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3章 FLOW
25. 屋根裏の散歩者、吠え面のワンコ感
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◇◇◇
25. 屋根裏の散歩者、吠え面のワンコ感
試験は対人戦だけではなく、ブロックごとに様々な課題が入り混じる。
後半になるほど、ダンジョン探索や特定の魔獣討伐など、難易度の高い試練が課されていく。
とは言え連日戦い詰めになるわけではなく、準備・回復期間を挟みながら、約半年を費やして全行程が完了する。
「対人戦は特に他の試練と並行して組まれますから、コンディションの調整とペース配分が重要なんです。休みをいかに有効に休めるかが後半戦にものを言うんですよ!」
ライムはケイジの肩に湿布を貼りながら力説する。
夕食はすでに宿の食堂で済ませ、部屋に戻っていた。
ライムは今夜は実家には戻らないようだった。
「(半年間続くなんて聞いてないぞ…なんて厳正なオーディションなんだ…。
―いや、たまたま時流に乗った、実力の無い一発屋ラッパーを誤採用しないため、か…むしろキチンとしてるな)」
湿布は、実際には呪符であり、骨や筋肉に作用するものではなく、バトルで乱れた魔素を安定させるためのものだ。
表面に呪文が特殊な文字で書き込まれているが、ケイジはギプスに応援メッセージを書くようなものかと思っている。
そもそも筆記用のルーン文字はケイジには読めなかった。
一戦しただけだが(それもたった2ターンの短期戦だった)、気分的にはそれなりに頑張った感があって、疲れていた。
「ありがとう、ライム。肩が軽くなった気がする。さっき食べたばっかりだけど今日は早めに寝るよ」
次の日は対戦なし。
試験序盤は取り組みが多く、ケイジは2日間空き日となっていた。
「ええ、―」
ライムは目を細める。
「――ゆっくり休んでくださいね」
1分と経たずに、ケイジの意識はベッドで途切れた。
◇
「ここね、あいつの拠点の宿ってのは…」
日付が変わった頃、ケイジたちの宿の屋根上に二つの影があった。
「待ってなさいよ、ライムライト・カッサネール…あっ、じゃなくて、K.G…!お前のイカサマを丸裸にしてあげるわ!!」
「お嬢、声が大きいですよ」
同行しているのは、フロウ直属のお世話係の中でも諜報を専門とする部隊長、アラミス・ホネオレール。
男の名前だが、女子のお世話係とあって若い女性だ。
「わざわざお嬢が来なくても、我々隠密部に任せておいていただければ―」
「ダメよ!この不正は…この屈辱は、私自身の手でカタを付けるのっ!」
「襲撃するわけじゃないんですから、本人がいない日中に家捜しをした方が、何かしら不正の証拠などが見つかるのでは…」
敵対者を夜襲することもこの部隊の任務だが、フロウ本人が同行することはほとんど無かった。
「ふふっ、明日がK.Gの休息日なのはあなたたちの調べどおり…
あのウシ女とK.Gが本当に男女の仲なら、そういう日の前夜に性行為に及ぶのは明白よ…!」
「えっ…それが見たいんですか…?」
「みっ、見たくないわよ!バッカじゃない!? バッカじゃない!? 汚らわしい…!」
説得力は無かった。
「逆にそれが無ければ、あの二人はそういう仲じゃないってこと…もっと不自然で怪しい関係なのよ!
どうせああいう箱入りお嬢様に限って、ちょっと行動を共にしただけの男を彼氏みたいに周囲に匂わせるのよ…ああブスっ…!心の底からブスの所業だわッ…!!」
「…。真意を見失いそうですが、男持ちの女子をやっかんでいるんですか…?
まあ、大金星の祝杯の雰囲気で男女が部屋に二人なら、別に恋人じゃなくても行為に及びますけどね」
「しゅっ…祝杯じゃないし!あいつら勝ってないし!
なに?詐欺が成功してめでたいとでも思ってるのかしら?奴らの頭の中のがよっぽどめでたいわアホがッ…!」
「声が大きいですよ!我々は今、忍んでいるんですから…」
「行為に及んでいたら大貴族の令嬢の完璧なスキャンダル、及んでいなければ、男もいないくせにいますよ~って匂わせて彼女ヅラするブス、どっちにしてもあいつの詰みなのよ!」
「お嬢…目的って言うかターゲットが変わってますね…」
月明かりが翳ったところで、ケイジたちの部屋の窓の外まで接近する。
とっくに明かりは消えていたが、カーテンは朝日が入るように半分開いていた。
「どれどれ…チラリ」
すぐ目の前のベッドで、全裸のライムが、寝ているケイジに馬乗りになっていた。
「~~~~ッッッッッ!!!!!!!!」
一瞬、その場で完全に固まる。
すぐにアラミスが首を引っ張って、視覚に身を隠させる。
あまりにベッドが目の前すぎて、暗くても直視すれば相手にもバレかねない。
「…まっ、まだわからないわ…マ…ママ、マッサージしてるのかもしれないし…」
「仰向けで…? それはマル確で男女の仲ですね」
「く…くく…首を絞めようとしてたのかもしれないし…」
「それなら想像より遥かにヤバい関係ですね…」
暗くて肝心なところが見えない。
肝心な必要があるかと言えば無かったが、最後の希望を捨てないのがフロウをこれまで成功させてきた芯でもある。
雲間からの月明かりは薄く部屋を照らし、心なしか、昼間見たライムの明るい金髪も澄んだ碧眼も、赤く染まって見えた。
「もうっ暗いわね…アラミス、透像石水晶を出しなさい!」
「それをやるともう完全に変態覗き魔ですね…」
「ちがっ…バッ…、なに変なこと考えてんの!? そういうこと考える方が変態なんだからッ!」
付き人はやむなく腰の袋から水晶を取り出す。
記録映像を映し出す投影石水晶とは異なり、眼前の光景を立体映像のように手元で再現する、ほとんど覗き見専用のアイテムだ。
「水晶よ…真実を映し出しなさい…ッ!」
全裸のライムライトが、仰向けのK.Gに跨って、首を絞めながら身体を上下させていた。
「~~~~~ッッッッ…!!!!!!!」
「これは…マル確ですね…お嬢…。やっぱり外出中を狙いなおしましょう。
…? お嬢…!?」
フロウは瞬きもせず映し出された像を凝視しながら、内股でモゾモゾしている。
瞳孔が開ききり、紅潮しきった頬、やや呼吸も荒い。
「ちょっとお嬢、お股を手でこするのをおやめなさい…!」
「そっ…そんなことしてな…ああっあっ…!!」
フロウが両手で股間を押さえながら、前かがみでしゃがみこんだ瞬間―
下半身が猛烈な火炎で包まれた。
「ぎゃあああぁぁぁぁーーーーっち!あっち!!あっちああああぁぁっぁぁぁーーー!?」
「お嬢ッ…!?
まさかこれは…“火精崩傾”…!?
…くっ…退却します!お嬢、失礼…ッ!」
どこから出したのか、アラミスはバケツいっぱいの水をフロウの頭から思い切りぶっ掛ける。
「!?!?!?…!?」
フロウの股間の火はひとまず消える。
全く状況を把握できない主の意識を他所に、有能な付き人は華奢な主の身体を担ぎ上げ、脱兎のごとく飛び上がった。
そのまま闇にまぎれて、家屋の屋根伝いに音も立てずに走り抜ける。
下半身は衣装が焼けて、付き人の肩に担がれたフロウは尻丸出しだったが、そんなことを気にするレベルではなくほぼ放心していた。
「なんてことだ…まさかあんな男を相手にコレが発現してしまうなど…
クッ… お嬢…この先は地獄かもしれませんよ…」
雲に遮られた薄い月明かりが、担ぎ上げられたフロウの尻を照らしていた。
◇◇◇
(第26話に続く)
25. 屋根裏の散歩者、吠え面のワンコ感
試験は対人戦だけではなく、ブロックごとに様々な課題が入り混じる。
後半になるほど、ダンジョン探索や特定の魔獣討伐など、難易度の高い試練が課されていく。
とは言え連日戦い詰めになるわけではなく、準備・回復期間を挟みながら、約半年を費やして全行程が完了する。
「対人戦は特に他の試練と並行して組まれますから、コンディションの調整とペース配分が重要なんです。休みをいかに有効に休めるかが後半戦にものを言うんですよ!」
ライムはケイジの肩に湿布を貼りながら力説する。
夕食はすでに宿の食堂で済ませ、部屋に戻っていた。
ライムは今夜は実家には戻らないようだった。
「(半年間続くなんて聞いてないぞ…なんて厳正なオーディションなんだ…。
―いや、たまたま時流に乗った、実力の無い一発屋ラッパーを誤採用しないため、か…むしろキチンとしてるな)」
湿布は、実際には呪符であり、骨や筋肉に作用するものではなく、バトルで乱れた魔素を安定させるためのものだ。
表面に呪文が特殊な文字で書き込まれているが、ケイジはギプスに応援メッセージを書くようなものかと思っている。
そもそも筆記用のルーン文字はケイジには読めなかった。
一戦しただけだが(それもたった2ターンの短期戦だった)、気分的にはそれなりに頑張った感があって、疲れていた。
「ありがとう、ライム。肩が軽くなった気がする。さっき食べたばっかりだけど今日は早めに寝るよ」
次の日は対戦なし。
試験序盤は取り組みが多く、ケイジは2日間空き日となっていた。
「ええ、―」
ライムは目を細める。
「――ゆっくり休んでくださいね」
1分と経たずに、ケイジの意識はベッドで途切れた。
◇
「ここね、あいつの拠点の宿ってのは…」
日付が変わった頃、ケイジたちの宿の屋根上に二つの影があった。
「待ってなさいよ、ライムライト・カッサネール…あっ、じゃなくて、K.G…!お前のイカサマを丸裸にしてあげるわ!!」
「お嬢、声が大きいですよ」
同行しているのは、フロウ直属のお世話係の中でも諜報を専門とする部隊長、アラミス・ホネオレール。
男の名前だが、女子のお世話係とあって若い女性だ。
「わざわざお嬢が来なくても、我々隠密部に任せておいていただければ―」
「ダメよ!この不正は…この屈辱は、私自身の手でカタを付けるのっ!」
「襲撃するわけじゃないんですから、本人がいない日中に家捜しをした方が、何かしら不正の証拠などが見つかるのでは…」
敵対者を夜襲することもこの部隊の任務だが、フロウ本人が同行することはほとんど無かった。
「ふふっ、明日がK.Gの休息日なのはあなたたちの調べどおり…
あのウシ女とK.Gが本当に男女の仲なら、そういう日の前夜に性行為に及ぶのは明白よ…!」
「えっ…それが見たいんですか…?」
「みっ、見たくないわよ!バッカじゃない!? バッカじゃない!? 汚らわしい…!」
説得力は無かった。
「逆にそれが無ければ、あの二人はそういう仲じゃないってこと…もっと不自然で怪しい関係なのよ!
どうせああいう箱入りお嬢様に限って、ちょっと行動を共にしただけの男を彼氏みたいに周囲に匂わせるのよ…ああブスっ…!心の底からブスの所業だわッ…!!」
「…。真意を見失いそうですが、男持ちの女子をやっかんでいるんですか…?
まあ、大金星の祝杯の雰囲気で男女が部屋に二人なら、別に恋人じゃなくても行為に及びますけどね」
「しゅっ…祝杯じゃないし!あいつら勝ってないし!
なに?詐欺が成功してめでたいとでも思ってるのかしら?奴らの頭の中のがよっぽどめでたいわアホがッ…!」
「声が大きいですよ!我々は今、忍んでいるんですから…」
「行為に及んでいたら大貴族の令嬢の完璧なスキャンダル、及んでいなければ、男もいないくせにいますよ~って匂わせて彼女ヅラするブス、どっちにしてもあいつの詰みなのよ!」
「お嬢…目的って言うかターゲットが変わってますね…」
月明かりが翳ったところで、ケイジたちの部屋の窓の外まで接近する。
とっくに明かりは消えていたが、カーテンは朝日が入るように半分開いていた。
「どれどれ…チラリ」
すぐ目の前のベッドで、全裸のライムが、寝ているケイジに馬乗りになっていた。
「~~~~ッッッッッ!!!!!!!!」
一瞬、その場で完全に固まる。
すぐにアラミスが首を引っ張って、視覚に身を隠させる。
あまりにベッドが目の前すぎて、暗くても直視すれば相手にもバレかねない。
「…まっ、まだわからないわ…マ…ママ、マッサージしてるのかもしれないし…」
「仰向けで…? それはマル確で男女の仲ですね」
「く…くく…首を絞めようとしてたのかもしれないし…」
「それなら想像より遥かにヤバい関係ですね…」
暗くて肝心なところが見えない。
肝心な必要があるかと言えば無かったが、最後の希望を捨てないのがフロウをこれまで成功させてきた芯でもある。
雲間からの月明かりは薄く部屋を照らし、心なしか、昼間見たライムの明るい金髪も澄んだ碧眼も、赤く染まって見えた。
「もうっ暗いわね…アラミス、透像石水晶を出しなさい!」
「それをやるともう完全に変態覗き魔ですね…」
「ちがっ…バッ…、なに変なこと考えてんの!? そういうこと考える方が変態なんだからッ!」
付き人はやむなく腰の袋から水晶を取り出す。
記録映像を映し出す投影石水晶とは異なり、眼前の光景を立体映像のように手元で再現する、ほとんど覗き見専用のアイテムだ。
「水晶よ…真実を映し出しなさい…ッ!」
全裸のライムライトが、仰向けのK.Gに跨って、首を絞めながら身体を上下させていた。
「~~~~~ッッッッ…!!!!!!!」
「これは…マル確ですね…お嬢…。やっぱり外出中を狙いなおしましょう。
…? お嬢…!?」
フロウは瞬きもせず映し出された像を凝視しながら、内股でモゾモゾしている。
瞳孔が開ききり、紅潮しきった頬、やや呼吸も荒い。
「ちょっとお嬢、お股を手でこするのをおやめなさい…!」
「そっ…そんなことしてな…ああっあっ…!!」
フロウが両手で股間を押さえながら、前かがみでしゃがみこんだ瞬間―
下半身が猛烈な火炎で包まれた。
「ぎゃあああぁぁぁぁーーーーっち!あっち!!あっちああああぁぁっぁぁぁーーー!?」
「お嬢ッ…!?
まさかこれは…“火精崩傾”…!?
…くっ…退却します!お嬢、失礼…ッ!」
どこから出したのか、アラミスはバケツいっぱいの水をフロウの頭から思い切りぶっ掛ける。
「!?!?!?…!?」
フロウの股間の火はひとまず消える。
全く状況を把握できない主の意識を他所に、有能な付き人は華奢な主の身体を担ぎ上げ、脱兎のごとく飛び上がった。
そのまま闇にまぎれて、家屋の屋根伝いに音も立てずに走り抜ける。
下半身は衣装が焼けて、付き人の肩に担がれたフロウは尻丸出しだったが、そんなことを気にするレベルではなくほぼ放心していた。
「なんてことだ…まさかあんな男を相手にコレが発現してしまうなど…
クッ… お嬢…この先は地獄かもしれませんよ…」
雲に遮られた薄い月明かりが、担ぎ上げられたフロウの尻を照らしていた。
◇◇◇
(第26話に続く)
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