに気付いてもいる。二年も口説かれ続けて、自分がこいつに絆されてきたことに。
「……セオドール様」
俺が呼んでやったら、婚約者が実に嬉しそうな顔をした。そして残念そうに言う。
「セオと呼んでくれていいのに」
「俺がコートナー家の養子になった件、まさか手回ししていませんよね?」
セオドールはわざとらしく首を傾げた。
「さあ。何のことでしょうか」
俺が養子になった先が、例えば男爵家なら、侯爵家のセオドールとは『釣り合わない』と言われただろう。でも、伯爵家なら?
俺は深くため息をついた。
「あなたは本当に俺のことが好きなんですね」
「おや。今頃気付きましたか?」
「ええ……やっと信じる気になれました」
改めて、金髪碧眼の婚約者を見る。嫌悪感はないのだ、困ったことに。
「セオ。俺も割とあなたが好きみたいですよ」
セオドールの青い目がまんまるになった。
「もう一度。ねぇ、ルード。今の、もう一度言ってくれませんか?」
「嫌です」
俺はきっぱりと断った。でもまあ、年に一度くらいなら、言ってやってもいいかなぁ。
俺がセオドールと出会ってから伯爵家の養子になるまで二年。その後、婚約してからが一年以上。それだけの間『待て』をさせられていたセオドールが、まさか白い結婚で済ませるわけもなく。
窮屈に着飾らされた結婚式の後、俺はセオドールが実家から連れてきた使用人に改めて隅々まで洗われ、着る前から恥ずかしくなるような薄く透ける夜着を着せられた。
夫婦の寝室に放り込まれて「少々お待ちを」なんて言われる。ベッドは真っ白な寝具の上に花びらが散らされていた。ああもう、居た堪れない。
ガウンの胸元を押さえ、何かに着替えられないかときょろきょろしたけど当然何もない。少しでも隠したくて、シーツでも被ろうかと思ったものの、綺麗に飾られているわけで。
セオドールが見る前にこの飾られたベッドを乱してしまうのは、もしかしたら使用人の仕事をだめにすることになるのかと……そう逡巡するうちにドアがノックされた。
入ってきたセオドールは髪が乾ききっていなかった。え、それだけ急いだってことなのか?
「ルード」
うっとりと実に幸せそうに、セオドールが俺を呼ぶ。その声を聞いても嫌だとは思わない自分がいた。
「あの。一応聞きますけど……するんですよね?」
「ここまできてしないつもりなのですか?」
「いや、それはないだろうとは思うんですが。やっぱり、その、あなたは俺を抱きたいんですか」
男同士なのだ。どちらが受け入れる側なのかははっきりさせておかないと。
セオドールが笑う。その手が伸びてきて、俺の頬をするりと撫でた。
「君が僕を相手に勃つのなら、抱かれても構いませんが……」
「あ、えっと。それは」
セオドールのことは嫌いじゃない。だけど、流石にちょっと自信がないというか。
距離を詰められ、抱き寄せられる。
「ルード」
耳元で囁かれたと思ったら、耳殻を食まれた。体が俺の意に反してビクリと震える。
「ちょっと、セオ……!」
セオドールは意外と力が強い。俺もひ弱ではないつもりなのに逃げられない。と言うか、耳を舐められ、噛まれるたびに、体から力が抜けて逆らえない。
「好きです。ルード、愛しています」
吐息交じりに耳に吹き込まれる言葉に、俺は返事もできなかった。背筋がゾクゾクして、息が上がる。おかしな声が出てしまいそうだ。
「可愛い。真っ赤になって」
「だれの……せいだと、」
「もちろん僕ですよね」
セオドールの青い目に、ぎらぎらと劣情が宿っていた。
ガウンを奪われ、夜着一枚の姿を晒される。透ける肌をじろじろと観察されるのが恥ずかしくて仕方がない。
「……なんだよ。似合わないならそう言え」
最早、敬語を取り繕うだけの余裕もなかった。
「まさか。似合っていますよ。とても……煽情的で素敵だ」
押し倒されて、重なり合う体温に自分も少なからず興奮していることに気付いた。セオドールのガウンの下は上裸で、細いと思っていた体が、しっかりと引き締まっていることを知った。
腹筋なんか薄く割れていて、同じ男としてはちょっと羨ましい。薄い夜着越しの体温が熱いくらいで、バクバクとうるさい心音がどちらのものなのかわからなくなる。
「なるべく、優しくしますから」
「……ああ」
前々から、セオドールは器用だとは思っていた。けど、まさかその器用さがこんなことにまで発揮されるとは。
足を自分で抱えるのは恥ずかしかった。でも、顔が見えないのも不安で、その姿勢を受け入れた。潤滑剤を纏ったセオドールの指が俺のナカを探る。
異物感が強い。強張る体を必死に緩めた。セオドールは俺の反応が少しでも良い所があれば見逃さず、器用な指が的確に快感の芽を刺激してくる。
「セオ……! もういい、もう、大丈夫だから」
セオドールが目を細める。ああ、捕食者の顔をしている。
「ルード、気持ち良いですか?」
「……言わ、せるな、ばか……!」
指がずるりと引き抜かれる。俺は震えて、口元を押さえた。
「ルード。声、聞かせてください」
嫌だ。そんなことできるかと睨みつけたら、耳を舐められ、吐息を吹きかけられた。
「やめ……ッ、あ」
背筋をゾクゾクと走るこれが、快感であることくらい気付いている。セオドールが俺の手を押さえ、満足そうに笑った。
「必ず幸せにしますから」
セオドールの熱が俺の腹の中にゆっくりと埋められていく。しつこいくらいに慣らされたそこに痛みはなかった。
俺は散々鳴かされて、年に一度と思っていた言葉を何度も口にする羽目になった。
「セオ、好き。あぁッ、すき、すき……」
「ええ。僕も。愛していますよ、ルード」
余裕のある態度に腹が立つ。けど。俺はもう、こいつから離れることはないだろう。
「はじめまして。君が好きです」
「……は?」
我ながら低くガラの悪い『は?』が出た。もしかしたら『あ?』じゃないだけまだマシだったかもしれない。
目の前には金髪碧眼の美少年。間違いなく貴族、それも高位の。制服の生地がなんか普通じゃない。高いやつだ絶対。対してこっちはかろうじて奨学金でこの学院に入れた平民なんだけど。
俺は頭の出来はまあまあだと自負しているものの、別に見目麗しいわけじゃない。ちなみに制服は買えなくてお古を譲ってもらったという根っからの庶民である。
「えっと……何かの冗談ですか?」
「違います。本気で君が好きなんです。一目惚れというのでしょうね。きっと、わけがわからないだろうと思うのですが、僕も正直わけがわかりません」
「なんだそれ」
いかん。思わず高位貴族のご令息に素で突っ込んでしまった。
「こんなに誰かを愛しいと思うことがあるんだなぁと。僕は今、少し感動しています」
「………………自分は男ですが」
「見ればわかりますよ、それくらい」
じゃあなんでだよ。自分で鏡を見ても目付き悪いなって思う俺だぞ。
「ぜひ、婚約を前提に付き合っていただけないでしょうか?」
「すみません。辞退させてください!!」
俺は逃げた。全力で逃げた。廊下を走って教師に叱責されたけど、そんなの構っていられなかった。
でも、俺のことが好きだとのたまうご令息は、残念ながら俺のクラスメイトだった。逃げ切れない。気付くと何かとすぐ近くにいるのだ。
「ルドヴィク、君は本当に頭が良いのですね」
「……これでも特待生なので」
俺のことを『ルドヴィク』なんて呼ぶ人間は身近にいない。皆愛称で『ルード』と呼ぶ。
「それだけ頭が良いのに、君は平民のままでいるつもりなのですか?」
痛いところを突かれた。この国ではいくら実力があっても貴族籍がなければ、その能力を発揮できるような職には就けない。
例えば俺は薬学の勉強をして薬師になりたいけど、ただ薬を作るだけならともかく、新薬の開発や病気の研究となると、貴族にならなきゃそもそも研究所に入れないんだ。
「それだけの才能があるのなら、養子に迎えたいという家もありそうですが……」
実際、俺もそれを期待している。家名を貸してくれるだけでいいから、貴族になりたい。
俺は勉強に励み、苦手な礼儀作法の授業も真面目に取り組み、常に上位の成績を維持した。その甲斐あって、とある伯爵家から養子縁組の話をもらえた。それも、子供がいないから後継者にという、ありがたいお話だ。
俺は逆に困ってしまった。研究者になるつもりはあっても、伯爵になるつもりはなかった。領地なんてどう管理したらいいのかわからない。できる気がしない。でも養子になれば俺が跡継ぎだ。
「ルード。君、コートナー伯爵の養子になったそうですね」
「ええ、まあ……」
断われなかったんだよ。相手は伯爵だもんな。庶民の俺や学のない両親が逆らえるわけがなかったんだ。
「コートナー家の後継者になったのでしょう。社交のことや領地のこと、誰か教えてくれる補佐が必要なのでは?」
「そうですね。俺の手には余ります」
「そうだと思って、釣り書きを送っておきました」
「……は?」
釣り書き?
それ、縁談のやつだよな?
「私なら十分、領地経営の補佐ができますから」
伴侶になれば隣で助けられますよと、ご令息がにこにこ笑う。
二年経っても俺のことを好きだとのたまい続けたご令息は、侯爵家の三男だった。庶民は伯爵に逆らえない。なら、伯爵は侯爵に逆らえるのか?
無理だった。無理だったんだよ。
俺と侯爵家の三男の縁談はトントン拍子に進んでしまった。「跡継ぎは!?」という俺の叫びは養父となった伯爵の「お前が養子なのだから次も養子で構わないさ」という発言の前に消えた。
「ルード」
婚約者になったご令息が俺を見て幸せそうに笑う。よくそんな顔ができるな。相手俺だぞ。
「君は僕の名前を呼んでくれませんね。婚約者になってもまだ呼ばないつもりなのですか?」
「……用もないのに呼べませんよ」
わかっている。もう逃げられないことは。それに気付いてもいる。二年も口説かれ続けて、自分がこいつに絆されてきたことに。
「……セオドール様」
俺が呼んでやったら、婚約者が実に嬉しそうな顔をした。そして残念そうに言う。
「セオと呼んでくれていいのに」
「俺がコートナー家の養子になった件、まさか手回ししていませんよね?」
セオドールはわざとらしく首を傾げた。
「さあ。何のことでしょうか」
俺が養子になった先が、例えば男爵家なら、侯爵家のセオドールとは『釣り合わない』と言われただろう。でも、伯爵家なら?
俺は深くため息をついた。
「あなたは本当に俺のことが好きなんですね」
「おや。今頃気付きましたか?」
「ええ……やっと信じる気になれました」
改めて、金髪碧眼の婚約者を見る。嫌悪感はないのだ、困ったことに。
「セオ。俺も割とあなたが好きみたいですよ」
セオドールの青い目がまんまるになった。
「もう一度。ねぇ、ルード。今の、もう一度言ってくれませんか?」
「嫌です」
俺はきっぱりと断った。でもまあ、年に一度くらいなら、言ってやってもいいかなぁ。
俺がセオドールと出会ってから伯爵家の養子になるまで二年。その後、婚約してからが一年以上。それだけの間『待て』をさせられていたセオドールが、まさか白い結婚で済ませるわけもなく。
窮屈に着飾らされた結婚式の後、俺はセオドールが実家から連れてきた使用人に改めて隅々まで洗われ、着る前から恥ずかしくなるような薄く透ける夜着を着せられた。
夫婦の寝室に放り込まれて「少々お待ちを」なんて言われる。ベッドは真っ白な寝具の上に花びらが散らされていた。ああもう、居た堪れない。
ガウンの胸元を押さえ、何かに着替えられないかときょろきょろしたけど当然何もない。少しでも隠したくて、シーツでも被ろうかと思ったものの、綺麗に飾られているわけで。
セオドールが見る前にこの飾られたベッドを乱してしまうのは、もしかしたら使用人の仕事をだめにすることになるのかと……そう逡巡するうちにドアがノックされた。
入ってきたセオドールは髪が乾ききっていなかった。え、それだけ急いだってことなのか?
「ルード」
うっとりと実に幸せそうに、セオドールが俺を呼ぶ。その声を聞いても嫌だとは思わない自分がいた。
「あの。一応聞きますけど……するんですよね?」
「ここまできてしないつもりなのですか?」
「いや、それはないだろうとは思うんですが。やっぱり、その、あなたは俺を抱きたいんですか」
男同士なのだ。どちらが受け入れる側なのかははっきりさせておかないと。
セオドールが笑う。その手が伸びてきて、俺の頬をするりと撫でた。
「君が僕を相手に勃つのなら、抱かれても構いませんが……」
「あ、えっと。それは」
セオドールのことは嫌いじゃない。だけど、流石にちょっと自信がないというか。
距離を詰められ、抱き寄せられる。
「ルード」
耳元で囁かれたと思ったら、耳殻を食まれた。体が俺の意に反してビクリと震える。
「ちょっと、セオ……!」
セオドールは意外と力が強い。俺もひ弱ではないつもりなのに逃げられない。と言うか、耳を舐められ、噛まれるたびに、体から力が抜けて逆らえない。
「好きです。ルード、愛しています」
吐息交じりに耳に吹き込まれる言葉に、俺は返事もできなかった。背筋がゾクゾクして、息が上がる。おかしな声が出てしまいそうだ。
「可愛い。真っ赤になって」
「だれの……せいだと、」
「もちろん僕ですよね」
セオドールの青い目に、ぎらぎらと劣情が宿っていた。
ガウンを奪われ、夜着一枚の姿を晒される。透ける肌をじろじろと観察されるのが恥ずかしくて仕方がない。
「……なんだよ。似合わないならそう言え」
最早、敬語を取り繕うだけの余裕もなかった。
「まさか。似合っていますよ。とても……煽情的で素敵だ」
押し倒されて、重なり合う体温に自分も少なからず興奮していることに気付いた。セオドールのガウンの下は上裸で、細いと思っていた体が、しっかりと引き締まっていることを知った。
腹筋なんか薄く割れていて、同じ男としてはちょっと羨ましい。薄い夜着越しの体温が熱いくらいで、バクバクとうるさい心音がどちらのものなのかわからなくなる。
「なるべく、優しくしますから」
「……ああ」
前々から、セオドールは器用だとは思っていた。けど、まさかその器用さがこんなことにまで発揮されるとは。
足を自分で抱えるのは恥ずかしかった。でも、顔が見えないのも不安で、その姿勢を受け入れた。潤滑剤を纏ったセオドールの指が俺のナカを探る。
異物感が強い。強張る体を必死に緩めた。セオドールは俺の反応が少しでも良い所があれば見逃さず、器用な指が的確に快感の芽を刺激してくる。
「セオ……! もういい、もう、大丈夫だから」
セオドールが目を細める。ああ、捕食者の顔をしている。
「ルード、気持ち良いですか?」
「……言わ、せるな、ばか……!」
指がずるりと引き抜かれる。俺は震えて、口元を押さえた。
「ルード。声、聞かせてください」
嫌だ。そんなことできるかと睨みつけたら、耳を舐められ、吐息を吹きかけられた。
「やめ……ッ、あ」
背筋をゾクゾクと走るこれが、快感であることくらい気付いている。セオドールが俺の手を押さえ、満足そうに笑った。
「必ず幸せにしますから」
セオドールの熱が俺の腹の中にゆっくりと埋められていく。しつこいくらいに慣らされたそこに痛みはなかった。
俺は散々鳴かされて、年に一度と思っていた言葉を何度も口にする羽目になった。
「セオ、好き。あぁッ、すき、すき……」
「ええ。僕も。愛していますよ、ルード」
余裕のある態度に腹が立つ。けど。俺はもう、こいつから離れることはないだろう。
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