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どうしよう。

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半月後、オーランドさんは遠征から戻ってきた。
大型犬が久方ぶりに主人に会えたような、全身から喜びと愛しさを発して俺の元へ足早に来る様に、その表情に真っ赤になってしまった。
俺、この人に告白されて・・・キスとか・・・あんな事もしちゃったんだ・・・
こんな嬉しそうな甘い顔、するんだ・・・本当に俺の事、好き、なんだ・・・
「・・・・っ」
うわ・・・どうしよう、顔が見れない・・・っっ 
今更ながらもの凄く恥ずかしいっっ

恐らく抱きしめようとしていたのだろうオーランドさんは固まってしまった俺に、腕を上げたまま止まり、やがて自分の頭を掻いた。
「お・・・お帰りなさい」
「・・・あぁ」

「・・・何だろうね。この空気」
「オーランドのそんな顔初めて見ました」
「煩せぇ」
救世主。2人ともありがとう。
「魔王様への報告はどうしました?」
「・・・今から行く」
ガシガシと俺の頭を撫でて、また後でとオーランドさんは魔王様の元へと去って行った。
以前と変わらずガシガシと撫でられた事に顔が綻ぶ。
「・・・イツキのそんな顔も初めて見ました」
「妬けますね・・・・」
矛先を向けられて焦る俺をレナルドさんが抱きしめた。
「私は魔王様と他国訪問に行ってきます。暫く会えませんが・・・変わらずにいて下さいね」
「気をつけて行ってきて下さいね」
頬に軽くキスを落としレナルドさんはオーランドさんの後を追った。
「さて、私も魔王様不在の間忙しくなりますし、家庭教師はお休みとなりますのでオーランドに頼みますね」
「え?」
「もう馬鹿な事はしないでしょうから、大丈夫ですよ。
 今のオーランドなら安心して任せられます」
「キーランさん・・・」
「次は遠征じゃなくて、手足を1.2本切り落としましょうかね」
「物騒な冗談はやめて下さい」
「冗談に聞こえますか?」
「冗談ですよね?」
にっこり微笑まないで下さい。微笑んでるけど、眼が笑ってないように見えます・・・
「その時は治癒魔法、見せて下さいね。・・・あぁ、もしかしたら不老不死にでもなってしまうかもしれませんね」
「はは・・・」
冗談に聞こえないです・・・




それから毎日、オーランドさんと過ごしてる。
剣術を見せてもらったり、料理を一緒にしたり、魔法・・・は置いといて、勉強したり。
体を動かす方が得意なオーランドさんとの勉強は、課外授業が多くて、まるで遊んでいるようだ。
古くからの遺跡を見て歴史を教わりながら魚釣りをしたり、苦く不味い薬草を教えてもらったり・・・とても楽しく、心地好い。

そこに以前になかった甘さが加わって、ふとした時に見せる表情に動揺してる。
触れる手が、もの凄く優しくて、大切に扱われるからどうしていいのかわからない。
口に出さなくても、眼が、仕草が俺が好きなのだと訴えてくる。
俺も・・・それが嫌じゃない。
傍にいてくれる事が凄く嬉しい。
「イツキ・・・」
でも、困った事が一つ
湖で散々口づけしたから、ここまではOKってなったんだと思う。
俺も・・・拒まなかった。
あれからも、時折キスしてる。
この時点でダメだろうって解ってる。
「ん・・・」
ほとんどは軽いものだけれど、時々深いのもあって、これをされると頭がぼうっとなってしまう。
「好きだ」
吐息のように囁かれて体が震えた。
俺は・・・
「そうだ、1週間後に亜人の国で祭りがあるんだが、行ってみないか?」
「亜人?」
半魚人とかの?まだ見たことない。
「人魚達の歌が人気で、求愛の祭典とも言われてるんだが・・・・」
少し目が泳いでるオーランドさんは照れてるのだろう。
また、知らない一面を見てしまった。
「行く。見てみたい」
嬉しさにへにゃりと笑えば、ガシガシと頭を撫でられた。




亜人種の国は初めてで、のんびり道中を楽しみながら俺とオーランドさんは亜人国に入った。
途中、ゴブリンに遭遇したけれど、友好的でいい人達?だった。
オーランドさんは少し苦い顔をしてた・・・ゴブリンはエルフが好きなんだとか。
・・・や・・・・やきもち? オーランドさんが? まさか・・・

入った亜人の国は本当に映画の世界だった。
半人の人達ばかり。
ちょっと怖いグールもいたけど、祭りの期間は殺傷厳禁となっていて、危険はないそうだ。
人魚達は一日中綺麗な歌声を披露し、シャボン玉のような薄い水球がふわふわ至る所に飛んでいる。
ピンクや紫色ばかりなのはムードを上げる為だろうか?
求愛の祭典というだけあって、愛を囁きあう人達が目に付く。
他人事なのに、その光景に照れてしまう。
何度か声をかけられそうになったけれど、オーランドさんが肩を抱いて歩くようになったら、恋人と見られたのか静かになった。
こ・・・・恋人・・・恥ずかしいっっ
緊張した俺に気づいてオーランドさんも軽く挙動不審になり、暑いだろうと飲み物を買いに行ってくれた。
他種族が入り混じる祭典、並ぶ面々の中、一際目立つ赤毛の美青年は周りの目を惹いている。
うん・・・恰好いい・・・惚れ惚れする・・・。
人込みもあり、屋台も混んでてなかなか進まないようだ。
「・・・・・・・」
オーランドさんの後ろの女性3人が先ほどから声をかけてる。
多分、人魚のお姉さん達。水から上がると数時間くらいは人の足になれるそうで、鱗がドレスみたいに体を覆ってて、セクシーで凄く綺麗な人達だ。
オーランドさんと並ぶと、とても絵になるお似合いの・・・・
「・・・・・?」
このモヤモヤは何だろう?
苦々しいというか・・・・胸がつかえるというか・・・・・チクチクするというか・・・・
オーランドさんは素っ気無い態度だけど・・・一人が耳元で何か囁いて、それにふわりと笑った顔に泣きたくなった。

嫌だ。

俺以外にそんな顔、見せてほしくない。
触ってほしくない。
見たくない。
ここにいたくない。
「ねぇ、連れが戻るまででいいからさ、俺と話そうよ」
グールが声をかけてくるのが遠くに聞こえる。
腕を持たれた時、オーランドさんと目が合った。
「あ・・・・」
俺の顔を見て何かあったと思ったらしく、オーランドさんが列を抜け戻ってくるのを、人魚のお姉さんが呼び止める。
「ご・・・ごめん・・・・先に帰る」
醜い感情に支配されるのを見られたくなくて、逃げるように俺は移転した。





神様・・・どうしよう。 俺・・・・



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