尻拭い、のち、リア充

びやヤッコ

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ミッション 4

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 「揃いましたね!それでは帰還者の紹介と、指名タイムとなりまーす!皆さんこちらへどうぞ~」

 副会長の呼びかけにより、俺を含めた13人の帰還者と副会長を除いたS組の全員がステージの真ん中へ移動する。

 緊張するかと思ったが、案外客席は暗くて人の顔がはっきりと見えないため杞憂だった。

 「それでは1番早く帰ってきた方から紹介しますね!では自己紹介をどうぞー」

 「俺は3年B組の田中太郎たなかたろうだ」

 おおー、どっかで聞いたことあるなその名前!

 「平凡な俺だが、最近気になる人ができた」

 「それはいいことですね~!ズバリ、そのお相手とは?!」

 「3年S組!八重道一みちかず!」

 「おおっと!会長の名前が挙がったーー!」

 テンション高めの副会長の叫びが講堂に響く。

 「基本的に指名された側には拒否権がありませんが、どうしても嫌な場合は拒否もありです!さあどうします?!会長!!」

 マイクを口元に宛てがわれた会長は、「ああ?」と不機嫌そうに田中さんを睨みつけるも、しばらく悩んだ末に「……しょうがねえな」と言って受け入れた。

 「だが、お前の気持ちは受け入れねえからな!!」

 「はい!!よろしくお願いします!!」

 会話が成立してるんだかしてないんだか……

 そんなやり取りに会場には笑いが起こる。

 「では続いての方です!自己紹介をどうぞ!」

 「俺の名前は唐田剛からだつよし!3年E組だ!」

 これは体が強そうな名前だな。

 「体が強いのが自慢です!」

 うん、だろうな。

 「ほほ~、そんな体の強い唐田先輩は、誰を指名しますか~?」

 「俺は春夏冬みのる!あんたをいただくぜ!」

 いただくとか言うな。

 ドヤ顔で副会長を指名した唐田さんだったが、指名された当の本人は一瞬驚いた顔をすると、途端にダークスマイルを浮かべる。

 「ええ~、僕イケメンはウェルカムって言ったけど、先輩みたいな平凡顔で体しか取り柄がない上に頭まで悪い男はそんなに興味がないんだよねー。1ヶ月も一緒にいなきゃいけないのに、その相手がイケメンじゃないってもう苦痛でしかないじゃん……僕は何を糧にこの1ヶ月を過ごせばいいわけ……?」

 おいおい!辛辣!唐田君泣いちゃうって!

 さっきまでのアイドルのような笑顔はどこに行った!腹の黒さが全面に出てるぞ!

 何かを察したのか、会長が「ん゛ん゛」と咳払いをすると、ハッとした副会長は再び眩しい笑顔を取り戻す。

 「ごっめーん!ちょっと考え事してた!唐田先輩ですね、いいよ~全然!全然おっけー!全然!」

 いや取り繕い方雑!全然連呼しすぎて本心ダダ漏れ!

 心の中で収まらないツッコミに疲弊を感じる。

 なんなんだこの癖強学園……

 「はい、では気を取り直して、3人目の紹介です!どうぞ!」

 「は、はい!僕は2年C組の泉乃理久せんのりきゅうです……」

 もうツッコまんぞ……

 「理久君!お茶を嗜んでそうな名前ですね!」

 あんたがツッコむんかい!

 「そんな理久君は誰を指名しますか?」

 「えーと、2年S組の、白鳥凌香君を指名します」

 お?この名前は……

 そう思った瞬間、会場から1人の男の悲痛な叫び声が聞こえてきた。

 「やめろーーーー!!俺の白鳥凌香を取るなーーーー!!」

 「静粛に!」

 喚き散らかすその男は副会長の指示により、警備員のような人達に講堂の外へと連れていかれた。

 あいつってもしかしなくてもさっき講堂の前で話したやつだよな?……ドンマイ……

 「では静かになったところで、指名された白鳥君!この指名を受け入れますか?」

 マイクを渡された白鳥と呼ばれる生徒は、一瞬女の子かと思ってしまうほどの美貌で、絹のような長い黒髪が腰まで伸ばされている。目元に影を落とす程の長いまつ毛はまるで水面を叩く白鳥の羽毛のようで、その美しさに会場中がため息をつかざるを得なかった。

 「泉乃君ありがとう、よろしくお願いします」

 そう言って柔らかく微笑む姿はたおやかで、とても優しそうな印象を受ける。

 指名を承認され、泉乃君も安心したような表情で微笑んでいるのを見て、なんだか微笑ましい気持ちになる。

 白鳥君を指名したのがあのガサツそうな男じゃなくて良かった~

 そう思っていると、副会長が俺にマイクを向けてくる。

 「では4人目の紹介となりまーす!おや?この顔はどこかで見たことがありますね~!お名前を聞いてみましょう!」

 いじるな!

 副会長はニヤつく口元を手で隠しているが、目元が三日月のように綺麗な弧を描いている。

 俺はマイクを受け取ると、ため息をつくのを我慢して自己紹介する。

 「2年A組の片倉緒里です。悠里という双子の弟がいるのですが、間違えないようにお願いします」

 「これはこれは!だから見覚えがあったんですね~!」

 なんで俺だけいじってくるんだこの副会長は!

 「では緒里君!誰を指名しますか?」

 「俺はーー」

 そう言って黒永先輩の方を向いた瞬間、げんなりとする。

 そうだ、あの人もS組だったわ……

 黒永先輩のすぐ後ろで、番犬万喜先輩がものすごい形相でこちらを威嚇している。

 あの人って残念なイケメンだな……良い顔が台無しだ。

 俺が押し黙っていると、黒永先輩が微かに首を傾げる。

 なんで指名しないの?

 そう言っているような気がして、胸の辺りがギュンとする。

 ああ、それダメ!なんか可愛いから反則!

 黒永先輩指名したら十中八九万喜先輩にいびられそうだけど、もうどうでもいいや!

 「黒永先輩を指名します」

 そう言った瞬間、会場がどよめく。

 副会長も驚いた表情で「こ、これは!兄弟で晴仁さんの奪い合いか?!」と、とんでもない発言をする。

 それに反応した黒永先輩はギロリと副会長を睨んで牽制すると、マイクを奪い取って「うけたまわる」とだけ言った。

 「晴仁!」

 万喜先輩も不満そうな顔で黒永先輩に詰め寄るが、本人はすました顔で知らんぷりしている。

 会場内は黒永先輩の快い承諾によってさらにザワザワしていたが、俺はこれで一安心した。

 ようやくミッションを1つクリアした……あとは1ヶ月間先輩の平穏を守りながら一緒に勉強するだけだな。

 「いやー、まさかの展開ですね!面白くなりそうです!」

 面白くしようとしてるのはあんただろ。

 楽しそうに司会をする副会長に文句を言ってやりたい気持ちでいっぱいになる。

 後で覚えてろよ……

 今はとりあえず念を送って我慢するがな。

 「では続きまして、5人目です!おっと彼も有名ですね!」

 マイクが山迫君に渡される。

 「こ、こんにちは、2年A組のやましゃ……山迫かえでです。」

 噛んだな……

 ほんのりと顔が赤くなる山迫君に心の中で「頑張れ!」とエールを送る。

 「山迫君を知っている人も多いのではないでしょうか!この学園では希少な奨学生です!確か2年A組で成績1位なんだよね!」

 おお!まじか!

 そんなに成績がいいのにまだ上を目指すとは……すごいぞ山迫君……!

 「ではそんな成績優秀な山迫君は誰を指名しますか?」

 山迫君は視線を泳がせるも、最終的にはあの1年生のスポーツマン男子の方を向く。

 「えーと、、あ、浅葱君を……指名します……」

 そうこなくっちゃ!

 俺が喜ぶと同時に、浅葱と呼ばれたその男も小さくガッツポーズをする。

 「では浅葱君に聞きます!受け入れますか?!」

 「俺は1年生ですけど、高校3年分の勉強は全てできますので、任せてください!」
 
 「おおー!これは頼もしい!浅葱君はスポーツもできるので、2人で一緒にたくさんをしてみるのもいいかもしれませんね~!」

 おい、いらん発言するな。浅葱君はともかく、ピュアな山迫君で変なこと想像するな。

 ていうかこれからまだ8人もいるのか~

 もうこの変な空間から出ていきたい……

 そろそろ疲れが溜まってきた俺だったが、なんやかんや最後までステージに留まり、「それでは今期の期末祭はここまででーす!お疲れ様でした~!」という副会長の挨拶でようやくその場から離れることが出来た。

 全く長い一日だった……

 「明日からだね、頑張ろうね勉強!」

 「そうだな」

 純粋に勉強熱心な山迫君に癒される。

 良かった山迫君がいて。じゃないとこのカオスな空間は俺じゃあ中和しきれない……

 それにしても明日からか……

 1ヶ月毎日黒永先輩と一緒にいると考えると、謎の緊張感が全身に伝わる。

 楽しみのような、気が重いような……

 そんな複雑な感情に駆られながら、俺は講堂を後にした。
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