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第3章

16 サウストリア(16) -ラナside

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 おかしいわ、、、何かが間違っている。

 ミュールの街は、とても美しいところだった。
 王都とは違い、高い城壁もなく、色とりどりの花の咲いた花畑が街を守るように広がっている。

 街の近くに来た時、女中頭のアン様に呼ばれて彼女がいなくなった。
 こう言う時、呼ばれた人は戻って来ないので、彼女が連れて行かれたのだと納得した。

 いなくなるなら彼の贈り物を返してくれればいいのに、持って行ってしまうなんて、最後までラナの邪魔をする本当に嫌な人だったが、これであの人がいなくなった。

 荷馬車の中で年上の娘達の話を盗み聞きしていると、この辺りでは、花畑で恋人街達が愛を交わすらしい。

 それはどんな感じだろう、誘われたら何と答えようと、ミュールの街でずっと待っていたのに、彼はラナの所に現れなかった。

 彼は贈り物が無くなったから気にしているのだろうか、それとも“赤の騎士”にラナを諦めろと言われたのだろうかと心配していたら、知らない間に嫌いな人が戻って来ている。

 それも下働きの男を連れて来るなんて、本当に嫌な人だわ。
 きっとミュールの街で、あの下働きの男と一緒にいたに違いない。

 ラナが心配していたのに気にもしないで帰って来たと思えば、下働きの男と仲良くしているなんて、なんて“ハシタナイ”んだろう。

 確かにあの人も綺麗な空色の瞳をしていてちょっと素敵だけど、ラナに声もかけて来ないのは、きっとあの人がダメだと言っているに違いない。

 それにラナには、彼がいるのだから、あの人には下働きの男がお似合いなのかもしれない。

 彼はいつもラナににっこり笑って「ありがとう」と言ってくれるので、ミュールの街では一緒にいられなかったけど大丈夫だ。

 もう少ししたらきっと私が本当は誰なのか気付いてくれる、そうしたら、彼もラナだけが大切だと言ってくれるだろう。

 それなのに、、、何かが間違っている。

 特別なのは私のはずだった。

 『お嬢様』と呼ばれるのは、あの人では無く私のはずだ。

 私はずっと昔から知っていたのに、本当の私を迎えに来てくれる事をずっと待っていたのに、、、

 綺麗なドレスを着て、大切にされるのは私のはずなのに、あの人が私のドレスを着ているなんて絶対におかしい。

 どうしてみんな気がつかないんだろう?
 空色の瞳の人も可愛そうだ、彼は下働きの人なのに、あの人の幼馴染で貴族だなんて、きっと騙されているんだわ。

 せっかく教えてあげようとしているのに、誰もラナの話を聞こうとしない。
 あの人がいなくなればいいんだわ、そうすれば、みんなきっと騙されていた事に気がつくだろう。
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