猫被りも程々に。

ぬい

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July

02

「今日泊まってく?」
「…いいんですか?」
「うん。もう遅いし、帰るの面倒臭いでしょ」

勉強のしすぎかぼやける視界に目を擦ると頭がなぜかフワフワとした。文字の見過ぎだろうか。同じ体勢でいたせいで身体もかなり痛い。
そんな俺を会長はじっと見つめる。

「…なんですか?」
「ちょっとおでこ貸して」

そう言って会長の手が額に触れた。
ひんやりとした手のひらが気持ちいい。心が冷たい人間って本当に手も冷たいのか。

「やっぱり熱い」
「…マジですか」
「マジ。これで熱計って」

救急箱から取り出してきた体温計を渡されて、熱を測ってみる。
不思議なもので熱があると言われたらだんだん身体がしんどくなってきた。

測り終えた体温計を見ると38度と表示されており、会長は分かりやすく溜息を吐く。いや、本当に申し訳ないです。

「夏風邪は馬鹿がひくって本当だったんだね」
「言い返す言葉もございません…」

市販の薬を渡されて水と一緒に口の中に流し込めば「それ飲んだら大人しく寝ときなよ」と寝室へと移動させられる。

「…ベッド、いいんですか?」
「俺も病人にソファーで寝ろって言うほど冷たい人間じゃないから」

無理矢理寝かされたベッドは俺の部屋に備え付けてあるベッドよりも遥かに寝心地良い。こんな所までVIP待遇なのか。
冷えピタは流石になかったらしく、額の上に冷たいタオルが乗せられ、布団を首までかけるとほのかに会長の匂いがした。

「…会長の匂いがしますね、布団」
「ソファーの方がいい?」
「いえ、寝心地良いのでこっちがいいです、けど…」

他人の布団に慣れず、違和感はあったものの、疲れていたのか意識が遠くなるのにそう時間はかからない。

「…なんか、シャーペンで叩かれる夢見そう…」
「…ほんとに叩いてあげよっか」

その言葉に反論する気はあったのに反論する元気がなく瞼が落ちる。
そして次、目を覚ましたのは額にひんやりとしたものが当てられた時だった。

「…おはよ」
「お、はようございま…す…って…あ、あーーーー!!!!今何時ですか!?」
「12時」

瞼を開けると額には冷えピタと会長の制服姿。
それもそのはず、昨日は日曜日で今日は月曜日だ。
会長の答えを聞くところによると時間はお昼の12時。普通の人間は学校に行っている時間である。

「え、あ…会長、学校は…?」
「昼休み」

なるほど。この冷えピタはどうやら昼休みに会長が買ってきたものでわざわざ俺の面倒を見に寮に帰ってきてくれたらしい。
なんだかんだで前から思っていたが会長は優しい時は優しいから正直調子が狂う。

「欠席することは宮前理久に連絡しといたから」
「…え、どうやって…」

言葉を全て言い切る前に俺の携帯を指さされたのでトーク画面を確認してみる。
1番上に理久の名前があり、タップしてみると[初めまして、湊の彼女です。突然ごめんなさい。湊熱があるみたなのでお休みする事を先生に伝えておいてくれませんか]と丁寧口調で連絡した履歴が残っていた。

それに対して理久も[了解!彼女さんありがと!]とシンプルな返信をしている。少しは疑問とか違和感を持ってほしい。

「彼女ってなんですか…」
「思いつかなかったから適当」

まあ確かに会長本人が理久や教師に伝える訳にもいかないのでこれが最善策だとは思うが、今日帰った後の理久の反応が怖い。
質問責めにするようなタイプではないし、あんまりプライベートなことは聞いてこないが今回は流石に何かしら聞いてくるだろう。

「てか、よくパスワード分かりましたね」
「寝てる間に指借りた」
「ああ、なるほど」

指紋認証で解除したのか。
会長程のレベルになればパスワードさえも解読できるのかと思って一瞬ビックリした。

「ん、お粥作ったから食べて」
「すいません…ありがとうございます」

わざわざ運んでくれたお粥を口に運ぶと優しい味が口に広がる。
空っぽの胃袋のおかげかすぐにお粥を食べ終わり、会長に渡された薬を喉に流し込んだ。

再び体温計で熱を測れば37度の文字。昨日よりはだいぶ下がっている。

「熱もだいぶ下がったみたいだし自分の部屋帰る?夕方だと皆帰ってきて大変でしょ」
「はい。ほんとに色々ありがとうございました」
「俺に看病させた借りは重いから」
「重々承知しております」

身支度を整えると会長も一緒に部屋を後にし、廊下へ出ると寮内はいつもと違ってかなり静かだ。

「じゃ、明後日のテスト頑張って」
「…嫌味ですか」
「まさか。病人に嫌味なんて言わないよ」

別れ際のエレベーター。4階で降りる俺は会長に嫌味と共にに見送られながら自分の部屋へと戻る。

そして即スウェットに着替え、会長から貰った冷えピタを額に貼り付けると明後日のテストに控えてベッドに潜り込むのであった。

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