尻拭い、のち、リア充

びやヤッコ

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被害者 1

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 緊急事態発生。

 放課後、悠里と2人で話すため、人が少ない裏庭に集合することとなっていた。部屋には同居人がいるため、そうするしかないからだ。

 それはいいとして、裏庭に向かっている途中、突然それを阻止する者が現れた。

 敵意むき出しの5人の生徒。

 学年はネクタイを見ればわかる。1年生は緋色、2年生は紺色、3年生はオリーブ色をしている。ライトなブラウンを基調とした制服といい、どれも無駄に質が良い。

 目の前の5人は紺色3人に緋色が2人。つまり、2年生が3人と1年生が2人だ。

 何これカツアゲ?金持ち学校で?

 俺が身構えていると、センターに立っていた前髪パッツンの男子生徒が口を開く。2年生だ。

 「本当にあのムカつく顔とそっくりだね」

 第一声からかなり物騒な気がする。

 その男子生徒の言葉に続き、他の4人も口々に棘ついた言葉を放つ。

 「弟がビッチってことは、兄も同じだよね?」

 「でもこの兄の方が地味じゃない?」

 「確かに~!でも、地味でも男の誘惑は上手いかもよ?」

 「うわぁービッチが増えたってこと?最悪」

 うーーーーん、酷い言われよう。

 5人は品定めでもするかのように、舐め回すような視線を俺に向ける。

 だがまあこれくらいの挑発、尻拭い歴10数年の俺からすれば日常茶飯事のようなものだ。

 俺はニッコリと笑みを浮かべると、一気に捲し立てる。

 「あいつと同じ顔をしてることは俺のコンプレックスなのでいじらないでいただけますでしょうか?あと、弟の下半身がだらしないことは深く存じておりますが、これもまたあいつと同じだと思われることは死ぬほど心外なので控えていただけますでしょうか?それからこの学園では男同士の恋愛が主流のようなので忘れているかもしれませんが、外には女の子という生き物がいて、俺はその女の子が好きなので、勘違いのないようお願いいたします。そもそも初対面の人に向かってその口の利き方は品がないのでやめた方が身のためですよ。さらに、双子だからといって何でもかんでも結びつけて考えるのも、単細胞だと思われてしまう可能性があるので、お気をつけください。ではまた」

 サラッと手を振り、流れに乗ってその場を離れようとする。

 5人はしばらくその場でポカンとしていたが、俺がさっさと歩いていくのに気がつくと、鬼の形相で着いてくる。

 「ちょっと待て!まだ話は終わってない!」

 「話?話らしい話なんてしてましたっけ俺たち?言葉の殴り合いをしてただけですよね?」

 止まる意志のない俺に痺れを切らしたのか、
5人は俺を取り囲む。

 この構図、少年漫画では見たことがあったが、まさか生で体験することになるとは思わなかった。

 俺は誰かさんとは違い、問題事はできるだけ起こしたくない。穏便に済ませたい。

 しょうがない、ここは俺が折れるか。

 「俺を取り囲んでまで話したいことってなんですか?」

 努めて穏やかに聞くと、俺が諦めたと思ったのか、男子生徒たちはやや安堵すると、パッツンの男子が口を開く。

 「あんたに会いたがってる方がいるんだよ。ついて来い」

 「それって誰ですか?今じゃないとダメですか?」

 「みやび様だよ。今!」

 いや、雅だれ??こっちだってこれから用があるんだよ!

 拒否感から、体が勝手に裏庭側に向かおうと少し動いたその瞬間、すぐさまパッツン以外の4人が俺を押さえつける。

 このパッツンがリーダーなんだな、と場違いにもそんなことが一瞬脳内をよぎったが、今はそれどころではない。

 「いや、あの掴まないでくれますか?ついて行くんで、連れてって下さい」

 「ふん、どうせ途中で逃げようって魂胆だろ?バレバレなんだよ。お前ら、このまま掴んでろよ」

 いやいや、そんな魂胆ないんですけども。

 しかしまともに会話ができそうな雰囲気でもないので、大人しく連行されることにした。

 まったく。悠里が絡むとろくなことがないな。そういえばこの後の約束はキャンセルになるから、あいつに連絡しないと。

 そう思い、ジャケットのポケットからスマホを取り出そうとする。

 しかし……

 両腕を掴む力が尋常じゃないんだが。

 少しでも腕を動かすと、すかさず俺を掴む手に力が込められる。

 「まるで囚人みたいだな」

 引っ張られるままに歩くが、周囲から好奇の視線を向けられ、まるで処刑場にでも向かっているような気分になる。

 「ふん、お似合いだな」

 先頭を歩くパッツンはこちらを振り向くことはないが、俺を煽るチャンスは逃したくないようだ。間を入れず嫌味を言う。

 何なんだこのいちいちムカつく野郎は。

 この状況に心底ウンザリしていると、突然5人は立ち止まる。

 気がつくと、俺たちはとある教室のような部屋の前に立っていた。扉の上の方を見るも、その部屋の名前が書かれたプレートは付いていない。そして本来教室と廊下を繋ぐはずの窓も、全て黒いカーテンで仕切られているため中の様子は全く分からない。

 こんなに締切って、中でお化け屋敷でもやってるのか?

 明らかに異質なその部屋に疑問を抱いていると、パッツンが身なりを整え始めるのが見えた。

 ツヤツヤの髪には天使の輪がくっきりと現れ、彼が前髪を撫でる度にその輪が歪んでは戻っていく。

 何やらソワソワとするパッツンとその他4人。

 もしかしてこの奥にあの「雅」とやらがいるってこと?

 そもそも俺はこんなに大人しく着いてきてよかったのか?こいつらは明らかに俺に敵意を向けている。ならこの後起こることも良い事のはずがない。リンチでもされてみろ。多勢に無勢すぎて話にならない。

 今からでも逃げるか?5人とも扉の向こうの人に意識を向けている。それに俺の腕を掴む力も数段弱まっている。

 こうして1人で脳内会議をしていたところ、突如としてギョッとするような高音の声が目の前で発せられた。

 「雅様!例の人を連れてきましたよ!」

 俺は自分の目と耳を疑った。

 え?本当に同一人物?

 先程まで俺を睨みつけ、悪口という悪口を言い放ってきたパッツンが、今やだらしなく緩んだ顔で猫なで声を出しているではないか。

 口角が上がり、切なげな視線を扉に向けている。その姿はまるで恋しい人でも見ているようだ。

 確認しなくても分かる。俺の全身に鳥肌が立っているはずだ。

 ちょうどパッツンにドン引きしていると、扉の向こうから力無い男の声がした。

 「入ってくれ」

 抑揚は無く、疲れきったような雰囲気だ。

 その一声を合図にパッツンが扉を開けると、電気もつけていない暗い空間が現れる。

 しまった、パッツンに気を取られすぎて逃げるタイミングを失った……!

 ハッとするも、既に遅かった。

 中から伸びてきた青白い手に掴まれると、俺は暗闇の中に引きずり込まれた。
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