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第1話:揺れる午後、秘書の記憶
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この日の業務終了後、帰宅した香織はその日の仕事上の出来事をノートに記した。
秘書とは、ボスの右腕であり、影の支えである。
ボスが攻撃型なら、秘書は保守型でなければならない。
即断即決のボスに対して、冷静に先を読み、準備を整えるのが秘書の役割。
香織は、時子の教えを思い出しながら、自分の役割を再確認した。
「ボスに恥をかかせない」
「ボスが休める場所は、ボスの席だけ」
「笑顔で送り出す」
その一つひとつが、香織の中で確かな信念となっていった。
◇◆◇
明くる日の2011年3月11日、午後2時46分。
新宿の高層ビルで、香織は社長秘書見習いとしての一日を終えようとしていた。
突然、エレベーターが激しく揺れた。
「ガッタン! ガンガンガン! ガタガタガタガタ……」
縦揺れと横揺れが交互に襲い、香織は隣にいた男性とぶつかり合った。
「すみません!」と咄嗟に声を出したが、揺れは止まらず、エレベーターはまるで夜店のヨーヨーのように上下左右に揺れ続けた。
香織の脳裏には、数日前に観た「エレベーターに閉じ込められた9人」という映画がよぎった。
現実がフィクションを超えていく恐怖。
それは、東北地方太平洋沖地震――後に「東日本大震災」と呼ばれる未曾有の災害だった。
香織は23歳。米国系製薬会社の社長秘書見習いとして、先輩秘書の時子のもとで修業中だった。
時子は「秘書は時間との闘い」と口癖のように言い、香織はその言葉を胸に刻んでいた。
三流大学卒の自分が採用された理由は「容姿」だと時子に言われたこともあった。
その言葉に傷つきながらも、香織は誰よりも努力し、メモ帳を手放さず、日々の学びを記録していた。
震災の日、香織は初めて「時間が止まる」感覚を味わった。
エレベーターの中で、見知らぬ人と肩を寄せ合いながら、ただ揺れに身を任せるしかなかった。
その瞬間、彼女の中で何かが変わった。
震災は多くのものを奪った。
けれど、香織にとっては「秘書としての覚悟」を与えた日でもあった。
この日の揺れは、彼女の心にも深く刻まれた。
そしてその記憶は、秘書としての歩みの原点となった。
つづく
秘書とは、ボスの右腕であり、影の支えである。
ボスが攻撃型なら、秘書は保守型でなければならない。
即断即決のボスに対して、冷静に先を読み、準備を整えるのが秘書の役割。
香織は、時子の教えを思い出しながら、自分の役割を再確認した。
「ボスに恥をかかせない」
「ボスが休める場所は、ボスの席だけ」
「笑顔で送り出す」
その一つひとつが、香織の中で確かな信念となっていった。
◇◆◇
明くる日の2011年3月11日、午後2時46分。
新宿の高層ビルで、香織は社長秘書見習いとしての一日を終えようとしていた。
突然、エレベーターが激しく揺れた。
「ガッタン! ガンガンガン! ガタガタガタガタ……」
縦揺れと横揺れが交互に襲い、香織は隣にいた男性とぶつかり合った。
「すみません!」と咄嗟に声を出したが、揺れは止まらず、エレベーターはまるで夜店のヨーヨーのように上下左右に揺れ続けた。
香織の脳裏には、数日前に観た「エレベーターに閉じ込められた9人」という映画がよぎった。
現実がフィクションを超えていく恐怖。
それは、東北地方太平洋沖地震――後に「東日本大震災」と呼ばれる未曾有の災害だった。
香織は23歳。米国系製薬会社の社長秘書見習いとして、先輩秘書の時子のもとで修業中だった。
時子は「秘書は時間との闘い」と口癖のように言い、香織はその言葉を胸に刻んでいた。
三流大学卒の自分が採用された理由は「容姿」だと時子に言われたこともあった。
その言葉に傷つきながらも、香織は誰よりも努力し、メモ帳を手放さず、日々の学びを記録していた。
震災の日、香織は初めて「時間が止まる」感覚を味わった。
エレベーターの中で、見知らぬ人と肩を寄せ合いながら、ただ揺れに身を任せるしかなかった。
その瞬間、彼女の中で何かが変わった。
震災は多くのものを奪った。
けれど、香織にとっては「秘書としての覚悟」を与えた日でもあった。
この日の揺れは、彼女の心にも深く刻まれた。
そしてその記憶は、秘書としての歩みの原点となった。
つづく
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