8 / 130
第1章 父の死と王国の影:喪失の中で芽吹く決意
1-7話 洗い物と雨の日:グレッグのささやかな逃避行
しおりを挟む
この頃のグレッグは、盛んに洗い物ばかりしていた。
それが、彼にとってのストレス解消だった。
三人で酒盛りをしているのだから、食器の量はかなりのものだった。
それでも苦にならず、むしろ楽しかった。
どうせ起きているなら、どう洗えば効率的かを考えている方が、心の闇に落ちずに済んだからだ。
それでも物足りず、食器棚の中の棚まで洗った。
祖父の形見のカップが入れ歯入れになっているのを見つけたとき、グレッグは言葉にならない感情を覚えた。
それは、冷たい雨が降る夜のことだった。
朝から紅茶すら飲ませてもらえない日々に業を煮やし、グレッグは実家を飛び出した。
もう怒鳴られても怖くない。
通報されても、事情を聞いてもらえるはずだ。
警官は親の言うことを盲目的に信じたりしない。
十歳になったグレッグは、ようやくそう居直れるようになった。
どこか休める場所を探して三十分以上歩いたが、店の一つも見つからなかった。
ようやく見つけた店でジュースを買い、入口で飲んでいると、「ここは飲食する場所ではない」と追い払われた。
グレッグは、ゴミ箱を蹴飛ばさずにはいられなかった。
さらにさまよい続け、沢を見つけたとき、グレッグは砂漠の中のオアシスという陳腐な表現では言い表せないほど感激した。
あまりの嬉しさに、そこにいた人たちに喜びを伝えると、彼らは戸惑った様子だった。
母の診ている看護師と再会したのは、その頃だった。
「姥捨て山で一人が亡くなって空きが出たので、今から来てください」と言われた。
グレッグは「姥捨て山」が何か知らなかったが、父が亡くなってから初めて感じた安堵感を邪魔されたくはなかった。
「後日ではだめですか?」と尋ねると、「今日しか空きの予約が取れません」と言われた。
結局、グレッグは一口も飲んでいない紅茶と食べかけのパンを抱えて、実家に戻った。
母を診ている看護師には会ったことがあったが、「姥捨て山」の職員に会うのは初めてだった。
姥捨て山とは、貴族が経営し、王室から支援を受けている――現代で言えば老人ホームのような施設だった。
看護師は言った。
「お父さんがグレッグさんには絶対に連絡をしないようにと強く主張していたので、連絡ができなかったのです」
「絶対に」と「強く」という副詞が並んでいた。
よほど強く言われたのだろうと、グレッグは思った。
両親に手紙を書いても返事が来ない歳月が続いていたため、両親が村の介護サービスを利用していたことすら知らなかった。
最近になってようやく家に上げてもらえるようになったが、最後に訪れたときは、まだ実家に馬車があり、母は平気で乗っていた。
それは、何年か前のことだった。
つづく
それが、彼にとってのストレス解消だった。
三人で酒盛りをしているのだから、食器の量はかなりのものだった。
それでも苦にならず、むしろ楽しかった。
どうせ起きているなら、どう洗えば効率的かを考えている方が、心の闇に落ちずに済んだからだ。
それでも物足りず、食器棚の中の棚まで洗った。
祖父の形見のカップが入れ歯入れになっているのを見つけたとき、グレッグは言葉にならない感情を覚えた。
それは、冷たい雨が降る夜のことだった。
朝から紅茶すら飲ませてもらえない日々に業を煮やし、グレッグは実家を飛び出した。
もう怒鳴られても怖くない。
通報されても、事情を聞いてもらえるはずだ。
警官は親の言うことを盲目的に信じたりしない。
十歳になったグレッグは、ようやくそう居直れるようになった。
どこか休める場所を探して三十分以上歩いたが、店の一つも見つからなかった。
ようやく見つけた店でジュースを買い、入口で飲んでいると、「ここは飲食する場所ではない」と追い払われた。
グレッグは、ゴミ箱を蹴飛ばさずにはいられなかった。
さらにさまよい続け、沢を見つけたとき、グレッグは砂漠の中のオアシスという陳腐な表現では言い表せないほど感激した。
あまりの嬉しさに、そこにいた人たちに喜びを伝えると、彼らは戸惑った様子だった。
母の診ている看護師と再会したのは、その頃だった。
「姥捨て山で一人が亡くなって空きが出たので、今から来てください」と言われた。
グレッグは「姥捨て山」が何か知らなかったが、父が亡くなってから初めて感じた安堵感を邪魔されたくはなかった。
「後日ではだめですか?」と尋ねると、「今日しか空きの予約が取れません」と言われた。
結局、グレッグは一口も飲んでいない紅茶と食べかけのパンを抱えて、実家に戻った。
母を診ている看護師には会ったことがあったが、「姥捨て山」の職員に会うのは初めてだった。
姥捨て山とは、貴族が経営し、王室から支援を受けている――現代で言えば老人ホームのような施設だった。
看護師は言った。
「お父さんがグレッグさんには絶対に連絡をしないようにと強く主張していたので、連絡ができなかったのです」
「絶対に」と「強く」という副詞が並んでいた。
よほど強く言われたのだろうと、グレッグは思った。
両親に手紙を書いても返事が来ない歳月が続いていたため、両親が村の介護サービスを利用していたことすら知らなかった。
最近になってようやく家に上げてもらえるようになったが、最後に訪れたときは、まだ実家に馬車があり、母は平気で乗っていた。
それは、何年か前のことだった。
つづく
0
あなたにおすすめの小説
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
「ご褒美ください」とわんこ系義弟が離れない
橋本彩里(Ayari)
恋愛
六歳の時に伯爵家の養子として引き取られたイーサンは、年頃になっても一つ上の義理の姉のミラが大好きだとじゃれてくる。
そんななか、投資に失敗した父の借金の代わりにとミラに見合いの話が浮上し、義姉が大好きなわんこ系義弟が「ご褒美ください」と迫ってきて……。
1~2万文字の短編予定→中編に変更します。
いつもながらの溺愛執着ものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる