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泡沫
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汚い………。
汚い………。
綺麗………。
汚い………。
「弊社はデマンドに合ったソリューションをサプライし、
コアコンピタンスをコミットすることを約束します!
我々のチームにジョインしていただければ、必ずチャンスを差し上げます!
それをキャッチするかどうかは、あなた次第なのです!」
この人は汚い。真っ黒。
というか会場にいる人はほとんど汚い。
かわいそうに………。綺麗な人もこれらにまみれて染まっていくのだろうか。
私は今、会社説明会にいます。
さっきから頭の中で呟いているのはですね、
私、見えるんです。
ほら、あの話してる人の頭の上を見てみて?
ドス黒い泡が視えるでしょ?
あ、視えるのは私だけね。他の人は視えないみたい。
あの泡、子供のころから視えるの。
これについて三つ、分かったことがあるわ。
一つ目は、大きく分けて2種類の泡があること。
綺麗な泡と汚くて黒い泡。
白黒はっきりしているわけではなくて、水墨画のように濃淡がある泡。
二つ目は、綺麗な泡は若者、子供に多く、汚い泡は大人に多いということ。
小学校の時は泡が綺麗な子が多かったわ。
先生を除いて。
三つ目は、テレビ、ネット、写真、鏡には写らないみたい。
私の目を通して視えるわけだから、カメラのレンズ越しだったり、鏡越しだと視えないみたい。
だから、私自身の泡は視たことがない。
ちなみに、テレビに写ってる人の泡は多分真っ黒だと思う。
うん、視えないんだけどね。多分よ、多分。
でも、未だに黒くなる原因がわからないのよね。
就活セミナーの翌日、足取りは重かった。
「やっぱり私、就活に向いてないのかなー。」
大学の構内を歩いていると、一人の男の教授がベンチに座っていた。
「すごくきれい・・・。」
この大学にいる人の泡はほとんどが汚れているのに、この人の泡は
見たことがないくらい綺麗だった。
「ねぇ、そこの君・・・。何ジーっと見てるの?」
「ああ、ごめんなさい!あんまり綺麗だったので・・・。」
「綺麗・・・?ああ、この花のこと?」
彼が座っているベンチの後ろには、大きな花畑が広がっていた。
綺麗なのはあなたの泡・・・って言っても分かってくれないだろうな。
いいや、そういうことにしておこう。
「綺麗な花ですね!」
「ってか、こんなに大きな中庭、初めてなわけないでしょ。今更驚くこと?」
「うっ・・・。あ、あなただって何してるんですか?こんなところで。」
「ああ、今行き詰ってるから気分転換にな。」
「行き詰ってる?」
「どうしてもこの理論が解明できなくてな。前提が間違っているのか、
単に知識不足なのか、それとも・・・。」
「それとも・・・?」
「この理論自体が間違ってるのか。」
「・・・。」
彼はしばらく考え込んでいた。
その間に彼の泡は、墨汁を一滴垂らしたように薄く黒くなった。
「・・・あ!」
「どうした?」
「・・・間違ってる?」
「間違ってる?」
「多分・・・、思い込み・・・。」
「思い込み?なんでそんなこと・・・。
・・・あ!・・・いや、まて。ここれがもしもこうだったら・・・。
そうか!・・・わかったかもしれない。」
「本当?」
彼の泡は再び綺麗になっていた。
「ああ!これでうまくいくはずだ!え?なんでわかったの?もしかして同じ専攻?」
「い、いやぁ・・・。」
・・・これは言い逃れできないな。
彼の泡は綺麗だから、その綺麗さに免じて白状した。
と同時に就職の悩みも打ち明けた。
「・・・うーん。頭上に泡ねぇ・・・。ファンタジーのように聞こえるけど、
目の前で実践されちゃあ信じるしかないよね。
たった一回だからたまたまかもしれないけど。」
「もう嫌なんです。周りは泡が黒い大人ばかり。子供の頃の様に泡が綺麗な人がいないんです。」
「なるほどな。でも、そこはやっぱり妥協するしかないんじゃないか?
大人は全員黒い泡を持ってるのは当然だ、って受け入れるしかないんじゃないか?
黒い泡が嫌なら綺麗な泡があるところを探すしかないな。」
「あなたは大人なのに綺麗じゃない。」
「俺は一人で生きていけるから大丈夫だもん。それと、こう見えても科学者だからな。
科学者は公平に世界を見なきゃいけない。
・・・そうだ!
今うちの研究室で助手を募集しているんだが、よかったら俺たちと研究してみないか?
その能力が本当なら人類の進歩に必ず役に立てるはずだ。
どうだ?来てみないか?」
「ごめんなさい。・・・私、本当はやりたいことがあるんです。
周りの人に心配かけちゃ駄目だからって、無理して就活セミナーになんて・・・。
でも、もう大丈夫です。これで思い切って私のやりたいことをやっていきます!」
「そうか。頑張れよ。」
こうして、私は将来に向かって走り出した。
そして、一年後。
「みなさーん!今日から私たちのクラスの先生が増えまーす!」
「はじめまして!今日からこのクラスの先生になります!みんなよろしくね!」
「よろしくおねがいします!」
この保育園の子供たちはみんな綺麗な泡だ。大人たちとは違う。
もし黒くなったら私が守るから、安心してね。
「ちょっと先生、お時間いいかしら。」
「はい、園長先生!」
園長先生に呼び出されて職員室に入ると
そこには頭に真っ黒な泡を浮かべた先生達が待ち構えていた。
汚い………。
綺麗………。
汚い………。
「弊社はデマンドに合ったソリューションをサプライし、
コアコンピタンスをコミットすることを約束します!
我々のチームにジョインしていただければ、必ずチャンスを差し上げます!
それをキャッチするかどうかは、あなた次第なのです!」
この人は汚い。真っ黒。
というか会場にいる人はほとんど汚い。
かわいそうに………。綺麗な人もこれらにまみれて染まっていくのだろうか。
私は今、会社説明会にいます。
さっきから頭の中で呟いているのはですね、
私、見えるんです。
ほら、あの話してる人の頭の上を見てみて?
ドス黒い泡が視えるでしょ?
あ、視えるのは私だけね。他の人は視えないみたい。
あの泡、子供のころから視えるの。
これについて三つ、分かったことがあるわ。
一つ目は、大きく分けて2種類の泡があること。
綺麗な泡と汚くて黒い泡。
白黒はっきりしているわけではなくて、水墨画のように濃淡がある泡。
二つ目は、綺麗な泡は若者、子供に多く、汚い泡は大人に多いということ。
小学校の時は泡が綺麗な子が多かったわ。
先生を除いて。
三つ目は、テレビ、ネット、写真、鏡には写らないみたい。
私の目を通して視えるわけだから、カメラのレンズ越しだったり、鏡越しだと視えないみたい。
だから、私自身の泡は視たことがない。
ちなみに、テレビに写ってる人の泡は多分真っ黒だと思う。
うん、視えないんだけどね。多分よ、多分。
でも、未だに黒くなる原因がわからないのよね。
就活セミナーの翌日、足取りは重かった。
「やっぱり私、就活に向いてないのかなー。」
大学の構内を歩いていると、一人の男の教授がベンチに座っていた。
「すごくきれい・・・。」
この大学にいる人の泡はほとんどが汚れているのに、この人の泡は
見たことがないくらい綺麗だった。
「ねぇ、そこの君・・・。何ジーっと見てるの?」
「ああ、ごめんなさい!あんまり綺麗だったので・・・。」
「綺麗・・・?ああ、この花のこと?」
彼が座っているベンチの後ろには、大きな花畑が広がっていた。
綺麗なのはあなたの泡・・・って言っても分かってくれないだろうな。
いいや、そういうことにしておこう。
「綺麗な花ですね!」
「ってか、こんなに大きな中庭、初めてなわけないでしょ。今更驚くこと?」
「うっ・・・。あ、あなただって何してるんですか?こんなところで。」
「ああ、今行き詰ってるから気分転換にな。」
「行き詰ってる?」
「どうしてもこの理論が解明できなくてな。前提が間違っているのか、
単に知識不足なのか、それとも・・・。」
「それとも・・・?」
「この理論自体が間違ってるのか。」
「・・・。」
彼はしばらく考え込んでいた。
その間に彼の泡は、墨汁を一滴垂らしたように薄く黒くなった。
「・・・あ!」
「どうした?」
「・・・間違ってる?」
「間違ってる?」
「多分・・・、思い込み・・・。」
「思い込み?なんでそんなこと・・・。
・・・あ!・・・いや、まて。ここれがもしもこうだったら・・・。
そうか!・・・わかったかもしれない。」
「本当?」
彼の泡は再び綺麗になっていた。
「ああ!これでうまくいくはずだ!え?なんでわかったの?もしかして同じ専攻?」
「い、いやぁ・・・。」
・・・これは言い逃れできないな。
彼の泡は綺麗だから、その綺麗さに免じて白状した。
と同時に就職の悩みも打ち明けた。
「・・・うーん。頭上に泡ねぇ・・・。ファンタジーのように聞こえるけど、
目の前で実践されちゃあ信じるしかないよね。
たった一回だからたまたまかもしれないけど。」
「もう嫌なんです。周りは泡が黒い大人ばかり。子供の頃の様に泡が綺麗な人がいないんです。」
「なるほどな。でも、そこはやっぱり妥協するしかないんじゃないか?
大人は全員黒い泡を持ってるのは当然だ、って受け入れるしかないんじゃないか?
黒い泡が嫌なら綺麗な泡があるところを探すしかないな。」
「あなたは大人なのに綺麗じゃない。」
「俺は一人で生きていけるから大丈夫だもん。それと、こう見えても科学者だからな。
科学者は公平に世界を見なきゃいけない。
・・・そうだ!
今うちの研究室で助手を募集しているんだが、よかったら俺たちと研究してみないか?
その能力が本当なら人類の進歩に必ず役に立てるはずだ。
どうだ?来てみないか?」
「ごめんなさい。・・・私、本当はやりたいことがあるんです。
周りの人に心配かけちゃ駄目だからって、無理して就活セミナーになんて・・・。
でも、もう大丈夫です。これで思い切って私のやりたいことをやっていきます!」
「そうか。頑張れよ。」
こうして、私は将来に向かって走り出した。
そして、一年後。
「みなさーん!今日から私たちのクラスの先生が増えまーす!」
「はじめまして!今日からこのクラスの先生になります!みんなよろしくね!」
「よろしくおねがいします!」
この保育園の子供たちはみんな綺麗な泡だ。大人たちとは違う。
もし黒くなったら私が守るから、安心してね。
「ちょっと先生、お時間いいかしら。」
「はい、園長先生!」
園長先生に呼び出されて職員室に入ると
そこには頭に真っ黒な泡を浮かべた先生達が待ち構えていた。
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