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ノーウェザー

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獣人×獣人 黒豹×雪豹 ①

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獣人(黒豹)   「黒夜くろや」   ×   獣人(雪豹)   「緋龍ひりゅう




とろとろとした微睡みの中、聞こえてきたのは懐かしい元気な声。


ユラユラ、ユラユラと尾が揺れ時折ピシリパシリと床を叩く。


謝る彼は、知らない匂いを纏っていた。


「ねぇねぇ、聞いてよ」


「なに…?」


「俺ね、番が出来たの。しかも王種だよ?」


「良かったね」


「それでね、緋龍にも会って欲しいんだ」


「どうして?」


「どうしても」


一度決めたら貫き通す彼、日向ひゅうがは、大きな尾を揺らして笑っている。


「夜?」


「うん。緋龍が起きたらいつもの店に行こ」


「分かった」


俺の尾を一撫でしてから横に寝転がった日向は、俺に抱き着き頭を擦りつけてくる。


「匂いつくよ」


「いいの。緋龍はいいって、言ってもらったから」


匂いに煩い王種が、ね。


まぁ、何でもいいけど。


欠伸を落として目を閉じる。


仕事が一段落したんだ。


少しの間お休みにしよう。






「この店のパンケーキはいつ食べても美味しいねぇ」


「そうだね」


パンケーキに蜂蜜をかけて頬張る。


メープルシロップでもいいし、チョコもいい。


フルーツやクリーム、カスタードを追加しても美味しい。


甘い物が好きな俺と日向は、色々な店を渡り歩いてこの店に行き着いた。


「お前達はもっと栄養のある食い物を食うべきだ」


「煩いよ。いいでしょ、好きな物食べたって」


「奢ってくれるなら話は別だけど?」


「金は払ってもらうぞ」


「じゃぁ要らなーい。ねぇ、緋龍。今日ね、俺の番以外にもう一人来るから」


「誰?」


「内緒ー」


楽しそうに笑う日向は、マスターに飲み物のおかわりを頼んでパンケーキを頬張った。


…誰だろう?


まぁ、会えば分かるかな?


目の前の焼きたてのパンケーキを冷めないうちに、と俺も頬張った。






パンケーキを食べ終え一息ついていると、不意に影が日向を襲った。


「待たせたな、日向」


「あ、蒼。やっと来たの?遅いよー」


だらしなく笑い尻尾をぶん回す日向。


なぁ、日向。


後ろの……。


「緋龍、この人が俺の番。狼の王種で、蒼乃あおのって言うの。蒼、こっちが緋龍。俺の大切な親友だよー」


「そうか。よろしく頼む」


「こちらこそ」


日向、違う。


そいつじゃなくて後ろの奴。


めっちゃこっち睨んでる。


誰だよ。


なぁ、此奴紹介するとか言わないよな?


「それでね!後ろの人が豹の王種だよ!雪豹の緋龍にピッタリな人でしょ?」


「…………うん?」


「豹の王種だよ!」


「あ、いや…そうじゃなくて…ピッタリって何?」


「番にどうかなって」


「いや、いい……不満が有る訳じゃないよ。俺、番とかあんまり興味無いだけだから」


「え、知ってるよ?」


「え?」


じゃぁ何故紹介しようとした?


「だって俺、紹介して欲しいって言われたから紹介しただけだし?」


「あ、そう。じゃぁもういいね」


「良くない良くない。まだ自己紹介してないじゃん」


「俺は王種を大体知ってるし、紹介して欲しいって事は俺の事知ってるんでしょ?十分じゃん」


「あ、そっか。じゃぁいいね」


「良くないだろう。緋龍、此奴は黒夜。黒とでも呼んでやってくれ」


「王種の渾名には決まりがあるでしょ?断らせてもらうよ」


「そうか、残念だ。まぁ、追追でいい」


何だ、追追って。


温かいココアを飲みながら、隣に腰を下ろした豹の王種を見やる。


……睨んでいると思ったけど、ツリ目だからそう思っただけみたいだな。


紹介して欲しいって、誰かと間違えた……っていうのは、おかしいか。


この国で雪豹は珍しいし……だともなればもっと珍しい。


「緋龍、と呼んでも?」


「構わないよ」


「緋龍は……甘い物が好き、か?」


「そうだね。甘い物が一番好きだよ」


「他には?」


「うーん…寝る事、かなぁ」


「寝る事が好きなのか?」


「一日の大半は寝てるからね。それで?本当に聞きたい事って何?長々と世間話をしに来た訳じゃないよね?」


「特に無い。緋龍に会いたかった。それだけ」


「俺に会いたかった?雪豹じゃなく?」


「何故雪豹?」


「豹の王種が雪豹を探しているのは有名だから」


「雪豹なら誰でもいい訳じゃない」


「……そう」


「探していた。ずっと…緋龍」


おい、誰かこの感動の再会みたいな空気壊してくれないか?


「緋龍、王種と顔見知りだったんだね」


「一方通行過ぎて俺は理解が追いついていない」


「会った時があるんでしょ?」


「昔の事なんて一々覚えてないよ」


面倒な事嫌いなのに、王種とか……ああ、有り得ない。


「んー、ねぇ、いつ会ったの?」


「六年前」


「あ、じゃぁ覚えてないや。緋龍、記憶無いから」


「記憶が無い?」


「五年前、緋龍死にかけたからさぁ」


「死にかけた?」


「まるっと一週間起きなかったらしいねぇ」


「焦ったんだからね?みーんな緋龍が死んじゃうって泣いて喚くからさぁ…寿命が縮むかと思ったよ」


腹刺された後刺した奴蹴り倒した所までは覚えてるんだけどね。


いやぁ、あん時は驚いた。


人ってあんなに綺麗に吹っ飛ぶものなんだなぁって。






「こら、人の足の間に入り込むな」


「グゥルルルル」


「獣化してようが関係無いだろ。本当、毎回人の足の間に入り込んで……楽しいか?」


寝転がり投げ出した俺の足の間に入り込むまではいいけど…片足潰されて何度痺れたか。


しかも癖が悪く股間の匂いを嗅ぎまくるし。


いい匂いがする訳でもなし、やめてくれないか?って何度言っても直りやしない。


ご機嫌そうなのはいいけど…重い。


「足痺れるから退いて」


「グルゥ…ルルルルル」


「もー、退いて。いい加減言う事聞かないと夜一緒に寝ないから」


その言葉にやっと退いた黒は、機嫌取りにか俺の耳を舐め出す。


「怒ってないから舐めないで。黒、やめてって言ってるでしょ。黒」


ここの所黒はずっと俺から離れたがらずベッタリだ。


前々から引っ付くのが好きな奴だとは思っていたけれど…あまりにも引っ付き過ぎだ。


そういえば、王種は発情期が有るんだよな。


その影響か?


「黒、発情期なら雌に種付けして来い。子供の一人や二人、作っておくに越したことはない」


頭を傾げた後、何事も無かったかのように俺に擦り付く黒に、大丈夫かと心配になる。


俺は今、確かに番だ。


候補は候補に過ぎず、番になれない者だって多い。


雄同士の番は更に少ないから、俺も別に今の関係を進展させようとは思わない。


だからこそ、俺の事は気にせず欲を吐き出しに行けと言っているのに…何故理解しない。


仕事中の俺の背中にのしかかり邪魔をする黒を一旦退け、黒の背中に乗りあげ仕事を進める。


触れ合ってさえいれば大人しい黒だが、今日は落ち着きが無い。


「黒。俺の仕事が一段落つくまで大人しくするか、何処かに出掛けるか、選べ」


離れたがらない黒は喉を鳴らしながら顎を床につけた。


どうやら此処に居る事に決めたらしい。






「それで?今日はヤケに落ち着かなかったが、何かあったのか?」


獣化を解かず今も尚耳や視線、尾が忙しなく動く様を見るに、何かあったのは間違いない。


「黒。言ってくれないと分からない」


「………ゥルルル」


「何だ回りくどい。新しく番候補が見つかったなら早くそう言え」


違うと言わんばかりに首を振る黒に、少し悩んで口を開く。


「番が見つかったのか?」


更に首を振る黒に、俺も更に頭を悩ませる。


「……成程。つまり、番にはなれない誰かを好ましく思った、と」


「グゥアウウゥ」


どうやらこれも違ったらしい。


誰かを想っているのは確かだろうに…誰だ?相手は。


「……取り敢えず人の姿に戻れ。話が出来ない」


本来であれば可能な会話も、今は何故か汲み取れない。


「………………」


人の姿になっても視線はウロウロと彷徨い、ほんの少し頬を染めた黒に、発情期だという仮定は確定へと変わった。


「……発情期、か…………」


黒はあまり性欲が無い。


童貞では無いだろうが…あまりこういう事に興味を持っていなかったからな…好みが分からない。


好みが分かれば適当に相手を見繕ったのに…。


「いつもどうしていたんだ?」


「あまり……こう、落ち着かないのは……初めてだ」


自分自身で反応を抑えられないほど本能が顔を出している状態か。


「……困ったな……仕方ない。黒」


黒の目を見て、俺は少し口角を上げた。


「俺で我慢しておくか?」


目を見開いた後、ほぼ満面の笑みを浮かべた黒は足早に俺を抱き上げ寝所へと向かった。






「嬉しそうだね、黒夜」


「ああ、それは勿論。緋龍が…ふふ…幸せだ」


「緋龍何したの?」


「えー?特に何もしてないけど」


本当に何もしていない。


あの後寝所で一緒に横になって寝ただけだ。


まぁ物凄くマーキングされ、ふやけそうな程一心に項を舐められ続けたのだが。






「……っ、ん……」


眠っている緋龍の至る場所を舐め、誰にも許していないであろう下肢を撫でる。


一度寝た緋龍は、緊急連絡音が聞こえたり寒くならない限り八時間きっかり眠る。


その習性を活かし、俺は何度も緋龍の孔を解こしてきた。


初めは指先さえ入らなかった孔は、潤滑油の力を借りれば俺の指二本を咥え込めるほど従順になり、俺は俺で前立腺を見つけるのも上手くなった。


これなら、本番で緋龍に痛い思いをさせずに済むだろう。


少し息を乱しながらも眠る緋龍の頬を舐め、孔から指を引き抜く。


緋龍。


俺の番。


あの日、俺を助けてくれた耳欠けわけありの雪豹。


もう、目を離したりしない。


少し濡れた緋龍のペニスを撫で、陰嚢を揉む。


雄としての役割を果たさずに終わるであろうコレは、俺がしっかり慰めてやろう。






「っ、あ……ぁあ……ん」


意識が無い時に比べギチギチな孔に、キツいと漏らせば更に孔が締まった。


緊張と羞恥が諸に伺える目は、視線が合う度に閉じられ逸らされる。


少しずつ逃げていく腰を追いながら逃げ場を奪っていけば、緋龍は息を詰まらせ俺の腕を掴んだ。


「く、ろ……そこ、やめろって…っ、ぅ…」


「ここが一番反応がいい。大丈夫だ、緋龍。痛い思いはさせないし、別に今日契約を終わらせる必要は無い。時間はたっぷりある」


「だから、契約はしないって…っ、あっ…」


「契約は必ずする。せずには緋龍を自由に外に出せない。他の誰かが横取りして行く様なんて想像もしたくない」


「ない、から…そんな、未来」


十分有り得る話だ。


緋龍は興味無いと言っていたが、周りから見れば顔が整っている。


この国では珍しい雪豹で、性格は穏やかだ。


そんな緋龍だからこそ、多くの訳あり達が慕い共にいる。


誰かに取られたって、おかしくない。


「黒?何して…っ、くろ?」


何度も緋龍の陰嚢を左手で揉み、右手の親指で会陰を押して緋龍の反応を伺う。


……あまり気持ち良さそうではないか。


やはり中の方が良さそうだし、後は……。


少し勃ったペニスと、毛が逆立った尾を交互に見る。


何方が、いいだろうか…?


「な、何処見て…っ、待て、待ってくれ」


焦る緋龍も悪くない。


何ならぐちゃぐちゃになって俺の事しか考えられないようにしてしまいたい。


そんな欲望が口から漏れたらしく、緋龍は逃げの一手を取り出した。


「無理、無理だっ、俺はっ」


毛が逆立ち普段より大きくなった尾がバシバシと虫を払うかのように揺れ叩きつけられ、ズルりと指が引き抜かれる。


「緋龍……逃げる姿も悪くないが、俺的にはもっと」


「黒の為に逃げてないからっ」


自分の為だと言って少しずつ俺から離れていく。


……何だか、気に入らないな。


ガシリと細っこい腰を両側から掴んで俺の元に引き寄せる。


「え、え?」


「何処に行くつもりだ」


遠慮無く指を差入れ腹側を擦りあげれば緋龍は高い鳴き声を上げ、それに気を良くした俺は何度も緋龍の弱い内側を捏ねくり回す。


「あ、やっ……あぁ、ん……んっ」


仰向けに寝転がした緋龍の腰を片腕で抱き、中を擦りながら目の前で揺れるペニスを舐めあげれば、緋龍の体が強ばった。


「ひっ、やだ、やだぁ……あっ、ぅう…はな、離して、やだって」


逃げようともがく緋龍は、気付いているのだろうか?


この行為が、もっと俺を誘っているのだという事実を。


契約しないなんて寝言は寝ていても言う事では無いと、理解させなければいけないだろう?






ゴロゴロと機嫌のいい喉の音が聞こえる。


まだ起きたくないと駄々をこねる体を何とか起こし辺りを見渡せば、獣化した黒が俺の尾を舐めていた。


……見る影も無いな…俺の尾。


少し尾を揺らせば、黒の細められていた目が開き視線が合う。


「随分機嫌がよろしいことで」


俺のこの枯れた声と鈍痛を伴う腰をどうしてくれるつもりだ。


「ああ、おはよう緋龍。起きて大丈夫か?腰、痛むだろう?」


「痛い思いはさせないと聞いたのだが」


「事後の事を忘れていた。今日は俺がしっかり支えるし手足になるから安心しろ」


「手足……ねぇ?喉乾いた」


「カフェオレを作ろうか?それともココアがいいか?」


「ココア」


普段なら見せないだらしない笑顔の黒に、ふっと笑みが零れる。


……男の俺に発情しただけでなく、契約まで終わらせてさ?


王種としての矜恃きょうじとか、無いのか?










    
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