なんでも当たる占い屋

渡邊 悠

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なんでも当たる占い屋

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俺の名前は金田等、高校二年生だ。俺は人と話さない。言葉が話せない訳ではないが、面倒事を避けるために、あえて話さない。
 学校には通っているが、最近ではクラスでも異端児扱いになっている。まぁ、望むところなので特に気にしない。一年の頃は声をかけてくる奴もいた。俺が返事をしないでいると、変なやつと言って去ってゆく。
 誰とも関わらなければ面倒は起きない。最低限授業を受けていれば学校としても問題ない。こうして災いが降りかかるのを避けているのだ。

 五月のある日、街でなんでも当たる占い屋という看板を見かけた。どうせ変な占いで、すぐに潰れるだろう、と思っていたが二ヶ月ほどしても潰れる気配がない。
 むしろ、クラスで本当に良く当たる、と評判にすらなってきている。俺は人と話すのが嫌いだが、こういう胡散臭いのはもっと嫌いだ。
 あることを閃いた俺は、この占い屋を訪ねることにした。

 商店街の裏路地にある、貸ビルの店舗前に来た俺は占い屋の扉をノックする。扉の前で立っているだけ、というのが俺の戦略だ。ノックからすぐに、
「はーい、開いているのでどうぞ~」
 と、のんびりと間延びした女性の声が聞こえてきた。俺は戦略通り無言で立っている。しばらくして、
「面倒ならドア開けますよ~」
 という予想外の返答が返ってくる。面倒、という点において俺の戦略が読まれている?
 当てられるのは癪なので扉を開けて入る。
 室内は八畳ほどの一部屋で小さな冷蔵庫が置かれていて、型の古いエアコンが苦しそうに冷気を吐き出している。テーブルと二つの椅子があり、怪しさはむしろ無い方だ。
「あ、よかった。いたいた。はじめまして~。今、お茶出すから、ちょっと待っててね~」
 女性は奥の冷蔵庫から、やかんを取りだし、コップに麦茶を注いでいる。
 俺は、当初の戦略通り無言で、席に座る。席に着いても黙っていると、
「えーと、話しにくい依頼なのかな~?」
 早速、予想適中この占い屋は当たらない。
 と、思った次の瞬間、女性は肩をすぼめて、
「じゃ……ない、みたいね」
 ため息混じりで残念がる。
「たまにいるのよね~、なんでも当たるっていうのを否定したいためにくる人が。あなた、そういうのが狙いなら行動、口元には気をつけなさいね?」
 行動?口元?何のことだ?
「まず、あなたは最初のドアのノックからしばらく入ってこなかった。戸惑っている人ならこちらから声をかければ、反応することはある。ただ、あなたの入ったタイミングとドアノブのひねり方。声をかけてすぐ反応して、恐る恐るでもない」
 女性はさらに続ける。
「そして、こちらが言いにくい悩みかと聞いたら、口元が緩んだわ。安心というより、してやったりの口角の上がり方ね」
 確かに、自分の心情からしたらそうなっていたのかもしれない。
「とりあえず、そんなとこかしら。私は水晶玉も使わなければタロット占いもしない。洞察力や経験則で占っているのよ。あなたみたいな方がたまにくるから、納得してもらえたら、お茶代だけもらってお帰りいただいているの」
 と、女性は話をまとめる。
 よく考えれば、お茶が水道の蛇口から出てくる訳ではない。どうせお金を取られるなら、いただいておこう。すると、
「ぷっ。あなたってもしかしてかなりお金にシビアなの?」
 と女性は吹き出した。
「あ、ごめんなさいね。お茶代いただく、って言った瞬間に飲み始めるものだから」
 すごい洞察力だ。
 確かに俺の家は貧しく、あまり余計なことに金を使わないように、と耳にタコができるほど言われてきた。
 そして女性は、俺の核心的なところに触れる。
「あなた、もしかして普段から話さないの?無理に答えを聞くつもりはないけど、それってもったいないわよ?」
「勝手だろ……」
 しまった。つい、普段から気にしていることを言われて反応してしまった。
「あら、いい声してるじゃないの。なおさらもったいないわ」
 なんとも突拍子もないところをいきなり褒められた。自分の声など、気にしたこともなかったのだ。
「俺がいい声なわけない。周囲の奴もそう思っているさ。根暗で偏屈な人間だと」
 もう戦略は関係いので、言葉で返すが、女性は、
「う~ん、でも、あなた自身が認めたくないんじゃない?」
 本音のところを当ててくる。
「だって、あなた今、うつむいて寂しそうに今の言葉を発したわ。それって、本当は自分はそうはなりたくない、っていう時にすることよ?」
「俺だってやりたくてやってる訳じゃ……」
 女性は質問を変えて、
「じゃあ、さっき声がいい、って言われた時は嬉しくなかった?」
 と聞く。
 嬉しくなかったか。確かに今までそんな事を言われたことがなかったので考えもしなかったが少し嬉しかった、のか?心の奥底で小さな暖かさが湧いたような気がする。
 こんなことを言ってくれるような人を、俺は詐欺師みたいに考えていたのかと思うと、とたんに恥ずかしくなり、
「悪い。俺、あんたが変ないかさまとかして、騙して金を儲けてるんじゃないかって。だから当たるっていうことが嘘っぱちだと証明したかったんだ」
 と素直に打ち明ける。女性は怒ることはなく、優しい笑みをたたえながら、
「あなたは本当は優しい人なのね。だって自分が被害に逢ってもいないのに、それを確かめに来たんでしょ?誰かが悲しまないように」
 そうなのかもしれない。この女性が仮に誰かを騙していても俺には何も害はない。なのにここにいる。勝手な正義感、と言ってしまえばそれまでだが、誰かのためにという気持ちが微塵もなかったかとは言い切れない。たぶん、無いと言ったところで目の前の女性はそうは言わないだろう。
「あなたは、あなたの良いところをまだ知らないだけ。だからもう少し人と関わってみたらどうかしら?きっと見つけてくれる人がいるはずよ」
「そう、なのかな……」
 俺は、恐る恐る聞いてみる。
「大丈夫よ。だって私ですら見つけられたんだから」
「でも、あんたはすごい洞察力があるだろ?」
 女性が苦笑いしながら、
「あのね~、洞察力ってほとんど経験したことから想像してるだけなのよ?相手の気持ちを抜き取るとかは出来ないんだから。それに私、自慢じゃないけど学生時代は友達一人もいなかったの。だから、あなたが、たとえ今一人でもいくらでも変わって行けるわ」
 女性は自信を持って胸を張る。その言葉を聞いて俺の中の淀んだ水晶が少し輝いた気がした。
「そうか、俺でも……。悪い邪魔した、帰る。お茶代いくらだ?」
「十円よ」
 にっこりと微笑み十円玉を受け取ると、
「もう、来なくて大丈夫よね?」
 と聞く。俺は黙って頷き扉へと向かう。背を向けているはずの女性が手を振っているのがわかる。
 もう誰も、この占い屋をいたずらで訪れないことを願いつつ、家路につく。
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