if物語

ノーウェザー

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獣人×人間 ①

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獣人   「兎乃との」   ×   人間   「マサ」



「それで?実験動物として飼われていた人間を、どうするって?」


「薬物実験等により自我の無くなった個体は安楽死させるとの事です。一部の欠損個体も同様と伺っています」


「また一気に処理しようと…それで、他のは?」


「他の個体は一時的に保護し、問題の無い個体は里親の元へ行くよう手配した、と。問題のある個体は、それぞれ治療を進めていくと聞いております」


「治療、な。信用出来ないが、コチラ側がとやかく言う問題でも無いしな」


「それで、ですが。今回実験動物として成功個体と言われていた五体の人間のうち一体がココへ来ています」


「何故」


「どうやら、手を焼いているようで…」


「押し付けか」


「個体の名前は【マサ】。全ての実験で好成績を残し且つ自我を持つ特殊個体です。命令に反する事が無い為扱いには要注意との事です」


「要注意?」


「死ねと言えば死ぬそうですので、無闇な言葉は発せれないですね」


「簡単に自害すると?」


「実際この目で見てきましたが、アレは人の形をした機械、という表現が合う生き物でした。ああ、でも、そうですね。貴方様と気が合うのではないでしょうか?」


「は?」


「感情を上手く表せず、なのに言葉は饒舌。損得の勘定が早く、必要とあらば何者も捨てる事の出来る薄情的倫理観の持ち主という点では、そっくりかと」


「…お前、そんな風に思ってたのか」


「何事であろうと素直に生きると決めておりますので」


「開き直った、の間違いだろう。まぁ、いい。さっさと連れて来い」


「既にそこに」


「あ?あぁ、コイツか。おい、名乗れ」


「はい、マスター。No,662ロクロクニ、マサです」


「ナンバー?」


「はい、マスター。実験動物を識別する為の数字になります」


「マサ、は?」


「はい、マスター。個体名【マサ】は実験結果が良好且つ生存した際に識別名として付与されました」


「そのマスターをやめろ。兎乃と呼べ」


「はい、了承しました。兎乃様」


「敬称も要らん」


「はい、兎乃様。実験動物は人に対して敬称を付ける事が義務付けられている為、命令に従えません」


「はー、面倒だな。いいか、マサ。お前の主は俺だ。俺の命令がお前の全てだ。義務よりも俺の言葉を優先しろ」


「はい、兎乃様。全ての委任権を兎乃様に移行します。以降兎乃様を兎乃と呼称致します」


「マサ、手始めにお前の事について教えろ」


「はい、兎乃。実験開始から8年の個体になります」


「お前いくつだ」


「はい、兎乃。クローン体は現在9年稼働しています」


「クローン?」


「はい、兎乃。実験を効率的に行う為、細胞から作り出した生命体になります。クローン体に意思はなく、本体が全て管理しています」


「お前は、本体では無いと?」


「はい、兎乃。体がクローン体、思考が本体という認識で間違いありません」


「本体は何処にいる」


「はい、兎乃。本体は秘匿され現在位置が割り出せません」


「クローン体はいくつある」


「はい、兎乃。稼働個体が7体、非稼働個体が5体の合計12体です」


「全てお前が操っているのか?」


「はい、兎乃。稼働個体は全て管理しています。非稼働個体は今現在養育途中の為管理外です。命令とあらば稼働可能ですが、長く持たない為推奨しません」


「マサ以外のクローン体をここへ連れて来い」


「はい、兎乃。稼働個体のうち2体は実験中により移動出来ません。実験を中止し残りの5体と共に移動を開始します。非稼働個体のうち3体に接続完了。移動を開始します。非稼働個体のうち2体に甚大な欠損有り。移動出来ません」


「…いや、待て。非稼働個体の場所へ案内しろ」


「はい、兎乃。非稼働個体の移動を停止します。非稼働個体の位置へ案内を開始します。ここから直線で47m先です」


「…近くないか?」


「はい、兎乃。地下の実験施設に存在します」


「…いや、待て待て待て。地下だと?」


「はい、兎乃。実験施設は上階8階下階6階からなる高層的建造物になります」


「ここは実験施設ではない」


「はい、兎乃。元実験施設になります。6年前に手放された建造物ですが、地下は未だ稼働しています。地下4階以降は特別なルートでしか入場出来ません」


「案内しろ」


「はい、兎乃。案内を開始します」








「これが…クローン体の養育場所か」


「はい、兎乃。提案があります」


「言え」


「はい、兎乃。地下6階には特殊な装置があります。装置を使う事で本体の居場所を特定可能です。但し、クローン体マサは接続中稼働出来ません」


「他の稼働個体はどれ程で着く」


「はい、兎乃。3時間後になります」


「割出しにはどれほどかかる」


「はい、兎乃。推測になりますが、半時間程かと思われます」


「本体はいくつだ」


「はい、兎乃。現在17年稼働しています」


「人間なのだろう?」


「はい、兎乃。優秀な人間の種を体外にて受精させ製造された人間になります。クローン体と同じ培養液内にて養育された個体です」


「……どの程度、動ける」


「はい、兎乃。培養液外での稼働は出来ません。筋力が無く、食事等は全て管が繋がっており、機械で管理されています」


「……人間の扱いではないな」


「実験動物とはよく言ったものです」


「それにしても……地下にこんな規模の実験施設があったのか……」


「徹底的に調べたはずですが…こうなってくるとかなり大規模な組織が絡んでいる可能性もあります」


「マサ。お前は何処まで知っている」


「はい、兎乃。実験動物の供給、設備の点検及び改善、実験内容を決定する債権者等はそれぞれ特務としてに認められた者達が行っています」


「国?」


「はい、兎乃。実験は過去にある目的を持って行われていました。現在は過去のデータを踏まえた上での人間の限界突破を目的に行われています」


「限界突破……また古い技法を……」


「獣人に対して優位に立てる人間の作成が求められている為、国は多くの高位者を集め合法化しました。生まれた人間に人権を与えず、常に実験を行え且つ死ぬ事の無いクローン体を与えました。実験動物は命令無くして生きる事が出来ません。設備を止めれば簡単に死ぬのも、全て口止め程度の意味合いしかありませんが、それでも欲という物は抑えることは出来なかったようです」


「現時点で人間と獣人は同等でありながら、力だけで比べれば獣人が勝るのは世の条理ですから……それを変えようと実験している、と」


「面倒な……」


「…………時が来たれば、終わり見ぬ」


「マサ?」


「実験に終わりはあります。実験動物は物ではなく、自己判断を行える感情を持つ生き物です。目の前で欲をぶつける者達を見て生存してきました」





「実験動物、マサの本体を含む五体は既に独立が出来ております。人間を嫌うトーマ、人間を好むセレラ、獣人を想うミージュ、興味の無いコルト。マサは、実験動物の終わりを見届ける最終個体です」





「四体の人間は、既に管理を外れております。現在預け先に預けられているのは、優秀個体ではなく似せられた偽物です」




「戦争が始まります。人間四体が引き起こす小規模な物ですが、お気をつけ下さい。マサは、見届けるだけですので参加は出来ません」



「人間の限界突破は、死と隣り合わせ。寿命が短くその間は誰よりも冷酷且つ強者の存在になります。どうぞ、何の迷い無く破壊して頂いて構いません」




「その分、人間は抗います。生身の人間ですので壊れやすいですが、感覚が無く普通の人間には成り得ませんので悪しからず」





そう言って笑ったマサが手を上げると、爆音と共に地が揺れた。





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