没落令息はクラスメイトの執着に救われる

夕月ねむ

文字の大きさ
1 / 5

1-1

しおりを挟む
「ローレンス。荷物をまとめなさい。あなたはもう、ここにいる資格がない」
「それは……どういうことです?」

 私が実家の取り潰しを知ったのは、学院の寮の談話室にいた時だった。由緒正しい伯爵家の、領地も屋敷も、名前すらも剥奪されて、父は強制労働、母は幽閉が決まったという。

「そんな……」
 呆然とする私に、兄からの手紙が渡された。それは確かに兄の手による文字で、両親が違法な薬物の取引に関わっていたこと、本来なら一緒に罰を受けるはずの私たち兄弟が、特別に平民落ちだけで赦されたことが書かれていた。

 親子らしいことはほとんどなかった両親だ。私も兄も使用人に育てられて、それでも貴族ならそういうものだろうと思っていた。最後に話したのはいつだっただろう。顔を合わせるのも、それほど頻繁ではなかった。

 その両親が罰を受けるという。彼らの心配より先に、自分のこれからを思ってしまった私は、薄情だろうか。まだ15歳、ひとりで生きていくのはあまりにも厳しい。

 年の離れた兄は元々騎士だった。平民の騎士も居なくはない。仕事は続けられるらしいが、私を養う余裕はないと手紙に詫びの言葉があった。それはただの謝罪じゃない。拒絶だ。

「待ってください」
 混乱しながらも教師に促され、自室に戻ろうとした私を、止めた生徒がいた。
「ローレンスは成績優秀、勉学を続ければ国の役に立つ人材になるかもしれません」
 そう教師に抗議してくれたのは侯爵家の三男、ユリシーズだった。

 家をなくし、身分を失い、保護者もいなくなる私が、学院に残るのは無理だ。ここは貴族のための学び舎で、私にはもう学費の支払いすらできない。

 けれど、ユリシーズはとんでもないことを言い出した。
「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることが許されるはずですね?」
「ええ、規則では認められています。ですが、ローレンスを従者にすると?」
 教師は困ったような顔をしていた。

 従者の同席は古い習わしで、今ではわざわざ供を連れてくる生徒はあまりいない。でも、廃止された制度というわけでもなく、特に高位の貴族なら、従者を連れている者も皆無ではない。けれど……それは私がユリシーズの従者になるということだ。

「ローリー」
 ユリシーズが私を愛称で呼んで、言った。
「君に行くあてはあるのか。仕事は何かできるのか? これからどうやって生きていくつもりだ」
「それは……」

 私にできるのは魔法がいくつかと勉強を教えることくらい。けどそれも、私の年齢を考えたら家庭教師になるのは無理だし、実戦経験があるわけでもない。孤児院の世話になるには育ちすぎている。
「施療院の治癒士にでもなれたら……」
「あれは孤児上がりの神官の仕事だろう」
 確かにそうだ。しかし、今の私は孤児とどう違う?

「本当に学院をやめてもいいのか」
 やめたくはない。ないけれど。クラスメイトの従者になるなんて、事情を知られてからもここに残るなんて、居心地の悪さは相当なものだろう。

「……わかった」
 ユリシーズがため息をついた。
「言い方を変えよう。君はもう貴族じゃない。平民だ。雇ってやる。私に仕えろ。逆らえる立場じゃないのは、わかるな?」
 ユリシーズの言うことは何も、間違っていない。ここで抵抗したら、今後の生活を考えるより先に処罰される。平民の命は軽い。私はもう、搾取される側なのだ。

「わかりました。あなたの従者になりましょう」
 他に口に出せる言葉など、私は持ち合わせていなかった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

処理中です...