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2章 RHYME
11. WACKS それは破滅の組織、TAXI あれば帰るのもいい
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◇◇◇
11. WACKS それは破滅の組織、TAXI あれば帰るのもいい
結果的には、またライムはケイジの魔法を詳しく読み取ることができなかった。
仮面の長身は、先の男の身体に折り重なるようにその場に伏していた。
「ふう…まさか高速フロウの使い手がいるとはな。酸欠で倒れたのか…?
言ってる内容ほとんどわからなかったし…」
ケイジは手でパタパタと頬を扇いでいる。
仮面の実力は確かなものだった。
大気濃度を操る風の魔法。
敵の魔法の伝導を妨げつつ、同時に呼吸も乱す高度な重複詠唱は、明らかに素人ではなく魔法を生業にしている者の技に他ならな
い。
しかし、やはり2ターン目を待たずに地へ崩れ落ちた。
圧倒的な速度、圧倒的な貫通力の、ケイジの放った「何か」が仮面の意識を刈り取った、としかライムには判別できなかった。
「ううん…、一度バトルした間柄とは言え、なんか予選免除権を奪おうとかしてたし、あんまりマイメンとかになれそ
うな感じじゃないな…」
倒れた二人をこのまま放置してよいものか、声をかけて起こすべきか、ケイジは迷う。
悪そうな奴とは友達になっても、悪い奴と友達にはなりたくない。
しかし後で第三者に見つかって揉め事になっても困る。
(やっぱ起こすか…。)
「触ってはいけません!離れて!」
「…? そんな不潔みたいに言わなくても…」
ラッパーなんて大体汚らしい格好をしているものだ。
高いTシャツも汚い感じで着こなす、それがBボーイの魂。
「試験の実行委員会と宮廷付けの衛兵隊に託しましょう。
家名を出せばここの責任者と話せるはずです。」
「ええ、なんかええと、そこまでする…?たかがショボいヤンキーだろ?
入り口にいた守衛さんにでも…」
ショボいヤンキーというか、ショボいからヤンキーと呼ばれるのだろうが、わざわざ責任者が出てくるほどのこととは思えない。
お嬢様の感覚が少々庶民を逸脱しているのではなかろうか。
「彼らは“WACKS”
――宮廷試験の度に暗躍している反社会組織なのです。
ここではあまり話せませんが…その存在は国防に関わる規模の第一級警戒対象です。」
(―ははーん、よくいるロック精神と破壊活動を履き違えてるイタい馬鹿だな…
どこの世界も変わらんものだ)
結局、ケイジが見張っている間にライムが通報しに行き、倒れたままの二人は武装した衛兵に運ばれていった。
ライムはその後もこの件での細かい手続きがあるとのことで、会場に残してケイジは一人帰路についた。
少し離れた建物の脇から、この場を立ち去る影があった。ケイジたちを尾行していた3つのうち最後の気配の主だったが、もちろ
んケイジには知る由もなかった。
◇
「…何?あの禅SOCまで敗れて捕縛されただと…?」
「得体の知れないガキで…今日初めて予選会場に現れたのですが、予選免除の権利を有していると…」
「予選免除…貴族の後ろ盾か… 逃す手はありませんな」
薄暗い部屋に人影が三つ。
一つは黒光りした厳ついソファに掛け、もう一つはその脇に立ち、残り一つはその前の床に立て膝をついていた。
「急ぎ、今夜中にも捕縛者2名に刺客を送り―」
「構わぬ、捨て置け」
「…? ですが彼らから情報が漏れては…」
「禅SOCは場数を踏んだ魔忍。捉えられたときに即座に自害する術を心得ております。手駒としては惜しいが、代わりは補充でき
ましょう。
下級工作員の方は叩かれても何も出ますまい。」
蝋燭の明かりは足元ばかりを照らし、ソファの人影の表情の陰影を深くしていた。
立て膝の人影に顔を上げることは許されていない。
「それより気になるのはその小僧…禅SOCを一方的に討ち取ることができる技量に、おそらく貴族由来の免除権…」
「貴族院議員の関係者、ともすると令息という可能性もありましょうな」
「それが…容姿は異国風で、身なりもあまり綺麗とは言えぬ装いで…」
「魔法師試験には身分を隠す受験者も多い…カムフラージュであろう」
「ご慧眼でございます、閣下」
ソファの人物の脇に佇む長毛種の猫は、燭台の灯を瞬きもせずに見つめている。
「魔法師の詠唱を封じる魔法だと…そんなものがあるとするならば…
それこそ神話の―」
「まさか…“インドラの星火”の…?」
「口を慎みなさい」
「ハッ…!し、失礼いたしました…!」
叱責を買った人影は右拳を床について畏まる。
三人しかいないガランとした部屋の空気が途端に張り詰める。
針の筵のような沈黙。
「…魔眼蛇王ノ牙を率いて生け捕りにしろ」
「なっ…!? 総統、あのような者たちを… そこまでのことでしょうか!?」
「バ…魔眼蛇王ノ牙…実在していたとは…」
にわかに二人の表情に焦燥が走る。
決して表舞台に立つことのない者たちの名前。
それを動かすということがどれだけリスキーであるか、否、そうまでする必要がこの局面にあるという重い判断に、発案者以外は
たじろがざるを得なかった。
少なくとも、宮廷魔法師試験の新人潰しのために稼動するなどということは前例になかった。
「本戦が始まるまでに、だ。
それと実行委員会本部の蝙蝠を経由して推薦者を出している貴族を全て特定しろ」
「かしこまりました」
「必ずや!」
跪いていた男の姿がそのまま闇に消える。
燭台の灯が少し揺れ、残った二人の壁に映る影を大小させる。
「…大事の前の小事、では済まない、ということでございますな」
「今回はこれまでに増して慎重を期さねばならん――何せあのお方の復活がかかっておるからな」
ソファの人物はここで初めて笑みを浮かべる。
窓一つない部屋の天井は、外の新月の夜空より深い黒で覆われていた。
◇◇◇
(第12話に続く)
11. WACKS それは破滅の組織、TAXI あれば帰るのもいい
結果的には、またライムはケイジの魔法を詳しく読み取ることができなかった。
仮面の長身は、先の男の身体に折り重なるようにその場に伏していた。
「ふう…まさか高速フロウの使い手がいるとはな。酸欠で倒れたのか…?
言ってる内容ほとんどわからなかったし…」
ケイジは手でパタパタと頬を扇いでいる。
仮面の実力は確かなものだった。
大気濃度を操る風の魔法。
敵の魔法の伝導を妨げつつ、同時に呼吸も乱す高度な重複詠唱は、明らかに素人ではなく魔法を生業にしている者の技に他ならな
い。
しかし、やはり2ターン目を待たずに地へ崩れ落ちた。
圧倒的な速度、圧倒的な貫通力の、ケイジの放った「何か」が仮面の意識を刈り取った、としかライムには判別できなかった。
「ううん…、一度バトルした間柄とは言え、なんか予選免除権を奪おうとかしてたし、あんまりマイメンとかになれそ
うな感じじゃないな…」
倒れた二人をこのまま放置してよいものか、声をかけて起こすべきか、ケイジは迷う。
悪そうな奴とは友達になっても、悪い奴と友達にはなりたくない。
しかし後で第三者に見つかって揉め事になっても困る。
(やっぱ起こすか…。)
「触ってはいけません!離れて!」
「…? そんな不潔みたいに言わなくても…」
ラッパーなんて大体汚らしい格好をしているものだ。
高いTシャツも汚い感じで着こなす、それがBボーイの魂。
「試験の実行委員会と宮廷付けの衛兵隊に託しましょう。
家名を出せばここの責任者と話せるはずです。」
「ええ、なんかええと、そこまでする…?たかがショボいヤンキーだろ?
入り口にいた守衛さんにでも…」
ショボいヤンキーというか、ショボいからヤンキーと呼ばれるのだろうが、わざわざ責任者が出てくるほどのこととは思えない。
お嬢様の感覚が少々庶民を逸脱しているのではなかろうか。
「彼らは“WACKS”
――宮廷試験の度に暗躍している反社会組織なのです。
ここではあまり話せませんが…その存在は国防に関わる規模の第一級警戒対象です。」
(―ははーん、よくいるロック精神と破壊活動を履き違えてるイタい馬鹿だな…
どこの世界も変わらんものだ)
結局、ケイジが見張っている間にライムが通報しに行き、倒れたままの二人は武装した衛兵に運ばれていった。
ライムはその後もこの件での細かい手続きがあるとのことで、会場に残してケイジは一人帰路についた。
少し離れた建物の脇から、この場を立ち去る影があった。ケイジたちを尾行していた3つのうち最後の気配の主だったが、もちろ
んケイジには知る由もなかった。
◇
「…何?あの禅SOCまで敗れて捕縛されただと…?」
「得体の知れないガキで…今日初めて予選会場に現れたのですが、予選免除の権利を有していると…」
「予選免除…貴族の後ろ盾か… 逃す手はありませんな」
薄暗い部屋に人影が三つ。
一つは黒光りした厳ついソファに掛け、もう一つはその脇に立ち、残り一つはその前の床に立て膝をついていた。
「急ぎ、今夜中にも捕縛者2名に刺客を送り―」
「構わぬ、捨て置け」
「…? ですが彼らから情報が漏れては…」
「禅SOCは場数を踏んだ魔忍。捉えられたときに即座に自害する術を心得ております。手駒としては惜しいが、代わりは補充でき
ましょう。
下級工作員の方は叩かれても何も出ますまい。」
蝋燭の明かりは足元ばかりを照らし、ソファの人影の表情の陰影を深くしていた。
立て膝の人影に顔を上げることは許されていない。
「それより気になるのはその小僧…禅SOCを一方的に討ち取ることができる技量に、おそらく貴族由来の免除権…」
「貴族院議員の関係者、ともすると令息という可能性もありましょうな」
「それが…容姿は異国風で、身なりもあまり綺麗とは言えぬ装いで…」
「魔法師試験には身分を隠す受験者も多い…カムフラージュであろう」
「ご慧眼でございます、閣下」
ソファの人物の脇に佇む長毛種の猫は、燭台の灯を瞬きもせずに見つめている。
「魔法師の詠唱を封じる魔法だと…そんなものがあるとするならば…
それこそ神話の―」
「まさか…“インドラの星火”の…?」
「口を慎みなさい」
「ハッ…!し、失礼いたしました…!」
叱責を買った人影は右拳を床について畏まる。
三人しかいないガランとした部屋の空気が途端に張り詰める。
針の筵のような沈黙。
「…魔眼蛇王ノ牙を率いて生け捕りにしろ」
「なっ…!? 総統、あのような者たちを… そこまでのことでしょうか!?」
「バ…魔眼蛇王ノ牙…実在していたとは…」
にわかに二人の表情に焦燥が走る。
決して表舞台に立つことのない者たちの名前。
それを動かすということがどれだけリスキーであるか、否、そうまでする必要がこの局面にあるという重い判断に、発案者以外は
たじろがざるを得なかった。
少なくとも、宮廷魔法師試験の新人潰しのために稼動するなどということは前例になかった。
「本戦が始まるまでに、だ。
それと実行委員会本部の蝙蝠を経由して推薦者を出している貴族を全て特定しろ」
「かしこまりました」
「必ずや!」
跪いていた男の姿がそのまま闇に消える。
燭台の灯が少し揺れ、残った二人の壁に映る影を大小させる。
「…大事の前の小事、では済まない、ということでございますな」
「今回はこれまでに増して慎重を期さねばならん――何せあのお方の復活がかかっておるからな」
ソファの人物はここで初めて笑みを浮かべる。
窓一つない部屋の天井は、外の新月の夜空より深い黒で覆われていた。
◇◇◇
(第12話に続く)
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