猫被りも程々に。

ぬい

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July

02

「誰かと思った」
「…ちゃんと生きてたんですね」

カードキーは持ってるが特に呼ばれた訳では無いので、一応チャイム鳴らしてみると1分もしないうちにドアが開いた。

「会うの一週間ぶりだっけ?」
「そうですね。お久しぶりです」

ここ数ヶ月ほぼ毎日顔を合わせていたのでたった1週間でかなり久々な気がする。どこか生活感のない部屋は当たり前だが特に変わった様子もなく、涼しい冷気がひんやりと頬に伝わった。

「さっき要先輩のお見舞い行ってきました」
「へえ、元気そうだった?」
「はい。二学期からは復帰できそうって」
「それなら良かった」

会長は興味があるのかないのかよく分からない口調でパソコンを見つめていた。夏休みにも関わらず生徒会長様は忙しいらしい。
 
明日から8月に入るため、ほとんどの人間が実家に帰る。

確かにここに来たのは俺の気まぐれでもあったが、他のみんなと同じ様に会長も実家に帰ると思っていたからだ。夏休み中一回くらいは様子を確認しておくかと思ったのだがその本人はどうも荷造りをしている様子がない。

「会長、もしかして実家帰らないんですか?」
「うん。帰ると色々面倒だし」
「へー。じゃあ、今年は寮に残るの久我兄弟と会長だけなんですね」

お金持ちは実家に帰ってこいとか親に言われないのだろうか。
一般市民の俺はお金持ちの常識が分からないので帰らないことに関して深く突っ込むことはせず、なんとなく耳にした情報を呟く。確か久我兄弟は親が海外に行くから残るとかなんとか言ってたな。

するとなんとなく呟いた言葉に反応するようにずっとパソコンを見つめていた会長が急に立ち上がった。
吃驚して黙ってその様子を眺めていると寝室の方からトランクと適当な服を持ってきたようでリビングで丁寧に詰め始める。

「…何やってるんですか」
「帰る支度」
「今帰らないって言ってませんでした?」
「そのつもりだったんだけど、どうしようかな」

ああ、なるほど。
会長はどうしても実家に帰りたくないがどうしても久我兄弟と一緒に寮に残りたくないらしい。  

珍しく葛藤したように眉を顰めて考えた面持ちは正直その姿はめちゃくちゃ面白い。
普段の恨みをこめて気分良く会長の悩む姿を眺めていると急にこちらに視線を投げ掛けて訊ねてきた。

「橘の実家って何人暮らし?」
「…うちは母と父と姪の3人ですけど…」

ここでこの質問は嫌な予感がする。
今の話の流れから考えて絶対良くないことを考えているだろ、この人。

「…まさか泊めてもらおうとか思ってませんよね?」
「…駄目?」
「絶っっ対やだ!」  

駄目とかじゃなくて単純に嫌。
理久でさえ来たことがないのになんで会長が夏休みに俺の実家に来るんだよ。しかも相手はめちゃくちゃ金持ちだし。一般家庭の家に招くべき相手じゃないのは明白だ。

「大体めちゃくちゃ田舎ですよ」
「自給自足生活とか?」
「流石にそこまで田舎ではないです」
「じゃあ大丈夫」

何が大丈夫だ。俺は大丈夫じゃねーよ。
絶対無理だと言い切ると、無表情で会長が俺を見つめた。顔がいいだけあって威圧感がすごくて少し怯んでしまう。
きっと今から断れない理由を色々つけてくるに違いない。

「勉強あれだけ教えたのに」
「…その件は生徒会の仕事手伝いでチャラの筈でしょう」

冷静に。冷静に。
俺は間違ったことは言ってない。流石にそれで泊める義理はないだろう。

「白木の事件の時も色々助けてあげたし、球技大会では怪我の時も手当てもしてあげたっけ」
「……」
「あ、そうそう。最近看病もしてあげたなー。テスト期間中だったからあの時は大変…」
「~っもー!分かりました!聞けばいいんでしょう!聞けば!」

ここ数ヶ月でどれだけこの人に迷惑を掛けたか並べられると流石に申し訳なさで頭痛がしてきた。

「え、本当にいいの?」とわざとらしくキラキラとした眼差しで嬉しそうしている会長に心底殺意が湧く。
この際母が断わってくれたらいいのだが、あの人のことだ。「大歓迎よ~」というに違いない。

もういっそ母に聞かずに適当に無理でしたと答えてしまおうかと考えていた所。

「電話」
「…へ?」
「まだ夕方だし、早い方がいいでしょ」

会長は全てお見通しらしく、俺は泣く泣く本人の目の前で電話せざるおえなくなった。
スマホ画面の母の文字をタップするとこういう時に限って電話に出るのが早い。

『私は大歓迎よ~。ね、お父さん!』
「……」
『お父さんも大歓迎だって!』
「…だそうですよ」

手短に事情を話せば予想通りの返し。いや父まで味方につけてくるとは予想以上。
その返事を聞いた会長が「代わって」と言うので母に代わることを伝えてから素直にスマホを渡した。

「初めまして。支倉凌と言います。息子さんにはいつもお世話になっていて…はい。…そうですね…」

電話から少し母の声が漏れているが何を話しているかまでは聞こえない。
でも母がこの愛想の良い笑顔に騙されていることは分かる。大体こんなつもりでここに来た訳じゃないのに。

軽い気持ちでこの部屋を訪ねてしまった過去の自分に嘆く。楽しみだった実家帰省が一気に嫌なイベントへと化した瞬間だった。

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