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7話 影は潜み、深まる
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そのまますぐには目覚めそうにないザインから意識を逸らし、ルルシアはルナの方へと意識を集中させる。
「ザイン様……受け入れられないのも無理はない、か」
***
ザインが街へ出てから、すぐに魔導書を確認した。ルナは初めに、【魔術入門書-初級-】と題された本を手に取った。表紙の文字が分かる時点で自分にこの国の文字……恐らくデリクリシア語だろうか、それを読解することは難しくないのだと分かる。中を開いてみても、すぐに内容の理解が出来ないまでも、文字自体は理解出来ているので、読み込めばある程度は自分にも習得できるだろうと思う。
ルルシアに文字が問題なく読めることを伝え、次に【創世記が分かる本】を開く。こちらも文字は問題ない。
-とある神がこの地を創造し、世界が生まれた。その神を創造神と呼ぶ。創造神は初めに五つの神を生み出した。愛を司る神、鍛治を司る神、戦を司る神、芸術を司る神、そして、魔術を司る神。創造神は創造した地に生まれ落ちた人や魔物を神々と見守り、問題事が起きては手を差し伸べる日々が続いた。-
-魔術を司る神はマナの力を大精霊を生み出すことで育てた。-
-魔王は勇者によって討伐され、平和な世が訪れている-
ルナは一先ず、ページをペラペラと捲りながら目についた文を掻い摘んで読んでいく。
「ルルシア、これって本当のことなの?」
「ええ。人によって脚色されている部分もあれど、大まかな流れは……ただ、魔王誕生の辺りだったりは創造神様も神託を降ろさなかったからはっきりと描かれていないのね……参考になるわ」
ルルシアはルナにそう言いながらも考える。
(召喚術は創造神にのみ許された禁術……けれど、それが魔王の手に渡り、ついに人の手にまで渡ってしまった。それでも神の手を下したり神託を降ろさないのはどういうつもり……?)
ルルシアは魔術を司る神としての座に就いてから、まともに創造神と会話をしたのは召喚術についての問題を押し付けられたあの時のみ。実のところ、ルルシアは位の高い神では無かったために、創造神の力が具体的にどのようなものなのかを知らない。それでも、禁術に触れてしまった人々の記憶を消したり、召喚術の魔法陣自体を無効化することは簡単だろうと推測する。それでも何故創造神は自分にこの役割を押し付けたのか。ルルシアは創造神の意図が分からず一人考え込む。
その間にも、ルナはもう一冊の本に手を伸ばし……【古代魔導語の研究とその発展について】、その中身を目にする。
まるで英語を読んでいるときのような……若干の読みにくさはあれど、その言葉の意味が全く分からないわけでは無いような、不思議な感覚。
(意味は頭に入ってくるけれど、読み方までは分からないな……)
本を読み込んでいくと、古代魔導語は廃れた言語であると述べられている。……線文字Aとか、そういう未解読文字みたいな扱いなのか。とルナは理解する。そんな文字を正確にとはいかないまでも読めてしまっている自分がいることに驚きながらも、ルナは嬉しさを隠しきれない。
「これでザイン様の役に立てるかもしれない……!」
ルナはルルシアに古代魔導語が読めることを伝えると、そのまま魔導書を1から読み始めた。
(……ますます分からなくなってきたわね。今までザインが読んできた文献の中に異世界人のことは書いてあっても、彼らが古代魔導語の読解に優れていたなんてどこにも無かった。そもそも古代魔導語は魔術を正しく発動させるために必要な魔法なのに、どうして廃れたの?ああもう、こんがらがってきた!)
ルルシアは一人ため息をつくと、再び思考の世界に潜り込む。
(いくら魔術の発展のためとはいえ、異世界人というだけで説明できないほど彼らの能力は高い……自分で生み出しておいて、この土地の人間には期待してなかったってこと?はあ、どうザインに説明すればいいのよ、数十年も付き合わせてるのに……いや、でも読めるだけじゃ意味ないもの、ザインに蓄積された知識はホンモノ、ルナじゃ敵わないわ。ザインにも才能があるってちゃんと分かってる。それは伝えてあげなきゃ……うう、ザインなら大丈夫かしら……)
すっかり魔導書に集中しきっているルナを一瞥し、ルルシアは自らの神の器に意識を戻した。それから、辺りをぐるぐると歩き始め、神の世界の文献を漁る。
「こうなったら私もザインのために、徹底的に疑問を洗い出す必要がありそう」
そうして二人は魔導書を読み耽って……時は現在へと戻る。
***
「大丈夫、ただ少し時間が欲しいようです。彼の気持ちが落ち着くまで、そっとしておきましょう」
「そうだよね……ありがとうルルシア」
ザインが書庫のソファから転げ落ち、硬い床を枕にして身体を痛め起きるまで……それまでもう少し、ルナとルルシアはゆっくりとした時間を過ごした。
「ザイン様……受け入れられないのも無理はない、か」
***
ザインが街へ出てから、すぐに魔導書を確認した。ルナは初めに、【魔術入門書-初級-】と題された本を手に取った。表紙の文字が分かる時点で自分にこの国の文字……恐らくデリクリシア語だろうか、それを読解することは難しくないのだと分かる。中を開いてみても、すぐに内容の理解が出来ないまでも、文字自体は理解出来ているので、読み込めばある程度は自分にも習得できるだろうと思う。
ルルシアに文字が問題なく読めることを伝え、次に【創世記が分かる本】を開く。こちらも文字は問題ない。
-とある神がこの地を創造し、世界が生まれた。その神を創造神と呼ぶ。創造神は初めに五つの神を生み出した。愛を司る神、鍛治を司る神、戦を司る神、芸術を司る神、そして、魔術を司る神。創造神は創造した地に生まれ落ちた人や魔物を神々と見守り、問題事が起きては手を差し伸べる日々が続いた。-
-魔術を司る神はマナの力を大精霊を生み出すことで育てた。-
-魔王は勇者によって討伐され、平和な世が訪れている-
ルナは一先ず、ページをペラペラと捲りながら目についた文を掻い摘んで読んでいく。
「ルルシア、これって本当のことなの?」
「ええ。人によって脚色されている部分もあれど、大まかな流れは……ただ、魔王誕生の辺りだったりは創造神様も神託を降ろさなかったからはっきりと描かれていないのね……参考になるわ」
ルルシアはルナにそう言いながらも考える。
(召喚術は創造神にのみ許された禁術……けれど、それが魔王の手に渡り、ついに人の手にまで渡ってしまった。それでも神の手を下したり神託を降ろさないのはどういうつもり……?)
ルルシアは魔術を司る神としての座に就いてから、まともに創造神と会話をしたのは召喚術についての問題を押し付けられたあの時のみ。実のところ、ルルシアは位の高い神では無かったために、創造神の力が具体的にどのようなものなのかを知らない。それでも、禁術に触れてしまった人々の記憶を消したり、召喚術の魔法陣自体を無効化することは簡単だろうと推測する。それでも何故創造神は自分にこの役割を押し付けたのか。ルルシアは創造神の意図が分からず一人考え込む。
その間にも、ルナはもう一冊の本に手を伸ばし……【古代魔導語の研究とその発展について】、その中身を目にする。
まるで英語を読んでいるときのような……若干の読みにくさはあれど、その言葉の意味が全く分からないわけでは無いような、不思議な感覚。
(意味は頭に入ってくるけれど、読み方までは分からないな……)
本を読み込んでいくと、古代魔導語は廃れた言語であると述べられている。……線文字Aとか、そういう未解読文字みたいな扱いなのか。とルナは理解する。そんな文字を正確にとはいかないまでも読めてしまっている自分がいることに驚きながらも、ルナは嬉しさを隠しきれない。
「これでザイン様の役に立てるかもしれない……!」
ルナはルルシアに古代魔導語が読めることを伝えると、そのまま魔導書を1から読み始めた。
(……ますます分からなくなってきたわね。今までザインが読んできた文献の中に異世界人のことは書いてあっても、彼らが古代魔導語の読解に優れていたなんてどこにも無かった。そもそも古代魔導語は魔術を正しく発動させるために必要な魔法なのに、どうして廃れたの?ああもう、こんがらがってきた!)
ルルシアは一人ため息をつくと、再び思考の世界に潜り込む。
(いくら魔術の発展のためとはいえ、異世界人というだけで説明できないほど彼らの能力は高い……自分で生み出しておいて、この土地の人間には期待してなかったってこと?はあ、どうザインに説明すればいいのよ、数十年も付き合わせてるのに……いや、でも読めるだけじゃ意味ないもの、ザインに蓄積された知識はホンモノ、ルナじゃ敵わないわ。ザインにも才能があるってちゃんと分かってる。それは伝えてあげなきゃ……うう、ザインなら大丈夫かしら……)
すっかり魔導書に集中しきっているルナを一瞥し、ルルシアは自らの神の器に意識を戻した。それから、辺りをぐるぐると歩き始め、神の世界の文献を漁る。
「こうなったら私もザインのために、徹底的に疑問を洗い出す必要がありそう」
そうして二人は魔導書を読み耽って……時は現在へと戻る。
***
「大丈夫、ただ少し時間が欲しいようです。彼の気持ちが落ち着くまで、そっとしておきましょう」
「そうだよね……ありがとうルルシア」
ザインが書庫のソファから転げ落ち、硬い床を枕にして身体を痛め起きるまで……それまでもう少し、ルナとルルシアはゆっくりとした時間を過ごした。
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