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人間×人間 軍人×騎士 ③
しおりを挟むイズミver
フィと結婚してから約一ヶ月。
何の接触も無いのは、俺に魅力や色気というものが無いからだろうか。
いつでも抱かれて良いように準備している俺が誘えば良いのだろが、もしそういう目では見れないと言われたら…というか、俺が抱いても良いのか?
いや、流石に体格差があるし、俺自身童貞だぞ?
上手くいくとは思えない。
やはり経験があるだろうフィに抱かれるのが安泰だろう。
されとて、手を出されない現状を打破出来る案も無い。
今日も今日とて一緒にお風呂に入り一緒の布団にも入ってしまったのに、抱き締められるだけでそれ以上の接触は無い。
おい、俺だって男だ、欲があるんだぞ。
まさかフィ、お前勃たないタチか?
いや、1人で慰めているのは見た時あるし、俺はそれをオカズに抜いた記憶も真新しい。
悶々と悩むがフィは既にスヤスヤと眠りについている。
この数秒で寝れる特技どうにかならないのか?
夜ほど欲が出やすい時は無いというのに。
…色欲より睡眠欲か?
三大欲求の振り分けが、俺とは全く違うのか?
ああ、本当に、今日も何も無いのか。
はぁ、と息を吐き出しベッドから這い出て窓枠に座る。
……戦争が終わった。
王国と帝国の紛争含める10年以上もの戦争は、この帝国の圧倒的勝利だった。
俺達4人は異世界から呼ばれた戦闘兵器であり、ただの肉壁でもあった。
その事実を変えたくて、この世界に呼ばれて5年の間に聖国を建国し多くの異世界人を保護して戦争の火種から守り続けた。
そう、たった5年だ。
5年、この世界で生きてきた。
安全だけは保証されていた国から、あの硝煙煙る戦場へ連れていかれ、無様にも挫折し泣き暮れた。
守ってくれる人なんて居ない。
奴隷紋の所為で命令違反を行えば全身に電気が走り、激痛を伴うそれを避けるために戦い続けた。
俺達は4人居た。
だから、支えあえた。
でも、他の異世界人は違う。
全く知らない世界から来た奴も、同じ世界から来た奴も、みんな一人ぼっちだった。
持った時もないボロボロの武器を渡され、戦う事を強制された。
そんな異世界人を保護しようと考えたのは、必然でもあった。
特殊な能力があったから。
それを扱う技術があったから。
他の奴らより強かったから。
人生を、諦めたくなかったから。
色々理由はあったけど、守りたくて…助けたくて立ち上がった気がする。
もう、異世界人達は元の世界で己等の人生を過ごし始めている。
俺達だけが、能力の代償に帰れなくなっただけ。
それでも良かった。
多くの異世界人を守るために必要な事だった…それだけだから。
だからこそ、生きている今を謳歌したい。
もう20歳もすぎた大人だけれど、若いことに変わりはない。
そう、だから。
俺のこの1ヶ月のモヤモヤを早く解放して欲しいのだ。
ダンっと強く床を蹴り部屋を出る。
ああ、イライラする。
悩んでも解消されない悩みなんて、初めて持った。
そういう意味ではフィは優秀だな。
屋敷の屋根に登り、夜風に当たる。
…結婚、とは、必要だったのだろうか?
ショウタは既に契りを終えている。
ミズチもウミノも、同様だ。
俺だけ…何も無い。
…顔か?態度か?性格か?
なにか特出すべきものがあれば…今更変えられないだろうが。
『ダサいな、俺』
たった、これだけの事を、悩むなんて。
『感情を抑えるのは得意だ。全部、全部…押し留めてしまえば…フィへの好意も、この欲も、どうにかなるけれど』
キラリと俺の周囲で光る魔結晶を1つ掴み口へ放り込む。
『…殺す時以外で、感情を消すのは久々だな』
胸の中でジワリと魔結晶が溶けていく。
息を深く吐き出し、目を閉じる。
感情は要らない、要るのは冷静で無欲な俺だ。
何も求めず、全てを受け入れられる俺が要る。
『死ぬ事の無い程度の、呪いだな』
魔結晶は猛毒の塊だ。
それを飲み続けた代償が今の俺等の強さに繋がった。
ストン、と何かが胸の中で落ちた時、今まで抱いていたモノが薄れた。
「明日も、良い月夜なら、良いのに」
臭う土の香りに、雨だと予想する。
…雨の日は、フィはずっと屋敷にいる。
感情を消した今なら、目を合わせても何も思わないだろう。
…感情って、不安定なものだな。
もう1つ魔結晶を飲み込んでから、俺は部屋に戻った。
『『『イズミ??!!』』』
朝一番、いつものように朝食を取っていると、3人に詰め寄られた。
『何?』
『何?じゃないわよ!魔結晶飲んだ?!』
魔力の流れが見える俺達だからこそ気付けるモノもある…か。
『うん』
『うん、じゃないー、なんでー?』
『うーん…要らなかったから?』
『イズミのそういう所、良くないぞ。ちゃんと話し合わないと』
『んー、次からそうするよ』
『『今から!』』
『はいー、部屋にー、戻ってねー?』
『えー?』
3人に背中を押され、俺はフィのいる部屋へと戻る事になってしまった。
「って事で、話し合いに来たんだよ」
「よく分からないけど、イズミ何したの?」
頭を傾げるフィの横に座り、暖かいお茶を1口飲む。
「ちょっと悩んでて、答えが見つからないから、無理矢理消しただけだよ」
「何に悩んで、どうやって消したの?」
何時もより低い真剣な声色と顔に、噛んでいたクッキーを飲み込んでから口を開く。
「『契り』に悩んで、魔結晶で消したよ」
「何に悩んだの?」
ああ、日本語が通じないのってちょっと不便。
「『契り』っていうのは、まぁ、性行為の事だね」
眉間にこれでもかと皺を寄せたフィは俺の手を掴んだ。
「誰と誰の?」
「恋人もしくは結婚相手と自分だね」
抱き上げられ、膝の上に乗せられる。
俺、成人男性なんだけど…。
「…イズミ、したかったの?」
目を見開いたフィを見て、俺結構誘ってたつもりだったのに、と落胆しそうになった。
…未だ、感情が残ってる?
2つも飲んだのに?
厄介だな、これ。
「そうだね、昨日までね」
「…昨日まで?」
訝しげに眉を顰めるフィは、強く俺の両手を握りこんだ。
「魔結晶を飲むと、数ヶ月は持っていた感情が消えるから」
戦争の時は何の迷いも無く飲み続けた。
人を殺す為、痛みを誤魔化す為、迷いを無くす為。
俺等の不安定で未発達な精神と肉体を無理矢理変える為にも飲んだ。
大人の男に勝つ為の、純粋な力が必要だったから。
「…俺の事、好き?」
伺うような目は、昨日までの俺なら見つめられなかっただろう…恥ずかしくて。
「昨日までは愛してたよ?」
「今日は?今は?」
少し早口な問いかけに、頭を傾げる。
「嫌いではないけど、好きでもないかな」
「っ、あ、え?」
「特に、特別な感情は持ってないかな。2つ飲んだから、まぁ、1年ぐらいは気にしなくていいよ」
「な、にを?」
「俺の事、だけど」
当たり前だろう?
「なんで」
なんでって、俺だけフィを求めるなんて、意味無いでしょ?
フィが望む俺の姿は、きっと戦場に居た頃の俺だろうから。
「だって、フィ、面倒でしょ?1人で処理した方が早いし、男相手だと面倒だしね。気付かなくてごめんね、フィ。娼館とかは好きに行っていいから、気にしないし」
顔を真っ青にしたフィを見て、慌てて脈をはかる。
「ん?異常は無いけど…体調悪い?」
正常値より少し早いかな…でも、問題ない程度だし、疲れてるのか?
「イズミ、イズミ…ねぇ、嘘でしょ?」
縋るかのような目に、頭に疑問符が募る。
何か…困らせるような事言った?
「嘘?何が?」
「俺の事、好きじゃない?」
また、それ。
「うん、別に」
俺だけの一方的な欲を孕む感情は、要らないから消したのに。
何フィは愕然としてるの?
「…そんな…」
「どうしたんだよ、フィ?頭痛か?ちょっと休むか?」
俺の腰を掴んだまま離さないフィの頭を撫でてやると、蚊の鳴くような声が聞こえた。
「そんな、そんな…俺の、イズミが…」
「フィ?おーい、フィ?」
「嘘だ…そんな…」
俯いていた顔がこちらを見ると、俺は息を飲んだ。
なんで…泣いてるの?
「イズミ…イズミ!」
急に抱き上げられ、フィは俺を抱えたまま部屋を飛び出した。
「フィ?走ったら危ないぞ」
肩を叩くがフィはコチラに目もくれずどこかに向けて走っている。
思い立ったら吉日、ってやつかな?
ガァンッと壊れるぐらい大きな音を立てて扉を蹴り開けたフィは、部屋の中にいた3人に近付いた。
「元に戻してくれ!」
「ふぁ?」「んえ?」「なに?」
三者三様に反応し、3人は俺と目を合わせた。
「あー、話し合った?」
「話し合ったけど、何か納得してないんだよね」
俺、これどうしようもないよね。
「どこら辺に?」
「イズミが…俺の事…好きじゃないって…」
ポソポソと小さく喋るフィの頭を撫でてやるが、いつもの様に笑ってくれない。
『どこをどこまで消した?』
『全部。記憶以外』
全員の溜息を聞き、俺は目を瞬かせた。
『何だよ?』
『悩みの種、大きかったの?』
『どうだろう…俺の中では、って感じかな』
『っていうか、幾つ飲んだの?』
『2つ。でも、今でも不安定なんだ』
「2個?!冗談でしょ?!3つ目飲もうとか考えてないわよね?!」
「今は、別に。乱れ出したら飲もうかなって」
「はぁあ?!」
「イズミ、それは…ちょっと…」
ミズチの義憤とウミノの困惑そうな顔に、フィが顔を上げた。
「何か問題があるのか?戻せないのか?なぁ?」
「あー、待て待て。順を追おう。イズミは魔結晶を2個飲んだ。間違いないな?」
ショウタがコメカミを指で押しながらこちらを見て問う。
「ああ」
「フィレイはイズミを元の状態に戻したい、方法が知りたいって事だよな?」
「そうだ。早急に頼みたい」
『イズミは、元に戻りたくないか?』
『結婚した事に意味を見い出せなくても良いなら、どっちでもいい』
「それ、は…ちょっと…ああ、無理だな、これ」
頭を抱えたショウタと、
「うわぁ…ぁぁ、こっち見ないで」
顔を覆ったミズチと、
「無理ですー、絶対無理ー」
ソファにうつ伏せに倒れたウミノと、
「…イズミ…」
もうダム崩壊1歩手前のフィで、場はかなり混沌としている。
「もう、何なんだよ?良いじゃないか、今の俺だって。嫌いじゃないって言っているだろ?」
フィの顔を撫でながら、少しだけ気が乱れた事に眉間に皺が寄った。
「好き、とも、愛してる、とも返してくれないフィより俺の方が絶対意思疎通出来てるのに」
「「「「え?」」」」
シン…と場が静まり返り、俺はまたフィに抱き上げられ部屋を後にした。
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