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悩み 1
しおりを挟む授業が始まり、学園内が静まり返った頃。
俺を含めた7人の集団は目的地へと向かっていた。
武装ゼロの俺を除き、それぞれの手には思い思いの武器を持っている。
山迫君・・・ほうき
パッツン・・・同じくほうき
雅様取り巻きーズ1・・・トング×2
雅様取り巻きーズ2・・・ちりとり
雅様取り巻きーズ3・・・水入りスプレー
雅様取り巻きーズ4・・・雑巾
「………………なあ、俺たちってこれから掃除でもしに行くのか?」
「はあ?そんなわけないじゃんアホなの?」
パッツンにほうきでどつかれる。
「武器にしか見えないでしょ」
いや?
「だよねー、トングで捕まえてやる!」
何を?
「俺だって雑巾で捕まえてやるし」
だから何を?
「ちょっと待て、ツッコミどころ満載なんだけど、とりあえず最終確認な。俺たちの目標の相手は悠里だけど、東も一応あいつ側ってことになってるから押さえつけるフリだけでもしといてくれ。メインは悠里だから、なるべくあいつが動く前に、こっちで動きを封じる。もしかしたらあいつはスタンガンを持ってるかもしれないから気をつけろよ」
「それはうも何回も聞いた。で?ついたらどうするの?」
パッツンが先を促す。
「部屋の前についたら、とりあえずおまえたちは壁に沿って隠れててくれ。たぶん誰が来たか確認されるだろうから。で、ドアが開いたら突撃」
「緊張するね」
そう言う山迫君だが、心做しか表情が明るい。
真面目な割にこういうことを楽しんじゃうタイプなんだな。
「大丈夫だよ、僕もほうき部隊だから任せな」
「そうだね!新君もいてくれると心強いよ」
「ま、まあそうでしょうね」
ほうきを持った2人が何やら可愛らしい会話をしているのを聞きながら、寮のエレベーターに乗り込んで俺と東の部屋のある12階へ向かう。
お掃除部隊(仮名)を引き連れて廊下を進むと、いよいよ目的地へと到着した。
俺が合図をすると、6人は息を潜めてドアスコープから死角となる壁に張り付く。
準備が整ったのを確認すると、俺は深呼吸をしてインターホンを鳴らした。
耳を済ませていると、中からこちらに歩いてくる足音が聞こえてくる。
この足音は……東か?
すると直ぐに、ドアの施錠がガチャリと鳴り、扉が開く。
目の前には部屋着姿の大男ーー東と、そして部屋の奥には金髪の男がいるのが確認できた。悠里だ。
「突撃!」
俺の声を合図に、ほうきやらトングやらを持った集団が一気に部屋の中に押し寄せる。
「え、何……」
呆然とする東をパッツンと山迫君のほうき部隊がほうきを使って取り押さえると、後方に続くトング、ちりとり、スプレー、雑巾の小物部隊が悠里を目掛けて突進する。俺もそれに続いて悠里のいるリビングに入った。
「うおーー!!」
「いけーー!!」
「悠里!来てやったぞ!」
「緒里?ちょっと待って、なにごと?」
突然のことに引き攣る悠里の顔に、容赦なく水のスプレーが振りかけられる。
悠里が顔を拭うその一瞬の隙に、俺はその手に握られていたスマホと、そばに置いてあったパソコンをひったくった。と同時に、すぐさま風呂場に直進する。
「緒里!返せ!」
俺の目的に気がついた悠里は血相を変えて追いかけようとするものの、その顔に再び災難が降りかかる。
ベチン!!
大きな音を立てて悠里の顔に叩きつけられたものは、なんと取り巻きーズ4が準備していた雑巾!
「はっはー!どうだ!!濡れた雑巾の威力は!!このビッチが!!」
もはやどっちが悪役か分からない。
「窒息死させるなよ!」
「ラジャー!」
俺は一声かけると、すぐに風呂場に入った。
「よし、ちゃんと風呂の準備はしてあるな」
パソコンに刺してあったUSBメモリを引き抜くと、スマホとパソコンを湯船の中にドプンと沈める。
どんどん水が入って壊れますように!
俺は手を合わせてお願いをすると、お風呂場から出た。
「緒里!まさか!」
「ブッ……ちょっと待って……」
リビングに戻って早々、悠里の姿に思わず吹き出してしまう。
仰向けで雑巾君に馬乗りされている悠里の両足はトングで固定され、片手はちりとり、もう片手はスプレー君が踏みつけている。
そして顔には絶えずスプレーで水がかけられ、髪からはシャワーでもしたかのように水が滴れている。
小物部隊つよ……
俺は悠里の目の前にしゃがんだ。
「今日はスタンガン持ってないのか?」
「ポケットから出す前に倒されたの」
スラックスのポケットを見ると、確かに何か四角いものが入っているのが分かるくらい盛り上がっている。
「俺のスマホとパソコンをお風呂場に持ってったけど、まさか水没させたとか言わないよね?」
「そのまさかなんだよね」
「ははっ……」
乾いた笑い声。どうやら悠里は怒りを堪えているようだ。
「で?黒永先輩の隠し撮りってどういうこと?おまえが撮ったの?」
「俺が簡単に晴仁さんに近づけるわけないじゃん。そのUSBメモリを見れば犯人が分かるんじゃない?」
「おおまえの協力者ってことになるけどバレていいのか?」
「別に協力者じゃない。取り引き相手。だから庇う必要もない」
「そう?なら後でじっくり見とくわ」
もうやる事やったしそろそろ帰るか。
そう思って立ち上がると、悠里がポツリとつぶやく。
「昔の緒里みたい」
「へ?」
「今日の緒里、昔の緒里にちょっと戻った感じがする。この強引で過激な感じ。晴仁さんと仲がいいみたいだけど、緒里にこんな一面があるって知ったらどうなるんだろうね?」
押さえつけられてもなお不敵な笑みで俺を煽る姿は実に悠里らしい。
だけどそれがどうした。
俺もニッコリ笑顔をお返しする。
「それはおまえの思い違いだな。戻ってないし、戻るつもりもない。ふざけるのも大概にしろ。また黒永先輩を巻き込もうとしたら、どうなるか分かってるよな?」
「こっわ~……分かったよ、しばらく大人しくしといてあげる。でもメッセージは返事してよね」
「……それはありえない」
それだけ言い残し、今度こそ部屋を出る。
東とすれ違った際は一瞬目が合ったが、お互いに関わりのない風を装った。
お掃除部隊を引き連れて寮の外に出ると、ようやく息の詰まる場所から開放された感覚がする。
「終わった~」
肉体労働を強いられたわけでもないのに、どっと疲れが溜まった気がする。
俺が伸びをすると、それを合図にお掃除部隊のみんなは次々と神妙な顔つきから気の抜けた表情となって疲れたオーラを放つ。
「ありがとうみんな、協力してくれて」
「全然!新鮮で楽しかったよ!」
やっぱり楽しかったんだね、山迫君。
「僕も仕方なくついてきた割にはビッチを成敗できて清々しかったから感謝はいらない」
「それにしてもビッチ兄のさっきの姿は悪役っぽかったね~」
「そうそう、特に押さえつけられたビッチの前にしゃがんでる時とか、無理やり借金の取り立てをするヤクザみたいだった!」
「それな~」
「おい、誰がヤクザだ!悪役なら濡れた雑巾を顔に叩きつけてる方がそれっぽいだろ!ああいう拷問あるよな?」
「やっぱり俺の雑巾が最強だったね」
「うん、否定はしない」
何はともあれこれで悠里の計画をもう1つ潰せたわけだ。今頃機嫌が悪くなって東に抱いてって迫ってるんだろうな。
東的には美味しい状況か。ほんとあの人も悠里に負けず劣らずヤバいやつだよな……
まあ俺には関係ないか。
「じゃあ装備を外して授業に戻りますか」
こうして即興の悠里の計画ぶち壊し作戦はお掃除部隊の活躍により無事に終了した。
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