スノーホワイトの奇跡

渡邊 悠

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スノーホワイトの奇跡

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 今日はクリスマスイヴ。今年も寂しくクリぼっちだ。せっかくのホワイトクリスマスなのに……。無駄に惰眠を謳歌するのももったいないので、街に繰り出してみる。何か期待している訳でもリア充を呪いに行く訳でもなくて、夕食の買い出しだ、そう、買い出しなんだ。自分に言い聞かせてアパートの部屋を出た。アパートの階段を降りながら、はぁと手に息を吹き掛ける。外は降り積もった雪で純白の世界になっていた。うつむき加減でコートのポケットに手を突っ込んで地面の雪を踏みしめて行く。足元の灰色の雪のように淀んだ気持ちだ。
 近くのコンビニまで五分の道のり。途中ですれ違う人々は、皆着飾ってこれからデートに行くようだ。いけない、いけない。思考が僻み出している。気を取り直して買い物リストを思い出す。確かカップ麺と缶コーヒーとごみ袋。ははっ、色恋の欠片もありゃしない。自身に哀れみの目を向けながらコンビニに到着する。早々に買い物を済ませて店を出ようとする。いつもコンビニで見かける女性がチラッと見えたが、いつもとは違う装いだったので、こちら側ではないんだろうな。そんなことを考えながら自動ドアをくぐる。粉雪の降り続ける道へ出ると、ふとコンビニ近くのイルミネーションくらいは見ていくか、などという気にはなった。
 駅前の広場にはクリスマスシーズンにかなり大掛かりなイルミネーションが飾られる。カップルが大量に居るのでお邪魔にならないように遠巻きに眺める。すると先ほど、コンビニで見かけた女性もいた。一人でいるということはここで待ち合わせしてるのか。持っているのはプレゼントの袋かな?なんだかキョロキョロして小動物みたいで可愛いな。おっといかん。人の彼女さんに色目を使ってはいけない。そう思い一旦場所を変えようとした時、不意に目が合ってしまう。向こうは赤面して、ささっと人混みに隠れてしまった。それはそうか。他人とはいえ顔を知られている人に恋人と合うところなど見られたくないだろう。駅の広場には背を向け歩き出そうとした瞬間。
 ツンツン……。
 (気のせいか……?)
 ツンツン……。
 明らかに背中をつつかれている。振り返ると、先ほどの女性が立っていた。これは何か文句を言われてしまうのか?恐る恐る、聞いてみる。
「あの、僕に何か……?」
 女性は赤面したまま、持っていたプレゼント袋をすっと差し出す。状況がのみ込めないまま、数秒硬直。そして、一応確認。
「え、僕に?」
「~っ!」
 女性は必死に勇気を振り絞り、プレゼント袋を差し出し続けている。そっと受け取り、
「あ、ありがとう。大人になってからクリスマスにプレゼント貰ったの初めてだ。すごく嬉しい」
 素直な気持ちを伝える。女性は照れながら、
「喜んでもらえてよかった……」
 そっと呟く。しばし対面して、
「あ、そうだ。寒い中立ってて冷えたでしょ?こんなものしか今はないけど」
 まだ暖かい缶コーヒーを差し出す。自分でももう少し気の利いたことを出来ないのかと思いつつも、彼女はそれを喜んでくれたようだ。
「ありがとう……。やっぱり優しいのね」
「どうして?」
「だって、コンビニの店員さんにもすごく丁寧に応対してるから」
 自分では当然と思ってしていることが、特別に見えたようだ。こ恥ずかしくなり、
「そう、かな?」
 少し口ごもってしまう。彼女はおずおずと、
「あの、名前……教えて」
 ああ、そういえばお互いに名前すら知らないのだった。
「僕は大輝。泊大輝」
「大輝さん……。私は春野佳奈……です」
 敬語になりつつある佳奈さんに、
「あ、大輝でいいよ、佳奈さん」
 というと、
「じゃあ、私のことも佳奈って呼んで」
 そうして、二人ともまた、黙ってしまう。何か話をしなければ、そう思い、
「このプレゼント開けてもいい?」
 貰ったの袋を持ち出す。
「うん。あまり上手に出来てないけど」
 開けた中から出てきたのは手編みのマフラーだ。感激の眼差しで佳奈を見つめ、そのマフラーを巻いてみる。
「佳奈ってすごいよ。編み物上手なんだね!どう?似合ってる?」
 饒舌になって飛び上がりそうだ。佳奈は、
「うん、似合ってると思う。私のマフラーが大輝に負けてなければいいけど……」
「そんなことないよ」
 会話も弾んできた。ここはクリスマスっぽく、
「そうだ、せっかくだし、どこかお店に入ろうか?」
 提案すると、
「ううん、今夜はどこもいっぱいだろうし、このまま大輝とイルミネーション見ていたいな……」
 佳奈は僕の傍らに来た。そして肩まで伸びた髪が粉雪のようにふわっとなびき、僕に寄りかかる。ドクン。心臓の鼓動が伝わりそうな距離。今まで喧騒に聞こえていた周りの音が、無音になる。ドクン。降り積もる粉雪と、自分か佳奈のかわからない鼓動の音。一秒が何時間にも思える。ただ二人が寄り添うだけで、こんなにも世界は綺麗に見えてくるのか。先ほどまで灰色だった心の泥雪は純白のパウダースノウに変わっていた。二人でイルミネーションを眺めていると、佳奈が小さく震えている。触れたら雪のように溶けてしまいそうな佳奈を、僕は勇気を振り絞り抱き寄せた。幻想的な感覚が二人を包み込む。この奇跡のような時間が永遠に続いてほしいと初めてだ思えた瞬間だった。
 佳奈の震えが収まって互いに見つめ合う。背景の粉雪とイルミネーションが後押しして、佳奈は目を閉じた。ドクン、ドクン……。今度は早鐘のように鼓動が打つ。僕も目をつむり二人の唇が近づいてゆく。そして、そっと唇が触れると駅前の時計が十二時の鐘を鳴らした。二人で聖なる夜を祝福する。
「メリークリスマス…」
 見つめ合う二人の周りに深々と粉雪が降り続く。
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