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4章 MUSICA
29. 銀髪銀眼のGODDESS《女神》、辛辣審判の即決
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◇◇◇
29. 銀髪銀眼のGODDESS《女神》、辛辣審判の即決
「――生まれ変われたら、何になりたい?」
ケイジが転生する時に聞いた、天からの声。
その声は、ケイジがバトルに挑むときも思い出すことが多かった
自分が未知の敵に立ち向かえるのは、この時に誓った思いが全てだった。
ケイジは、別の世界からの転生者。
それは細かな記憶が引き継がれていないとは言え、ケイジ自身にも感覚があった。
「その転生者が新天地で活躍できるよう見守るのが、担当の女神、つまりあぁしの仕事なんだぜぇ、ええい?」
「俺が心の中で聞いたことある声とあんたの声、全然違うんだけど…?」
「あ、あれは…業務用の録音音声というか、営業用の声だから…」
賭場での換金問題もなんとか事なきを得て(実際には賭場出口で4人に絡まれ、全員をライムが物理攻撃で叩きのめした)、2人と怪しげな自称女神は人通りのまばらなカフェテラスへ来ていた。
昼時にも関わらず、路地を二つ入った立地のせいで客入りは微妙ながら、自家製パンの味はそれなりの店だ。
「あぁしは元々音楽を司る神様だからよぉ、音楽関連の転生者を担当してんのさ」
部外者であるはずのライムが同席していることを気にも留めず、自称女神はへらへらと説明する。
「兄ちゃん、いやケイジ。お前さんを手続きしたときはやたら忙しく立て込んでてよぉ、ちょっと心配だったから重点的に様子を見に来てたんだよぉ」
転生者の監督役であり、導きを与える。
不幸な死を遂げた転生者に、幸福な来世をもたらす。それが「女神」。
――思い返せば、迷ったときや大事な分岐点に立たされた時にこの酔っ払いは現れた―。
「―とかいうことは無かったなぁ…」
「予選会場でお会いしたときは、何の啓示もなかったように思いますが…」
「女神の啓示ってなぁ占い師の占いみたいな直接的なもんじゃなくてさぁ、そもそもヒトの身を借りてこの世に下りてきてる時にゃあ、あんまり目立ってえこ贔屓できねえのよぉ」
「はえーすっごい」
「そうですね」
それらしいことを言っているようで、捉え所の全く無い話に、二人の反応も浅くなる。
ランチタイムであり、酒場ではなくカフェなので、この店では出していないはずの酒を自称女神はどこかから取り出し、二人の微妙な視線を尻目にグビリとやる。
――当然、というか、言うまでもなく。
ここまでの話は嘘である。
嘘、とは言い過ぎかもしれないが、少なくとも正確ではない。
意図的に都合の悪い事情を避けて話していた。
そのことは洞察に長けたライムだけではなく、この世界の常識に疎いケイジにも伝わっていた。
◇
彼女が女神であることは真実だ。
不幸な死を遂げた人間を、プラマイ調整するかのように次の世界では幸せになるように転生させる。
本人の志望や適正に合わせて世界を選び、多くの場合、特殊能力や高い技能を授けたりもする。
それによって転生者の魂が充実し、結果、世界を構成するエネルギーとなる。
調整の上手い女神は多くの世界を形成し担当する。
それはすなわち女神としての実力・キャリアを示すもので、神格のレベルに関わっている。
ケイジを担当する女神・ムジカは、その最底辺に位置していた。
女神界のシステムは、多くの人間の想像するような優雅なものではなく、現世の役所の運営に近い。
それぞれが神殿と言う名の官舎に住み、福音という名の庶務手続きを日々こなす。
「ムジカー、珍しくアンタのとこに転生依頼書回ってたから持ってきてあげたわよ」
「置いといて~今手が離せないから」
同僚で同期の女神がわざわざ部屋に来訪してくれたが、この日ムジカは布団から出なかった。
「ムジカー、手続き書類出しに行くけど、アンタのもあったら持ってくよ」
「ねえよ~、ヒック」
「こないだアタシが持ってきてあげたやつはもう出したの?」
「出した出した~」
同僚で同期の女神がわざわざ部屋を掃除してくれたが、この日ムジカはテレビのリモコンと酒瓶と便座とパンツ以外に手を触れることはなかった。
「コラ、ムジカ!アンタまた定例会勝手に休んで!」
「だってぇ今週は報告するようなこと無かったし~ ヒック」
「今度転生者の救済に失敗したら、アンタ降格処分なんでしょ?しっかりなさいよ」
「いやいや~、あぁしはヒラの最下級女神なんだからこれより落ちようが無いってぇ、ええい?」
「だから、神格剥奪かもしれないんでしょう…?」
「はーっはっはぁー、あっはっは、そんなわけ…そんなわけ… そんなことあんの…?」
「100年に一件くらいはあるそうよ…」
同僚で同期の女神がわざわざ部屋で3日分のご飯を作っていってくれたが、この日ムジカはゲーム機の取り出し口で詰まったソフト(『女神転生』)を取り出すのに必死だった。
「アンタ、やっぱり先週の依頼書、出してなかったでしょ、今すぐ手続きしなさいよ」
「ええ~?そんなん無いってばよぉー…、アレ、あ、これか…?」
同僚で同期の女神が修理したゲーム機を持ってきてくれたこの日、ムジカの部屋は電気が止められていた。
(正確には電気ではないが。)
「ええーと、なになに…落雷で死んだ―“後藤啓治”…かぁ~ヒック
知らんけど、承認印承認印…っとぉ、じゃあこれぇー、うちの課持ってくと課長がめんどいからお前のと同じとこに出しといて、ええい?」
「アタシの担当の課って、魔法系の世界だけどいいの?アンタの所に来たんだから音楽関係なんじゃ…」
「なんか酒で滲んで周り消えてっけど、志望職種んとこはM.C(マジックキャスター)って書いてあるし~。
まぁ音楽が無い世界はねえだろぉ?一流の音楽家は“音の魔術師”って呼ばれるし、一緒だよ一緒ぉ」
ムジカからグシャグシャの紙を受け取った同僚女神は、本人に代わって手続き箇所に不備が無いか目を通す。
「えええ…?ねえこれ、なんの特殊能力も授けなくていいの?申し送りの記憶設定も曖昧だし…」
「ああー、今あぁしが渡せる能力は~“ダジャレをすぐ思いつく”とぉ、“どんなに悪口言われても良い意味に解釈できる”しかねえわ…」
「アンタほんとに音楽の神様なの…!?」
「まあ、前世での不幸が反転して能力になったりするし、不幸な死だったんならいいことあるだろ。
大体、音楽をやりたい奴ってのはなあ、自分の力以外で成功できても満足できねえもんなんだよぉ
そうじゃないヤツぁ音楽家じゃねえぜ! ええいック」
「まあ…担当者のアンタがいいんならいいけど…」
こうして、実にいい加減に手続きは為され、ケイジは半端に前世の記憶を持ったまま、一番音楽を熱望していた10代後半の学生時代の姿でこの世界に送られた。
当然、ムジカは次の定例会で処置の妥当性や今後の展開・対応を説明させられるが、説明できるような事項が何も無く、上司から死ぬほど叱られた。(女神は死なないが。)
それで仕方なく、肉体のある存在としてその世界に降り立ち、ケイジを見守ることにした。
本人が目指した“音楽の世界”とは大分違うところに送ってしまったため、このままでは幸せになれない可能性が高く、なんとかこの世界の枠内で魔法師を志望する路線に軌道修正させよう、という彼女の足掻きだった。
とは言え、自分がシステムを担当している世界ではないため、対象者の幸運度や能力値を変えることなどできず、あくまでアドバイス程度だ。
そしてアドバイスと言っても、門外漢であり堕落しきった女神などにできるアドバイスもそう無い。
ムジカとしてはかなり絶望的な状況だった。
◇
「まぁでも、ちゃんと宮廷試験を勝ち抜くつもりみたいでよかったよかった」
実際、ケイジの目的は意図に反しながらも女神と一致し、その上ちゃんと力を発揮している。
ムジカの考えうる全想定中、最高の展開だった。
ケイジはお代わりした紅茶を飲み干す。
「…オーディションに勝ち抜けば…M.C(マイクコントローラー)になれるんだろ?」
「そう、M.C(マジックキャスター)への最短ルートだぜぇ」
ケイジの意志に一切の揺らぎは無い。
それを見てムジカは持ち込んだ酒をぐびりとあおり、大人の余裕を装って内心で胸を撫で下ろす。
「貴方が、ある程度ケイジさんの境遇を知っていて、それなりに現状と合致することを仰っているということはわかりました。…ですが――」
「お前さんのこともわかってるぜぇ、ライムライトお嬢様、ええい?」
「それはその気になればいくらでも調べのつくことです。それより、あなたがなぜ今このタイミングで現れ、正体を私にまで告げるのでしょうか…?」
ライムは警戒を強めていた。
女神を自称する酔っ払いを信用しろという方が無理だ。
自分が出会う以前のケイジを知っていれば、それっぽい話をでっち上げることもできるだろう。
記憶を操作する術を使えば、これまでの状況自体を仕組むことさえ可能だ。
おまけに最近、この領地でも神を名乗る新興宗教のような詐欺が横行していた。
この自称女神も、ケイジの力と賭博による有益性に気付いて近づいてきた可能性は高い。
ケイジがこの国の文化や仕組みに疎いのはわかっているので、この女と二人きりにするわけにはいかない、とライムは気を引き締める。
「まあ落ち着いてよ、ライム。
…なあ、アンタが女神だかってのは、いまいちよくわからないけど―」
ケイジはケイジで、自称女神の言を全て信じているわけではなかった。
しかし、意外と威勢よくズイと身を乗り出す。
「本当に“音楽の”女神かどうかは確かめる手段がある。」
「ほほう、どうやってだい、ええい?」
ケイジの挑戦的な微笑みに、自称女神も不敵な笑いを浮かべる。
「俺と、MCバトルしてくれ!」
立ち上がるケイジの好奇心全開の視線は、遊び半分でもふざけているのでも、増して相手を否定しようとしているのでもなかった。
自称女神もゆっくり立ち上がる。
◇◇◇
(第30話に続く)
29. 銀髪銀眼のGODDESS《女神》、辛辣審判の即決
「――生まれ変われたら、何になりたい?」
ケイジが転生する時に聞いた、天からの声。
その声は、ケイジがバトルに挑むときも思い出すことが多かった
自分が未知の敵に立ち向かえるのは、この時に誓った思いが全てだった。
ケイジは、別の世界からの転生者。
それは細かな記憶が引き継がれていないとは言え、ケイジ自身にも感覚があった。
「その転生者が新天地で活躍できるよう見守るのが、担当の女神、つまりあぁしの仕事なんだぜぇ、ええい?」
「俺が心の中で聞いたことある声とあんたの声、全然違うんだけど…?」
「あ、あれは…業務用の録音音声というか、営業用の声だから…」
賭場での換金問題もなんとか事なきを得て(実際には賭場出口で4人に絡まれ、全員をライムが物理攻撃で叩きのめした)、2人と怪しげな自称女神は人通りのまばらなカフェテラスへ来ていた。
昼時にも関わらず、路地を二つ入った立地のせいで客入りは微妙ながら、自家製パンの味はそれなりの店だ。
「あぁしは元々音楽を司る神様だからよぉ、音楽関連の転生者を担当してんのさ」
部外者であるはずのライムが同席していることを気にも留めず、自称女神はへらへらと説明する。
「兄ちゃん、いやケイジ。お前さんを手続きしたときはやたら忙しく立て込んでてよぉ、ちょっと心配だったから重点的に様子を見に来てたんだよぉ」
転生者の監督役であり、導きを与える。
不幸な死を遂げた転生者に、幸福な来世をもたらす。それが「女神」。
――思い返せば、迷ったときや大事な分岐点に立たされた時にこの酔っ払いは現れた―。
「―とかいうことは無かったなぁ…」
「予選会場でお会いしたときは、何の啓示もなかったように思いますが…」
「女神の啓示ってなぁ占い師の占いみたいな直接的なもんじゃなくてさぁ、そもそもヒトの身を借りてこの世に下りてきてる時にゃあ、あんまり目立ってえこ贔屓できねえのよぉ」
「はえーすっごい」
「そうですね」
それらしいことを言っているようで、捉え所の全く無い話に、二人の反応も浅くなる。
ランチタイムであり、酒場ではなくカフェなので、この店では出していないはずの酒を自称女神はどこかから取り出し、二人の微妙な視線を尻目にグビリとやる。
――当然、というか、言うまでもなく。
ここまでの話は嘘である。
嘘、とは言い過ぎかもしれないが、少なくとも正確ではない。
意図的に都合の悪い事情を避けて話していた。
そのことは洞察に長けたライムだけではなく、この世界の常識に疎いケイジにも伝わっていた。
◇
彼女が女神であることは真実だ。
不幸な死を遂げた人間を、プラマイ調整するかのように次の世界では幸せになるように転生させる。
本人の志望や適正に合わせて世界を選び、多くの場合、特殊能力や高い技能を授けたりもする。
それによって転生者の魂が充実し、結果、世界を構成するエネルギーとなる。
調整の上手い女神は多くの世界を形成し担当する。
それはすなわち女神としての実力・キャリアを示すもので、神格のレベルに関わっている。
ケイジを担当する女神・ムジカは、その最底辺に位置していた。
女神界のシステムは、多くの人間の想像するような優雅なものではなく、現世の役所の運営に近い。
それぞれが神殿と言う名の官舎に住み、福音という名の庶務手続きを日々こなす。
「ムジカー、珍しくアンタのとこに転生依頼書回ってたから持ってきてあげたわよ」
「置いといて~今手が離せないから」
同僚で同期の女神がわざわざ部屋に来訪してくれたが、この日ムジカは布団から出なかった。
「ムジカー、手続き書類出しに行くけど、アンタのもあったら持ってくよ」
「ねえよ~、ヒック」
「こないだアタシが持ってきてあげたやつはもう出したの?」
「出した出した~」
同僚で同期の女神がわざわざ部屋を掃除してくれたが、この日ムジカはテレビのリモコンと酒瓶と便座とパンツ以外に手を触れることはなかった。
「コラ、ムジカ!アンタまた定例会勝手に休んで!」
「だってぇ今週は報告するようなこと無かったし~ ヒック」
「今度転生者の救済に失敗したら、アンタ降格処分なんでしょ?しっかりなさいよ」
「いやいや~、あぁしはヒラの最下級女神なんだからこれより落ちようが無いってぇ、ええい?」
「だから、神格剥奪かもしれないんでしょう…?」
「はーっはっはぁー、あっはっは、そんなわけ…そんなわけ… そんなことあんの…?」
「100年に一件くらいはあるそうよ…」
同僚で同期の女神がわざわざ部屋で3日分のご飯を作っていってくれたが、この日ムジカはゲーム機の取り出し口で詰まったソフト(『女神転生』)を取り出すのに必死だった。
「アンタ、やっぱり先週の依頼書、出してなかったでしょ、今すぐ手続きしなさいよ」
「ええ~?そんなん無いってばよぉー…、アレ、あ、これか…?」
同僚で同期の女神が修理したゲーム機を持ってきてくれたこの日、ムジカの部屋は電気が止められていた。
(正確には電気ではないが。)
「ええーと、なになに…落雷で死んだ―“後藤啓治”…かぁ~ヒック
知らんけど、承認印承認印…っとぉ、じゃあこれぇー、うちの課持ってくと課長がめんどいからお前のと同じとこに出しといて、ええい?」
「アタシの担当の課って、魔法系の世界だけどいいの?アンタの所に来たんだから音楽関係なんじゃ…」
「なんか酒で滲んで周り消えてっけど、志望職種んとこはM.C(マジックキャスター)って書いてあるし~。
まぁ音楽が無い世界はねえだろぉ?一流の音楽家は“音の魔術師”って呼ばれるし、一緒だよ一緒ぉ」
ムジカからグシャグシャの紙を受け取った同僚女神は、本人に代わって手続き箇所に不備が無いか目を通す。
「えええ…?ねえこれ、なんの特殊能力も授けなくていいの?申し送りの記憶設定も曖昧だし…」
「ああー、今あぁしが渡せる能力は~“ダジャレをすぐ思いつく”とぉ、“どんなに悪口言われても良い意味に解釈できる”しかねえわ…」
「アンタほんとに音楽の神様なの…!?」
「まあ、前世での不幸が反転して能力になったりするし、不幸な死だったんならいいことあるだろ。
大体、音楽をやりたい奴ってのはなあ、自分の力以外で成功できても満足できねえもんなんだよぉ
そうじゃないヤツぁ音楽家じゃねえぜ! ええいック」
「まあ…担当者のアンタがいいんならいいけど…」
こうして、実にいい加減に手続きは為され、ケイジは半端に前世の記憶を持ったまま、一番音楽を熱望していた10代後半の学生時代の姿でこの世界に送られた。
当然、ムジカは次の定例会で処置の妥当性や今後の展開・対応を説明させられるが、説明できるような事項が何も無く、上司から死ぬほど叱られた。(女神は死なないが。)
それで仕方なく、肉体のある存在としてその世界に降り立ち、ケイジを見守ることにした。
本人が目指した“音楽の世界”とは大分違うところに送ってしまったため、このままでは幸せになれない可能性が高く、なんとかこの世界の枠内で魔法師を志望する路線に軌道修正させよう、という彼女の足掻きだった。
とは言え、自分がシステムを担当している世界ではないため、対象者の幸運度や能力値を変えることなどできず、あくまでアドバイス程度だ。
そしてアドバイスと言っても、門外漢であり堕落しきった女神などにできるアドバイスもそう無い。
ムジカとしてはかなり絶望的な状況だった。
◇
「まぁでも、ちゃんと宮廷試験を勝ち抜くつもりみたいでよかったよかった」
実際、ケイジの目的は意図に反しながらも女神と一致し、その上ちゃんと力を発揮している。
ムジカの考えうる全想定中、最高の展開だった。
ケイジはお代わりした紅茶を飲み干す。
「…オーディションに勝ち抜けば…M.C(マイクコントローラー)になれるんだろ?」
「そう、M.C(マジックキャスター)への最短ルートだぜぇ」
ケイジの意志に一切の揺らぎは無い。
それを見てムジカは持ち込んだ酒をぐびりとあおり、大人の余裕を装って内心で胸を撫で下ろす。
「貴方が、ある程度ケイジさんの境遇を知っていて、それなりに現状と合致することを仰っているということはわかりました。…ですが――」
「お前さんのこともわかってるぜぇ、ライムライトお嬢様、ええい?」
「それはその気になればいくらでも調べのつくことです。それより、あなたがなぜ今このタイミングで現れ、正体を私にまで告げるのでしょうか…?」
ライムは警戒を強めていた。
女神を自称する酔っ払いを信用しろという方が無理だ。
自分が出会う以前のケイジを知っていれば、それっぽい話をでっち上げることもできるだろう。
記憶を操作する術を使えば、これまでの状況自体を仕組むことさえ可能だ。
おまけに最近、この領地でも神を名乗る新興宗教のような詐欺が横行していた。
この自称女神も、ケイジの力と賭博による有益性に気付いて近づいてきた可能性は高い。
ケイジがこの国の文化や仕組みに疎いのはわかっているので、この女と二人きりにするわけにはいかない、とライムは気を引き締める。
「まあ落ち着いてよ、ライム。
…なあ、アンタが女神だかってのは、いまいちよくわからないけど―」
ケイジはケイジで、自称女神の言を全て信じているわけではなかった。
しかし、意外と威勢よくズイと身を乗り出す。
「本当に“音楽の”女神かどうかは確かめる手段がある。」
「ほほう、どうやってだい、ええい?」
ケイジの挑戦的な微笑みに、自称女神も不敵な笑いを浮かべる。
「俺と、MCバトルしてくれ!」
立ち上がるケイジの好奇心全開の視線は、遊び半分でもふざけているのでも、増して相手を否定しようとしているのでもなかった。
自称女神もゆっくり立ち上がる。
◇◇◇
(第30話に続く)
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