5分で読める短編小説集 風刺編

あーく

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砂上の楼閣

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「きゃ~!すご~い!素敵~!」

「きゃ~!こっち向いて~!」

都会のど真ん中。黒塗りの高級車からビシッとスーツを決めた、若い男性が降りてきた。

彼は今話題の若手社長。化粧品会社の経営をしているらしい。

SNSで彼が宣伝しているのを見たことがある。

「私はこの先、化粧品業界で革命が起きると確信しています。今、毎日塗るだけで若さを保ち続けることができる化粧品を開発しています。

私はいつも女性の味方です。やはり女性にはずっと綺麗でいて欲しいですからね。」

馬鹿馬鹿しい。

こういう奴に限って口先だけだったりする。

彼がSNSに書き込むのはほとんどが告知で、彼が実際に何をやっているか、少なくとも僕は知らない。

僕にすらわからないものは当然、一般大衆がわかるはずがない。

具体的に何をしてるかわからない彼をなぜ「すごい」といえるのか。

そんなことを考えていると、その若社長のそばにモデルと思わしき女性が近づいてきた。

彼女は、大衆から黄色い声援が浴びせられていた。

「きゃ~!綺麗~!」

「きゃ~!こっち向いて~!」

そのモデルは確かにルックスが整っており、スタイルも抜群だ。

だが、それが何なのだろうか。

彼女はただそこに立っているだけだ。

なぜ彼女がもてはやされるのだろうか。

彼女をもてはやしたところで、自分も綺麗になるわけでもないのに。

「きっと、彼女は陰で努力しているに違いない」という人もいるだろうが、見えていない部分がわかるはずがない。

見せかけだけで努力をしないのは、いわば砂上の楼閣。ハリボテの城。

見た目で判断しようとすると、本物か偽物か区別ができない。

どうしてもその城の中身を見る必要がある。

それか、偽物は長くは続かないので、時間が経てば崩れてくる。

若社長やモデルが今後も成功し続けるかどうかは、今にもわかる。

しかしまあ、どうしてこんな見せかけだけの世の中が――

「お前そんなことはいいからさっさと準備しろ。もうすぐお前の出番だろ。」

「僕が言いたいのは、社長の関係者とか、モデルのスポンサーとか、その人をよく見ている人が『この人は素晴らしい』って言うのはわかるんだ。でも、詳しくもなんでもない一般大衆が——」

「わかったから!その話は後だ!」

「はいはい。」

前の人の発表が終わって数分後、僕の発表の番が回ってきた。

僕は今、数学会でとある重大な発表をしに来ている。

数学のある未解決問題を解いてしまい、そのことについて発表することになったのだ。

そのことで周りの人は僕のことを「天才」だとか言ってるが、冗談じゃない。

僕は「天才」という言葉が大嫌いだ。

「天才」と一言だけ放つことで「彼は天才だからできた。だから、自分にできなくても仕方がない。」と、努力が足りない自分に言い訳ができる。

僕だって並々ならぬ努力をしてきたんだ。

決して砂の城なんかではない。立派な城を築いてきたつもりだ。

色んな知識をかき集めて、加工して、発想というスパイスを少し入れてやれば、この問題は誰にでも解決できる。

この問題を解くことで何か世の中が便利になるかはわからないが、数学会にとっては重大なことだろう。

発表は何事もなく終わり、後日研究室へ向かうと、親友が待っていた。

「発表お疲れさん。」

「君が手伝ってくれたお陰だよ。」

「いいんだよ。それより合コンいかね?」

「いや、遠慮しとくよ。昨日の今日で疲れてるんだ。」

「だから息抜きにどうだ?頼む!人数が足りなくてさ!」

「うーん………。君には手伝ってもらったからなぁ、仕方ないなぁ。」

「サンキュー!」

こうして僕たちは今夜、合コンに行くことにした。

本当は人と関わるのはあまり好きではないのだが、友達の頼みだ。仕方ない。

合コンは居酒屋で行われ、親友の人脈によって人が集められていた。

案の定、僕はうまく話すことができなかった。

「こんばんは~!ミキで~す!慶早大学出身で~す!よろしくお願いしま~す!」

「は、はい。………こんばんは。」

「悪いね。こいつ口下手でさぁ!面白い奴なんだけどな!」

「へぇ~!そうなんだ!よろしくね!」

「………はい。よろしくお願いします。」

親友のお陰で話が弾んできた。

すると、お互い勉強していることを話すことになった。

「私ファッション関係を目指していて――あなたたちは?」

「………数学。」

「数学?へぇ~!私、数学は高校生で諦めたわ~!あれ難しいよね~!」

「こいつすごくってさぁ!誰にも解けない数学の問題を解いちまったんだよ!」

「ま、まぁね………。」

「………ふ~ん?」

「あれ?すごいと思わない?」

「………それって、何がすごいの?」

僕は心の中の城が一気に崩れた気がした。

自分でも答えが見つかっていないその問いに、そのショックも重なり、僕はただ黙っているしかなかった。
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