if物語

ノーウェザー

文字の大きさ
38 / 74

人間×森人 ②

しおりを挟む



「どうして?」


静かすぎる森の中でポツリと呟いた言葉は、頭の中で何度も反芻される。


今まで、沢山尽くしてきた。


今まで、何だって叶えられる事なら叶えてきた。


望まれたままに、望むがままに。


なのに、返って来る物は全て上辺の物だけ。


右肩と左脇腹、左足が酷く痛み目に膜が張る。


いつもこうだ。


仲間だと言って、大切な人だと言って…俺はいつも最後に捨てられる。


ガンガンと鳴る頭と冷えていく身体に、俺はついに死ぬのだなと確信した。


今まで助かっていたのは運が良かっただけだ。


人は、いずれ死ぬ。


でも、死ぬなら…最後は…最後だけは、夢を見たかった。


幸せなまま、死にたかったのに…。


『貴方は、何故生まれてきたの?』


それは、貴女が産んだからだ。


『お前は、何で言う事聞いてくんないの?』


俺にも、出来ない事ぐらいある。


言い返せなかった昔の言葉が、ぐるぐると回りこんな時にばかり思い起こされる。


…結局、俺は利用され消費されるだけの存在だった。


見える空は曇天で、吹く風は冷たい。


……愛して、欲しかった…だけなのに。






愛して、欲しかった…けど、でも!


「あ、あっ…あぁ、はぁっ、あ!」


「ライ、気持ちイイね?」


何度も前を擦られ、後ろはギチギチにラティスのモノで埋まっていてずっと身体を快楽が走っている。


グチュリ、グチリと水音が響き、時折肌がぶつかる乾いた音も聞こえ、息が自然と上がっていく。


「ライ?ヨクない?」


後ろから抱き締められながら耳元で聞こえるラティスの声は、腰の辺りがゾワゾワとなる程心地良い低音だ。


「い、ぃ…あ、イイ、からぁ…ぁあ」


お腹に回されたラティスの腕に爪を立て腰を少し浮かせる。


ダメなんだ。


これ以上、奥は…おかしくなってしまう。


「ライ、逃げるの?ダメだよ」


引き寄せられ、生まれた小さな距離がゼロになる。


「あっ、あぃ…あぁぁ」


周りの人が言っていた。


ラティスは一途で愛が重いのだと。


だから、俺は喜んで食い付いた。


だって、だって…もう、これが俺に有る愛される最後の可能性だと思ったから。


でも、これは…重い、とかじゃなくて。


絶倫、というものでは…?


「あ、あっ、い、くぅ…ぅ、あ、は」


「ライ、上手にイケて偉いね。良い子だね、ライ」


優しい声と手に、ポタリポタリと涙が落ちていく。


もう足と腰の感覚が鈍くて、身体に真面に力が入らない。


「愛してるよ、ライ」


降ってくる言葉はどれも俺だけに向けられる甘美な物だと、脳が勝手に思い込みダラリと閉じきれない口から涎が零れた。






死ぬその瞬間、転生魔術を行使し記憶を保ったまま森人へと成り代わった。


森人は、森を守り森と共に生きる木を依代とした人だ。


依代の木が生きている限り呼吸のみで森人は生きる事が出来る。


肌の色は緑に近く、髪からは花や茨が見えるのが特徴だ。


木が無くなれば人と同じ生活を余儀なくされるが、気に入った木を見つけ依代とすればまた森人となれる。


気に入った木が必ず依代になる訳では無いし、そもそも木が死ねば森人も土へと還る者が殆どだからあまり知られていないけれど。


俺には、丁度良いかもしれない。


人は支え合わなければ生きていけないけれど、森人は一人でも生きていけるから。


まだ小さな手を見つめ息を大きく吸い込む。


生きる事は難しくない。


死ぬ事だって同じだ。


ただ、誰かに認めてもらう事が難解で、誰かに愛してもらえるのが難関なだけ。


もう少し大きくなったら森を大きくしよう。


依代を増やして、色々な魔法を使って暮らすんだ。


今まで、出来なかった事を…沢山、やってみたいから。






燃える森と騒がしく駆けていく動物達に、俺は膝から崩れ落ちた。


助けてやったのに…何で、俺の大切な物を奪っていくの?


傷だらけで死にそうだった人間を介抱し街へと送った数週間後、俺の依代達は全て刈られ火が落とされた。


森人の依代は魔力の伝達力が良いから、高く売れたんだろうな。


根こそぎ刈って好き放題する人間に、俺は恥じた。


俺も昔はこんな事を平然と行えていた人間だったんだろう。


…もう、たくさんだ。


もう、もう…何も期待などしない。


涙が落ち少しクリアになった視界に入ったのは、白い腕と黒い髪。


…依代が死んだ。


きっと今の俺の姿は、人間そのものだ。


土には還れない。


燃えた森の土には、還る事が出来ない。


…新しい森を創るか、既にある森へ行くか…どちらにしても、この体では、もう…。


新しい涙が頬を伝い地面を濡らす。


転生魔術を行使する前の、あの傷だらけの体へと変わっていき痛みが全身を襲う。


不完全な魔術だった。


でも、俺には…あれしか手がなかった…。


「っ、う…ぁ、ぁぁ……」


左手で何度も拭うが溢れ出る涙は止まる事を知らないかのように流れ続ける。


「っぐ、ぁあ……あ……ううゔ」


近くで燃えた木が倒れパチリパチリと音を鳴らしながら形を失っていく。


どうして、どうして…死ぬなら…森じゃなくて、俺が死ねば…。


「あああ゙……ぅう、ぐす、うぅぅ」


俺の森が…大切な…俺だけの、森が…。


依代では無かった木が何本も折れ、咲いていた花が火を纏い散っていく。


何も出来ない。


燃える森を見ている事しか、俺には出来ないのか…見送るしか、俺には…。


………。


この借りは、必ず返すぞ…「ーー」。


覚えていてやるよ。


忘れたりしない。


その優しく見せていた嘲笑うかのような顔も、あいつと同じ上辺だけの言葉を吐く声も、全部、全部…脳に刻み付けておく。






目が覚めると、何処かの部屋の中に居た。


……?


森の中じゃない…森の気配はあるけど、少し遠い。


起き上がるが痛みを感じず、怪我のあった場所を見ると綺麗に治っていた。


治療魔法?


それとも、怪我が癒える程眠っていた?


大きなベッドから出て光の射す窓まで歩き覗き見る。


人間の街?


多くの人間が往来し、規則的に並んだ建物の真ん中に大きな世界樹が聳え立っている。


世界樹の一部の葉が枯れている所を見るに、森人が近くに居なくなって何十年経ったのだろうか?


森人が居なければ、森の中でないこんな街中じゃ世界樹は永くもたない。


……実を付けてもいないし、魔力切れも目前か。


世界樹の加護を受けながら、人は世界樹を救う事が出来ない、唯の享受者達だ。


「ーー」の気配はこの街に無いし、警戒は不要か。


ガチャリと開いた扉の先には妙齢の女性。


「っ!起きられたのですね。すぐ医師を連れてきます」


笑った女性からは、森人に対する忌避を感じなかった。


……そういえば、依代を無くして人間の姿になっているんだったか。


視線をまた街へと移し、人の動きを観察する。


今更、俺を助けて何になるのか。


無駄な労力に、無駄な時間、無駄な費用。


価値の有るものならいざ知らず、力を失った唯の人など、捨ておけば良かったのに。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...