少女の勝負とはかりごと

渡邊 悠

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少女の勝負とはかりごと

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 (いよいよ今日だ……)
 登校前。家の玄関で制服を整え、自分の顔をパンパンと叩き気合いを入れる。今日のためにイメージトレーニングも万全にした。沢山練習もした。何度も失敗したけれど、納得のいくレベルまで持ってこれた。大切な荷物を鞄に詰めて立ち上がり扉を開ける。
「それじゃ、いってきます」
 母にそう伝えると、
「頑張ってくるのよ! お母さん、応援してるからね!」
 親指をぐっと立てて、激励の言葉で送り出してくれる。
 登校中、私はずっとドキドキしっぱなしだった。これはたった一度のチャンス。これを逃したら二度とチャンスはない。それだけにプレッシャーが私を押し潰しそうだった。ガチガチの私に校門前で友達の朱美が声を掛けてきた。
「おっはよ~。咲は今日の勝負、準備万端?」
 私の覚悟を知って聞いてくれているのだが、
「ん~、勝算は半々ってとこかな……」
 私の不安がいまいち煮え切らない答えをしてしまう。そんな不安を察してか、
「咲は重く考えすぎなんだよ~。私なんか二連敗。勝ったったら儲けくらいに考えないと」
 さりげなくフォローしてくれる。そんな気楽じゃないんだけど、と思いながらも、
「朱美、ありかとね」
 友人の言葉にに背中を押され、学校の門をくぐるのだった。
 教室に着いてもそわそわしっばなしで、勉強に身が入らない。四限目の数学の授業中、不意に、
「じゃあ、この問題。原田さん解いてみてください。授業聞いていれば問題なく解けますよ?」
 数学の女性教師から指名される。いつもならちゃんと聞いているのに、今日は放課後のことで頭がいっぱいだった。
「えと、あの、すみません。聞いていませんでした……」
 どもりながら謝ると、
「バレンタインだから浮かれるのはわかりますけどね? 授業はちゃんと聞いていてくださいね?」
 と、釘を刺されてしまった。周りのクラスメイトはクスクスと笑っている。しょんぼりと席に着き、はぁ、とため息。そしてチャイムが鳴り、
「はい、じゃあここまで。ちゃんと予習、復習はしておくこと」
 意気消沈したまま授業は終わる。
 昼食時間になり、朱美が一緒に食べようと誘ってくれた。弁当箱からちょびちょび箸でご飯をすくいながら、
「もうダメ……。バレンタインでチョコ持ってきてるのも多分バレたし、サプライズも何も無くなっちゃった……」
 箸を咥えて半泣きの私に朱美は、
「何言ってんの~。咲が持ってきてるって言われてないし、誰に渡すかとかバレてないからまだ大丈夫!」
 励ましてくれる。
「そうかな……? 塚本君、気づいてないかな?」
 朱美に確認する。彼の名前を口にするだけで、恥ずかしさがこみ上げてくる。朱美は自信満々に、
「安心しなって。聞いた話じゃ、塚本のやつ告白してきた女子をみんな断ってるって聞くし」
 そう言って慰めてくれるが、それは私にも当てはまるのではないだろうか?
「はうぅ。駄目だったらどうしよう……」
 うじうじしている私に朱美が極秘情報をくれる。
「しょうがないわね。これ、言わないつもりだったけど。塚本のやつ、咲に気があるそうよ」
 その言葉に私の耳がピクリと反応する。食いつくように、
「本当に? ただの噂じゃなくて?」
 朱美に迫ると、
「それを今日確認するんでしょ?」
 と、かわされてしまう。そうだ。その為に今日、チョコと告白の言葉も準備してきたのだ。放課後に教室に呼び出す手筈も用意して。
「じゃあ、放課後うまくやりなさいな~」
 朱美はウインクすると弁当箱を片付けて立ち去っていった。

 放課後。
 朱美から連絡が入る。
『敵は我らの計略にはまれり。汝の武運を祈る』
 また、何か歴史物のアニメにはまってるな、と思いつつも、
(ありがとう……)
 心の中でお礼を言う。日が傾き始めた教室に塚本君が駆け込んでくる。
「おいっ、怪我人はっ!? あれ? 原田? 怪我人が出たから急いで行ってくれって頼まれたんだけど」
 私は苦笑いしながら本当のことを話す。
「あはは……、あれ嘘なの。私が塚本君に用事あったから」
「そうなのか。まあ、怪我人いなくてよかったよ。んで、用事って?」
 私はもじもじしながら、
「今日、バレンタインじゃない? それでね、チョコ作ってきたの。よかったら受け取って」
 鞄から綺麗に包装されたチョコを取り出す。塚本君は驚きつつも受け取ってくれた。手渡して、もう一つ大切なこと。
「あとね、えと。私、塚本君のことが好きです! 付き合ってくだちゃっ、~っ!」
 やってしまった! 一番大事などこで噛んでしまった。塚本君は思わず、
「ぶっ、はははっ。噛んだな~、おもいっきり」
 笑っている。だがその後真剣な表情でこちらを真っ直ぐ見て、
「俺も原田のこと、好きだ。俺からも言わせてほしい。付き合ってくれないか?」
 信じられない気持ちと、舞い上がりそうな喜びが入り交じり、心ががふわふわしている感じがする。そんな空気の中、茜色に染まる教室で話しをして、一緒に帰宅する。夢の中のような心持ちが私を包み込んでいた。
 塚本君と家の近くでわかれてから朱美に微笑みながらメッセージを送る。
『我、計略により勝利せり』
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