無愛想王子の性欲処理係

今部ぽん

文字の大きさ
9 / 12

09.部屋に戻らぬ王子様

 王子様が、夜、部屋に帰ってこなくなった。

「ほんと、焦ったわ~。あんときアンタがあまりにも変な反応をするもんだから、まさか性行為してないのかと思っちゃった」
「……はあ」
「でもここ最近、数値もさらに改善してきたしそんなわけないわね。もう、びっくりさせないでよ」

 とんでもないセクハラを受けている気がするが、全て鼓膜の表面をただ滑っていく。

 原因はあの日の出来事だろう。私が呼ばれた理由をきっちり果たそうとした、あの。
 どうやらキバタさんにバレるのは面倒だと考えているらしく、彼女にバレないような立ち回りをしていた。
 仕事が終わると修練室に迎えに来て、キバタさんの気配がないか確認してから部屋を出ていく。
 朝は、キバタさんが来る直前に寝室に戻って来る。涙ぐましい努力だ。
 一体どこで寝ているのだろうか。王子様だから何部屋も自室があるのかもしれない。

 色々と気になることはあるが、その筆頭は彼の体調のことだ。
 恐らくあの日の深い接触のお陰で、傍目には小康状態が保たれているが、このままでいられるとは到底思えない。普通のキスすらしないまま既に三日以上経過しているのだ。このままでは、またどこかのタイミングで、あの時のように暴走してしまうのではないだろうか。

「さっ、集中集中」
「……はい」

 指摘され、マンツーマン修行・夜の部の最中だったことを思い出した。
 割とイレギュラーな事態が起こっているというのに、のんびり魔法の練習なんてしていていいのだろうか。
 でも、避けられている状況でこちらからできることなんて……。いやしかし、避けられれば避けられるほど帰る日は遠のいていく……。

「はい、想像して~。手のひらに身体の中の熱を集めるのよ。王子様の魔力を感じてね」
「……」

 王子様の魔力。なんのことかさっぱりだ。
 とりあえず、頭の中に彼のことを思い浮かべる。蘇ったのはつい先日の豹変した彼とのキスだった。後悔した。
 恥ずかしさと気まずさと同時に、あの時感じた甘さのような不思議な感覚が湧き上がった。

「えっ、嘘」

 ぼっ、と音がして、眼の前が明るく熱くなった。
 それは一瞬で消えてしまったが、手のひらにはチリチリとくすぶる感覚が残っている。身体の真ん中から腕を通って手のひらへ。新たな神経が開通したような気がした。

「すごいじゃなーい! やればできるのね!」
「あ……ありがとうございます」

 びっくりだ。もしかして、あのキスのせい? あれでより多くの魔力をもらえたから使えた、ということなのだろうか。
 理由はどうあれ、一歩前進。このまま練習を続ければまた森へついていくことができる。……避けられている状態で、あのときの言葉が有効なのかは不明だけど。

「さっ、めでたいし区切りもいいし、そろそろ夜ご飯にしましょうか」
「そうですね」
「えーっと……あーっ!」

 いつものようにキバタさんが魔法で取り寄せてくれるのかと思ったが、彼女は翼を振るのではなく奇声を上げた。

「まずいわ! 私この後の会食に同席しなきゃいけないの忘れてた!」
「え!? まずいじゃないですか」
「まずいのよ! しかもゲストは隣国のお姫様よ! やばいわ! ダッシュで行ってくる!
 悪いけどアンタは食堂で食べて! 場所はそのへんの兵士にでも聞いて!
 変なこと言わないでよ! アンタはただの、私の弟子! よろしい!?」

 飛んだほうがいいんじゃ。
 叫びながらトテトテ走っていった彼女にわざわざツッコミを入れるのは野暮な気がして、やめておいた。

「さて、と」

 騒がしい気配が離れたのを確認してから修練室を出ると、廊下にはちらほら人影があった。兵士さん、メイドさんなどなど。
 彼らはどうやら同じ方向に向かっていっているようだ。ついていけば食堂にたどり着けるのでは?
 消極的な判断を下し、行き先を決定しかけたとき声をかけられた。

「アサノ様?」
「あ、ペリドさん」

 あのとき護衛についてくれた爽やかな兵士さんだった。
 相変わらず人のよさそうな笑みを浮かべている好青年だ。

「どうされたんですか?」
「食堂に行こうと思っていて……」
「なるほど、私も向かうところですから、ご一緒にいかがですか」
「はい、ぜひ」

 にか、と笑ったペリドさんにくっついて、食堂へ向かう。

***

 食堂は兵士さんたちで賑わっていた。ペリドさんと私は同じAセットを注文、受け取ってから、空いていた隅の席に座った。
 いただきますをして、しばらく世間話を挟んだ後。

「そういえば、キバタ様とご一緒でないのは珍しいですね」
「急な用事が入ったらしいです」
「なるほど。ここ最近、殿下もキバタ様も一際お忙しそうですよね。戴冠式も近いですしね」

 確かに以前キバタさんが『半年後に戴冠式がある』と言っていた。忙しいのも仕方ないのかもしれない。 

「殿下とは先程まで討伐隊で一緒だったのですが、お疲れのご様子でした」
「そうだったんですね。……ご飯……食べられてるんですかね」

 自分が食事を眼の前にしているからだろうか。まるで親のようなセリフが出てしまった。今の関係値で心配するようなことではない気がして、なんとなく落ち着かない気分になる。

「どうでしょう。今日はもう部屋に戻るとのことでしたが、今頃お食事をとられているのかもしれません」
「え、部屋に?」
「? はい」

 思わずフォークを取り落としかけたが、すんでのところで堪えた。誤魔化すように後少し残っていた肉の欠片を口に入れる。
 変な反応をしてはいけない。王子様と私が妙な関係だというのは三人(二人と一羽)だけの秘密なのだ。
 にしても……今行けば会えるかもしれないのか。

「もしかして、殿下になにかご用事が?」
「え? あー……っと、すみません、あの」
「後片付けしておきますよ」

 どう誤魔化そうか考えているうちに、ペリドさんがそう言ってくれた。なんて気の利く人だろうか。

「……すみません、よろしくお願いします」
「お気になさらないでください」

 残っていた僅かな料理の欠片を口に放り込んでから、ペリドさんに頭を下げて食堂を飛び出した。
感想 0

あなたにおすすめの小説

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました

ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。

田舎の幼馴染に囲い込まれた

兎角
恋愛
25.10/21 殴り書きの続き更新 都会に飛び出した田舎娘が渋々帰郷した田舎のムチムチ幼馴染に囲い込まれてズブズブになる予定 ※殴り書きなので改行などない状態です…そのうち直します。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…